「横浜市で決めた自主規制値を超えたものは、小中学校など学校施設と保育園から3月末をもって、移管した」

 横浜市教育委員会教育施設課の石井課長は、「子どもたちのそばに置いてはいけないものを、本仮置場に移管を完了した」と胸を張った。

 東日本大震災後、横浜市内の学校や保育園などの教育施設内に今日まで保管・放置されていた放射能汚染物(汚泥・廃棄物や除染土壌)が、ようやく仮置場(以下、保管庫)に移管されたのである。

保管庫には、運びこまれたドラム缶やペール缶などが、ぎっしりと並べられていた(写真1)。

 4月12日の見学会は、子どもを横浜市内の学校に通わせている井上菜穂子さんが、市議会議員らに呼びかけて実現した。その移管場所になった汚泥資源化センターは、もともと埋め立て地につくられた工業団地の中にあり、横浜市の巨大清掃工場に隣接する場所にあった。

 7月10日には、この問題に昨年から取り組み、学校施設内からの移管を訴え続け、今回の保管場所設置の大きな原動力となった市民団体「神奈川・子どもを守りたい」(「学校・保育園の放射能対策 横浜の会」が発展、継承した市民団体)は、この移管に対して質問と要望書を提出した。

 学校では4校(学校名公開)、保育園では300園、放射能汚染物が埋め立てられたままになっているが、要望書では園庭に埋め立て放置されている保育園名を明らかにすることと、早期の移管を要望していた。

 首都圏の巨大都市である横浜市で、子どもたちの生活空間に放射能汚染物(汚泥等の廃棄物や除染土壌)が、長く保管・放置されていたこの問題。
ようやく教育施設外に保管場所が設けられ、移管が始まったが、なぜ校庭や園庭に埋め立てられたものが放置されているのか。今回はこの環境問題を追う。

●学校・保育園などの教育施設から移管

 これまで横浜市の教育施設に長く保管・放置されてきたのは、小学校の雨水利用施設や排水溝などから排出された「汚泥」と、校庭や園庭などの除染によって掻き出された「除染土壌」である。除染土壌は、マイクロスポット対応除去土壌と呼ばれている。

 横浜市では、校舎屋上に降った雨水排水を、トイレの洗浄水などに利用する雨水利用システムを一部学校で取り入れていたが、雨水が運んでくる土砂や葉などの有機物を取り除くために沈殿槽を設け、再利用に当たってパイプの詰まりなどをなくす工夫をしていたが、その沈殿槽にたまった沈殿汚泥が高濃度の放射能に汚染されていた。

 横浜市ではこの汚泥を定期的に抜き取り、堆肥等の素材としていたが、汚泥堆肥の基準である200Bq(ベクレル)/kg(1kgたり200Bq)を超えていたため、業者に引き取りを拒否され、汚染されていることがわかった。
この雨水利用システムを設置していた市立学校は43校あったが、その内17校では国による最高汚染濃度を示す指定廃棄物(8000Bq以上)が検出され、ドラム缶22本分となっていた。

 一方、現行の原子炉等規制法で定められた基準である100Bqをはるかに超える汚泥(3000Bq以上)の汚泥も26校で保管されてきた。これら汚泥は、指定廃棄物を含め「汚染廃棄物」として横浜市全体で43校、ドラム缶131本分がそれぞれの学校で保管されてきていた。

 保管場所は、学校ごとで異なり、プールなどの機械室であるポンプ室や倉庫、納屋などであったが、放射性の危険物質が保管されているという表示すらしていないところがほとんどであった。これまで教育委員会は、各校ごとに安全に保管されていると説明してきた。(汚泥はこのほかに排水溝から抜き取ったものもあった。


 汚泥を入れたドラム缶の上面の棒状の突起物は安全弁であり、発酵によって内圧が高まったときには外にガスを出すようにしていた。汚泥のように水分を含む有機系の廃棄物は、閉ざされた空間では嫌気発酵してメタンガスなどが発生し、これまでも堆肥化関連の施設などで爆発事故が起きている。そのために安全弁を取り付けていた。そんな危険なドラム缶が、子どもたちが生活する学校や保育園に6年間も放置されていたが、今回、これら汚泥・汚染廃棄物はすべて学校から移管された。しかし除染土壌は大半が移管されず、埋め立てられたまま残された。

 校庭や園庭が2011年の東京電力福島第1原発から飛散した放射性物質によって汚染されていたため、表土部分を掻き出し除染した。
その時にかき集めた除去土壌は、横浜市が独自に決めた基準によって、学校関係は17校分、保育園関係は9施設分が移管されたにすぎず、図表1で見るように、学校については4校、保育園については300園が校庭、園庭に埋め立てられたままになっている。

図表1:移管された汚染廃棄物等

     種別            施設数     保管量
(1) 雨水利用施設からの汚泥    43校    131缶
    (内指定廃棄物)       17校     22缶
(2)マイクロスポット対応除去土壌
     市立学校関係        17校    約3.2トン
     保育園           9施設    0.2トン
(3)その他 (目安値未満だが施設処理できなかった分)
     学校            12校    約5.4トン
     保育園           8施設    0.4トン

 移管されたものについて横浜市は図表1のように説明し、これらが今回、汚泥資源化センターに設置された保管庫に移管されることになった。放射能汚染物がこれまで6年間も学校施設内に保管・放置しされてきたが、昨年6月21日付神奈川新聞やテレビ番組『噂の東京マガジン』(TBS系)で取り上げられ、学校外への撤去を求める保護者を中心とした市民の署名が数千近く集まり、交渉の結果、ようやく移管することができた。これまで学校などに保管してきたことを「安全に保管している」と教育委員会は説明してきたが、新たな保管庫が設置され移管されると「子どものそばに置いてはいけないもの」だったことを明らかにした。

●汚泥資源化センター内の保管施設

 汚泥資源化センターは、JR鶴見駅東口から「ふれーゆ」行のバスに乗って約15分。終点にある、横浜市の焼却施設(写真3)とその焼却による熱を利用した温泉施設の手前にある。
保管庫は、敷地面積約100平方mの建設物である。

 この保管庫は、道路端の入り口からは全容は見えず、道路端から入って70~80mほどの開けた場所に、設置されていた。汚泥資源化センター内でも、外れた場所にあるため、同センターの職員でも傍に来ることさえないような場所である。その意味では、放射能汚染物を周辺に影響なく保管する場所としては、ある意味で最適の場所である。耐震性も考えた建設物であり、3200万円をかけてつくり、年間50万円の借地料がかかるという。それらはすべて東京電力に請求することになっている。


 保管庫は、同じ屋根の下で2つの保管場所に区切られている。左側は、指定廃棄物の保管場所であり、これは環境省が管理する場所である。日常的には環境省から委託されている横浜市が管理している。右側はそれ以外の放射能汚染物の保管場所である。前者は1部屋、後者は3つの部屋に区切られているが、それぞれに入り口が設けられ、相互の保管場所は内部でも遮断され、別の保管場所であることを表している(写真4)。

 建物に向かって左側の保管庫には、指定廃棄物(8000Bq/kg以上の汚泥)が保管され、これは現行の原子炉等規制法による基準の100Bqを80倍も超える高濃度の汚染廃棄物であるため、法律上も環境省が管理することが決められている。その数は17校でドラム缶22本分である。実際の管理は横浜市が行っているが、左右の入り口を分けているのは、管理が別であることをはっきりさせるための設計だと考えられる。容器はドラム缶(雨水利用施設内の汚泥・汚染廃棄物)、ペール缶(空間線量基準値以上)、プラスチックケース(空間線量基準値未満)の3種類に分けて収納されていた。

 右側の保管場所は、8000Bq/kg以下の汚泥を入れたドラム缶109本と、除染土壌を入れたプラスティックの容器などが保管されている。右側の入り口から中に入ると、正面と左右の3つの部屋に分かれ、左右にその109本が収納されていた(写真5)。正面には奥の壁に沿って棚が設けられ、この棚に写真のようにプラスチィックケースや、ペール缶に入れて保管されていた。なお除染土壌の中には、8000Bq/kg以上の汚染レベルのものもあった。

 保管場所の壁の厚さは、コンクリートで約23cmの厚さがあり、放射線の影響防止を考え必要とされる約22cmより厚くしていた。

 見学会を呼びかけた井上菜穂子さんは、子供を通わせている学校校舎内に高濃度の放射能汚染物である指定廃棄物が保管されたことを聞いた直後から、その廃棄物を学校外の安全な場所へ移管するよう求めてきた。

 今年1月には保管場所が完成すると聞き、学校に保管庫へ移管されたかどうか問い合わせたが、移管したかどうかさえ見せてもらえなかった。この見学会で移管されたドラム缶の学校名表示を見て、初めて移管を確認したという。改めて保管庫に収容された大量の放射性汚染物を見て驚いたという。

●なぜすべて移管しなかったのか?

 横浜市では、学校や保育園の教育施設外に移管することを求める署名(18団体約・5000筆以上)が提出され、保管開始6年後の今年3月末にようやく移管された。しかし、校庭や園庭に埋め立てたものは、依然としてそのまま放置されることが暗黙の前提になっている。横浜市は放射能汚染物の移管を公表しながら、この埋め立て処理の件は正確に説明していない。

 学校等に保管されていた放射能汚染物を移管するに当たっては、汚染濃度を測り、爆発の危険性などを考慮し、移管を行う基準が客観的に示されるべきである。ところが、そのような統一基準は示されていない。

「神奈川・子どもを守りたい」の川島みどり(仮称)さんは、次のように語っている。

「福島第1原発事故当時、横浜市には高濃度の放射性物質が風や雨に運ばれ降り落ちました。放射性汚染物は、雨水利用施設を使っている校舎の屋上だけでなく、校庭や園庭にも例外なく降り落ちました。そこで各学校では、教育委員会の指導の下に測定器(空間線量計)を使って地表面の高いところをチェックし、汚染度の高いところをかき出したのです。こうして集められたのが除染土壌で、各学校ごとにビニール袋などに入れて、保管してきました。

 その後、市はしばらく放置したあと、除染土壌の汚染濃度を直接図るのではなく、1cm離れて図る空間線量計で測り、『空間線量が0.59μSV/h(時間当たりマイクロシーベルト)未満なら安全なので埋める』という方針を示し、学校4校(校名は公表)と保育園300園(17年2月、保育園担当課長談)で敷地内に埋設しました。『埋めるのは不安』『埋める場所がない』などの理由でごく一部の学校や保育園では埋め立てず、施設内に保管していました」

「今回移管されたのは、その施設内に保管していたものであり、埋め立てたものは、ほとんど移管されていません。理由は、10センチ以上の土壌で被せ、その場所を測定すると安全だと確認されたからということです。しかし今埋め立てて安全だといっても、校庭や園庭は汚染物の埋め立て処分場ではありません。いつ子どもたちが掘り出したり、風雨にさらされ、天変地異によって露出し、放射性物質の影響を受けるかもわかりません。汚染物自体の汚染濃度を測るよう横浜市に求めてきましたが、市はその測定すら行っていないのです。」

 横浜市は、汚染物は、土壌をかぶせて埋め立てているから、地上は安全だとしている。子どもを通わせている親からすれば、放射能汚染物をなぜ校庭や園庭に埋め立てたままにするのかが心配になるが、何度その点を質問しても「これまでやってきたことに間違いはない」といったお役所的な答弁しか返ってこない。移管実施の基準をどのように定めたのかさえ、はっきりしないのである。

 横浜市の発表は図表1で示した通りであり、移管された放射能汚染物は前述の通りだが、この説明で欠落しているのは、今後も汚染物が敷地内に埋設されている保育園の名前と、その理由である。保育園は300園前後にも及ぶ。なぜ除染土壌を含め、全量を移管しなかったのか、大きな疑問が残る。現状で埋設処理した除染土壌といえども、なぜ保管庫に移管しないのか。現行の保管場所を見ても、2層、3層に保管することを考えれば、容量スペース的には保管が十分可能と考えられるが、そのような質問にも答えていない。

●素朴な疑問

 横浜市の市場小学校の室井克之校長はもともと理系の技術者であり、民間企業へ就職した経験を持ち、放射能汚染物の影響には、特に関心を持って、心配していたという。横浜市教育委員会が除染で集めた除染土壌を、学校施設内に埋め立て保管するように求め、その指導が行われたときにも、室井校長は「学校などの場合、管理の担当者が変われば、どこに埋め立てたのかがわからなくなる。放射性物質は半減期が数十年以上かかるものもあり、埋め立て保管すれば、学校施設の変遷のなかで、子どもが直接接触したり、放射線による影響を受けたりすることが心配なので、埋設処理を断り、学校施設内に保管を続けてきた」と言う。そのため、今回は移管対象になったが、その時に埋め立て保管していたら、今回の移管対象になっていなかったおそれがある。

 今回の移管に当たって、「神奈川・子どもを守りたい」が横浜市に要望しているのは、300園もの保育園に埋め立て処理を続けているのはどの保育園なのかを明らかにし、その上でその事実を保護者に話をし、すぐに移管してほしいという当たり前の内容である。

 1年前に東京都知事に就任した小池百合子氏がまず強調したのは、情報を公開して事実を都民に伝えることであった。また森友学園問題や加計学園問題でも、行政情報が廃棄されたり「怪文書」扱いされて、民主主義の基本となる情報公開が問題となった。横浜市でも放射能汚染物を教育施設以外に移管するための保管庫が設置されたのに、移管から取り残されるものがあることがわかった。

 横浜市長選が始まったが、この事実を明らかにし、すべての学校や教育施設から放射能汚染物を撤去するということが、新市長にも要請されることであろう。選挙戦のなかで各候補者は、今後の方針をどのように示すかに注目したい。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)