プレゼント・デイ。プレゼント・タイム。
HAHAHA!
不気味な笑い声とともにその番組は始まったんだよ。
時は1998年、まさに世紀末。皆が世界に不安を感じ、インターネットの普及の新しい扉に驚き、歓喜とうさんくさい予感に世界中が戸惑っていた時代に「serial experiments lain」は放映されました。岩倉玲音という少女を通じて「リアル世界」と「ワイヤード」というネット世界を描いた、今にして思えば現在の状況を予言していたかのような、カルト的人気を誇る作品です。

この作品がBD化しました……と言っても最近は過去作品のBD化が非常に多いですね。「そんな驚かなくてもいいんじゃね?」と思われるかも知れませんが、この作品に関してはちょいと事情が違う。

BOXのパッケージ曰く「35mmフィルムからのHDテレシネを、全カットデジタル修正! さらにデジタルパート再撮影により全編HD24p化を実現!」したのです!

はい! ぼくには何を言ってるのか全くわかりません!
これだけは言えます。BDを見た瞬間衝撃を受けました。これは98年に流された映像と全く違う超絶画質だ、と。
放映当時、地デジなんてないアナログ全盛期ですし、DVDはビデオより超キレイだよねーなんて言っていたわけですよ。自分もDVDは買って何度も見ていた作品でしたので、今更BD化っていってもなーと考えていたのですが、制作者さんのブログを読んでいると、単なるアップコンバート版(デジタル処理で画面を引き伸ばして、ノイズを消してきれいにしたもの)と違うただならぬオーラがあることに気づきました。

serial experiments lain Blu-ray LABO プロデューサーの制作日記

大体の過去作品のBD化はアップコンバートがメイン、そこそこ結構キレイには見えるんです。
しかし「lain」BD化スタッフはアップコンバートで終わろうとしませんでした。
この作品、フィルム撮影とデジタル撮影の両方が行われています。まずフィルム部分。98年当時としては珍しく35mmフィルムで撮影していましたためフィルムの保存状態は良好。それを生かして、HDテレシネ(フィルム映画をテレビジョン信号に変換する作業)を全カットデジタル修正することで、元フィルムの画質を劣化させることなくHDデジタル化しなおしました。
少しややこしいのですが、フィルム→テレシネ→データ化という、撮影されているものの再撮影をしたと思ってください。
そのため本編のフィルムパートは保存されているフィルムの美しさをそのまま再現しているのです。

デジタルの方はTV地上波アナログ放映時の解像度、NTSCは640×480。これを1520×1080にする。いくらがんばっても引き伸ばすだけではボケボケの画像になるため、アップコンバートではなく再撮影を敢行! 一部問題のない部分のアップコンバートはありますが、ほとんどのシーンが処理しなおされていることで、見違えるほどきれいになっています。
普通は一つの作品のBD化のためだけにここまでの労力は払いません。しかしBD化でスタッフは画質に魂を注ぎました。
まさに、今までテレビでもDVDでも見たことがない「最もきれいなlain」の再誕生です。

この作品のBD、発売をするといってから1年延期しました。しかしファンの間ではBD化の苦労を知っていることもあって、応援の声が非常に高まっていました。「ぼくたちに最高のlain」を届けてくれ!と。
ついに発売されたBD−BOX。最高度に美しい映像と英語音声も収録した「lain」本編BD三枚、特典映像プラス伝説になっていた「ウェザーブレイク」を含むディスク1枚、入手困難になっているサントラとリミックス版CD二枚、現存するすべての設定資料を収録した316ページの本がついた決定版です。

アップコンバートBDでも問題がないのに、一切妥協せず、最大限にきれいな画質で作品を送り出そうとした姿勢に心から敬服! DVDを持っている方にも、「lain」を全く知らない方にもおすすめできる、作品愛の結晶のようなBD−BOXなのです。(たまごまご)