「わけがわからないよ」
この文章を見て「わけがわからないって、なにが?」と感じるのが普通。
しかし、これを見て『魔法少女まどか☆マギカ』のキュゥべえのセリフを、発音まで含めて思い出す人は、もう立派なまどマギスト。

いやほんと日常的な日本語ですよ。
だけどこの一言のセリフに、超特殊なキャラクター性が詰め込まれ、発声された一瞬で強烈なインパクトを与えるのだから、キュゥべえさんはすごい。
「僕と契約して魔法少女になってよ!」は、今となっては『まどか☆マギカ』を見たことがない人でも一度はネットで目にすることのあるほどに有名なセリフになりました。
 
『月刊ニュータイプ12月号増刊』は、まるまる一冊隅から隅まで、劇場版まどか☆マギカ特集です。
劇場版のカットが存分に掲載されているので、映画を見た人、見たい人にはこれ以上ないくらいの資料性の高い一冊なんですが……個人的にこの本で飛び抜けて面白いのは、キュゥべえさんのページです。
まどかをはじめとしたメインキャラが、それぞれ大きくページを割いて特集されているわけですよ。

劇中写真、印象的なセリフ、その解説、声優さんインタビュー。よくあるアニメ誌の基本形です。
ところが、キュゥべえさんは、もちろん写真と声優さんインタビューはあるんですが、ページ全体に渡ってセリフがびっちり敷き詰められている。
白い悪魔(仮)の赤い目玉が並ぶ中、ごん太フォントのセリフの数々が黒地に青文字で不気味に、そして淡々と載っているんです。一切解説なしに。
しかも、他の魔法少女たちはある程度まとめられたページで固めて特集されているのに、キュゥべえさんは前半と後半にわけて掲載されている。

もうね、読むまでもなく、ページの色合いと文字の数々と、赤い目玉だけで威圧感いっぱいですよ。

「よりにもよって友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ」
「この国では、成長途上の女のことを少女って呼ぶんだろ? だったら、やがて魔女になる君たちのことは魔法少女と呼ぶべきだよね」
「騙す、という行為自体、僕たちには理解できない」
「この宇宙のために死んでくれる気になったら、いつでも声をかけて。待ってるからね」

短いセリフから長いセリフまで、キュゥべえさん名言集とも言えるページが前半後半で、圧力をかけてきます。ずいっと。
特に102・103ページの見開きが気持ち悪いくらいすごい。こっちを向いているキュゥべえの顔がいっぱい並んでるんだもの。
こっちみんな!
これは編集・デザインした人に「まいりました」と言いたくなる素晴らしさ。
映画を見た方ならわかると思いますが、白地に赤目2つ、尻みたいな口の3つが並ぶだけで記号的にキュゥべえさんになるんですが、これが画面いっぱいに出て淡々と語るインパクトは、『魔法少女まどか☆マギカ』という作品が作り上げた一つの言語。
それを理解して、あえて一切解説をいれないキュゥべえさんのページ、本当にお見事。

え? なんで「キュゥべえさん」とさんを付けるかって?
それはキュゥべえ声優の加藤英美里がこう言っているからです。
「キャラクターとしても、キュゥべえがどんどん、もう「キュゥべえさん」とお呼びしたくなるくらい、タレント性を発揮するようになって(笑)。自分はそのマネージャーくらいの気持ちなんですよ」
お呼び、とまさかの敬語。

ぼくもそれに習って「キュゥべえさん」とお呼びしたいです。

この増刊号、キュゥべえさんのページ以外もかなり変わった作りになっていて、ただのフォトブックや解説集ではないくらい価値のある一冊。
幾つかポイントをピックアップしてみます。

1・スピンオフ作品との関連性もまとめられている。
『まどか☆マギカ』には、スピンオフ作品『魔法少女おりこ☆マギカ』『魔法少女かずみ☆マギカ』という2つの作品があります。
「魔法少女まどか☆マギカ」は終わらない! スピンオフ「かずみ☆マギカ」「おりこ☆マギカ」が面白い(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
『おりこ☆マギカ』は、まどか世界のパラレルのような、別の時間軸の物語。
ほむら達も出てきますが、内容は全く別物という変わった作品。
一方『かずみ☆マギカ』は、魔法少女の仕組みの設定だけは同じ、それ以外は全く異なっていてキャラクターも別キャラが描かれる作品。チーム戦があるのが特徴で、一見ほんわか魔法少女ものなんですが、ある意味まどか本編よりも陰惨な話になっています。
これらとまどか本編は別物扱いされることも多いくらい複雑なんですが、それを非常にすっきりと2ページでまとめています。
コミック既読の人も、未読の人もかなり参考になる相関図。おそらく3作品を総括したのは初だと思います。

しかしずらっと相関図並べてみると、ともに戦う作品じゃなくて、魔法少女達が殺しあう話なんだなあ、としみじみ実感。

2・新房総監督の映画雑談が読める。
様々な関係者のインタビューが読めるので資料性が高い一冊なんですが、何と言っても面白いのは、新房総監督の映画雑談トーク。これだけで2ページくらい使ってます。
それまどか関係ないよね?!という内容なんですが、新房昭之というクリエイターの根幹になっているものを知りたい人にはこれ以上ないくらい興味深い、ユニークなインタビュー。
個人的に好きなのは「がっかり・カーペンター」という単語でした。新房総監督お茶目だなあ。
ホラー映画、SF、特撮などに非常に精通しており、今回掲載されているインタビューの中でも、『エクソシスト』『サスペリア』のような楽曲を作中で使いたい、松本俊夫監督の『ドグラ・マグラ』はいい作品だった、などの話題がバンバン出てきます。
これが『まどか☆マギカ』の制作の根っこにあると考えると、なかなか興味深いです。
さらに新房昭之を知りたい人は、『新房語』という対談集がオススメ。

3・ニュータイプの『まどか☆マギカ』記事が全部載っている。
今までのニュータイプの『魔法少女まどか☆マギカ』記事が、2010年12月号からすべて掲載されています。
さすがにフルサイズではないですが、ぎりぎり文字が読める程度のサイズで載っていますので、今までニュータイプを買っていなかった人には資料として非常に貴重。
2011年2月号までは明るく楽しい、キュートな魔法少女世界特集……の皮をかぶっていて、3月号から手のひらを返したように少女たちの苦悩と闘いの物語を特集したダークな色合いになっているのが印象的。
そうよなー。マミさんがマミられる3話まで、かわいいかわいいで通してきて、そっからフリーフォールでしたもんね。放映当時が懐かしい。
インタビューページなども縮小版で載っているので、保存版としてぜひ。

今でもまだ入手可能ですが、雑誌増刊扱いなのであとあとまで手に入るタイプの本ではないです。
新作に備えて、早めに一冊手に入れておくことをおすすめしたい、まとめとしても、ユニークな切り口のまとめとしてもよくできた一冊です。
ところでキュゥべえって、ローマ字で書くと「KYUBEY」なんですね。
(たまごまご)