「モブ爆発まで ○○%」
本のあちこちに書かれたこの文字が、否が応にも不安を煽ります。
何の爆発だ、何のカウントダウンだ。

全く感情を表さない少年、「モブ」こと影山茂夫の中に何かが、溜まっていく……。
今非常に話題になっている『ワンパンマン』の原作者、ONEによるマンガが、『モブサイコ100』です。
 
表紙がかっこよいのですが、それで買うと腰が抜けるはずです。
作者ONEの描くマンガの絵は、上手ではない。
いろいろなところで絶賛されているマンガなので期待する人も多いと思いますが、開いて腰が抜けるほど。商業のマンガとは思えない域です。

ここでつまづいてしまう人がいても仕方ないなと思うくらいには異質です。
 
でもこのマンガ、読んじゃうんだよ。
続きが気になるヒキがおおい!とかではない。アクションバトルが息もつかせない!とかでもない。
今までのダイナミックな展開のマンガと明らかに何か違う。
淡々とした物語の流れ。
ギャグの詰まった話の展開。そこから蓄積し、一気に破裂する主人公の鬱屈。
『ワンパンマン』が友情も勇気も正義も何もかもをワンパンチでぶっ壊してしまうやりきれなさみたいなものを湛えているとしたら。
『モブサイコ100』はそういう無敵の力を持った超能力者が、感情をどう表現すればいいいか判らず迷走する話です。
答えなんて無いんですよ、超能力者なんてそもそも他にいないんですから。中学2年生ですから。

ここに描かれるのは世の中の理不尽と、その中でモヤモヤを溜める主人公モブ。蓄積していくストレス。
荒々しい絵の持つ勢いには、理屈で抗えない妙な力があります。
だから目が離せないのです。
 
主人公の「モブ」影山茂夫は、目つきが悪く寡黙、話すときは常に敬語のおかっぱ少年。
多々出てくるキャラクターの中で最も無感情に見えます。

でもそれは見えるだけ。実際は心の中で「恋をしたいな」など、いたってフツウの事を考えているフツウの少年です。
ただし、超能力者だということを除けば。
 
このマンガらしいところの一つが、超能力者であることを彼は隠していないのに、周囲はちっとも気に留めてもいない、ということ。
すごいことなんですよ。犬を浮かせたりスプーンを曲げたり除霊をしたりなんて朝飯前。

指先ひとつで幽霊なんてチョチョイです。表情一つ変えません。
けれども、特に誰かにチヤホヤされるわけでもない。話題にもならない。むしろクラスでは空気人間です。
モブ自体「青春>超能力」でありたい、と考えています。


彼をいいように使っているのが、インチキ霊能力者の霊幻新隆。
お金を取って、口先三寸でお客を騙しながら(騙せてないんだけど)除霊をしています。
モブは彼のアシスタント。時給300円。安い。
もちろん霊幻は除霊なんて一ミリもできませんので、除霊するのはモブになります。
この霊幻は、嫌われ者ポジションに当たるようなダメ人間キャラなんですが、このマンガにおいては非常に強力な導き手になっているのが面白いところ。
口から出るセリフも半分異常は信用なりませんが、一部は妙に核心を突いているんだもの。
「強大すぎる力は、使い方を誤れば己の身を滅ぼす。暴走しないようにオレがしっかり力のコントロールの仕方を教えてやるんだよ」
その後に入るコマに書かれた文字。
モブ爆発まで 22%
どういうことなの!? モブは霊幻のセリフがイヤだったの、それとも納得したの。

モブが100%になるのはこの本では一回だけです。
100%になると一旦リセットされて0%からまた蓄積されます。
100%間近の緊迫感もすさまじいのですが、0%の脱力感がまたとてもいい。
まるで中学生が射精したあとの賢者タイム。

パーセント数値が低い時は、どーでもいいような霊幻との日常が描かれています。ぼんやり、青春したいな、恋愛したいなと考えながら、ケータイで呼び出されて除霊の繰り返し。
しかし事件が起きるにつれて、彼のパーセンテージはどんどん高まっていく。人間不信も、世の中の理不尽な抑圧も、自分を利用しようとする色々な人達も。
モブ自体はフツウの青春したいだけなので、のらりくらりとしたキャラっぽく描かれています。霊幻や、彼を勧誘しようとしている脳感電波部の部長とかの激しいセリフやリアクションに対して、彼の淡々とした様子ときたら。
彼がこういう性格になったのには、超能力者でも注目されない自信喪失だけではありません。
そもそも超能力者である自分から超能力を取ったら何になるんだろう。
確かに自分は空気が読めない。じゃあどうすればいいというのだろう。
僕は、普通に成長したいんだ。
 
笑えない中学生の行き場のない、説明もできない悶々。
ONEの絵は確かに荒っぽいです。しかし、モブと周囲の温度差、圧迫される空気感、モヤモヤが爆発する様子を適確に表現するマンガ力があります。
それを伝える勢いがダイレクトに叩きつけられている。
昨日の記事にもあるように、『ワンパンマン』がジャンプの三大テーマへのアンチテーゼであるとしたら、『モブサイコ100』は育ちきっておらず、熱血にもなれなず、ヒーローにはなれそうにない、空気が読めないはみ出し者を描いた作品。
一歩間違えばモブは世界の脅威にもなりうるキャラなんですよほんとは。この「%」表示は彼自身が溜めているのか、はたまた彼が必死に押さえ込んでいるのか。
まあモブは特殊なキャラではありますが、彼の抱えている青春の淀みは、共感しやすい部分も多いです。
彼が次100%になるときどうなってしまうのか。気になってついつい続きを読んでしまう作品です。
マンガって、ほんとどこから心に伝わるか、分からないもんだなあ。

とても重要なこととして、ONE氏の作品『ワンパンマン』『モブサイコ100』ともに、無料で全部ネットで読むことができます。
これがほぼ同時期に、しかも同一作者で発売されているというのは非常に珍しい事態。
村田雄介の作画による『ワンパンマン』は「となりのヤングジャンプ」で、『モブサイコ100』は「裏サンデー」で連載されています。
全話です。だから1巻最初から、その続きまで見られます。無料で。
WEBマンガで無料公開後、次々削除して新作掲載、というのは多々ありましたが、完全掲載というのは稀。これで実際に『ワンパンマン』も『モブサイコ100』も売れているから、興味深い。
この形式でマンガが販売されるようになれば、読者にとっては非常にありがたいことです。実際全部読んだ上で、本当に欲しいから買う、という満足感もありますしね。やっぱり紙媒体欲しいしね。
『モブサイコ100』も相当書きなおされていますし、おまけマンガも載っているのでファンなら買って損はないです。
でも一番の魅力は「手元においておける」ということでしょうか。
これが紙媒体とWEB媒体のあり方として明確化されるのか。
内容だけじゃなく、売上の推移も気になる作品なのです。

ONE 『モブサイコ100』

(たまごまご)