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今夜9話「火村英生の推理」少年Aの顔を暴きたい人々

2016年3月13日 11時00分 ライター情報:杉江松恋
「〈切り裂き王子〉ですね?」と言ったら、火村に嫌がられた。
「その呼び方はやめろ。ふざけすぎだろう」
「〈アポロン〉やったらええんか?」
「まだまし──似たようなもんだ」
『菩提樹荘の殺人』所収)

「臨床犯罪学者 火村英生の推理」第8話原作は「アポロンのナイフ」だった。前話の中でシャングリラ十字軍の信者たちを手にかける連続殺人者として登場していた少年が京都に現われ、火村の大家である時絵さんと接触した。今回はその彼の影がちらつく中で、男女の高校生が死体で発見されるという内容である。2人が発見されたのは離れた場所だったが、どちらも死因はナイフによる傷だった。美少年だという噂から「アポロン」「切り裂き王子」などのあだなをたてまつられた東京の連続殺人者が、この事件にも関与しているのではないかと囁かれる。

少年Aの顔を暴きたい人々


2013年に刊行された『菩提樹荘の殺人』は〈若さ〉についての言及があるという共通点を持った4作を集めた中篇集である。その中でも「アポロンのナイフ」は、正面切って少年法の問題を採り上げており、先行する「絶叫城殺人事件」(同題短篇集所収)などと同じ、同時代への批判的な言及を含む作品だ。ドラマ化はほぼ原作通りの展開で、原作では単なる無差別殺人だったものが、シャングリラ十字軍を対象とした処刑殺人になっている点、貴島朱美が偶然ながら事件に関わっている点、など細かい部分が違うだけである。

原作では、ネットを中心とした世論の高まりにも言及される。「社会防衛のためにネットに顔写真だけはアップしてくれ」という声、アポロンと呼ばれるほどの美形であるという噂からファンを自称する者が多数現われるという無責任な現象、そうしたものがノイズとなり、男女高校生の死の真相が見えにくくなってしまうのである。2016年に入って週刊誌が報道したこともあり元「少年A」の正体暴きが一気に加熱したが、本篇原作の発表年は2010年である。ちなみに〈アポロン〉の本名は坂亦清音、サカマタキヨネとサカキバラセイトの最初の2音は共通しているが、これは偶然の所産だろう。

2010年の時点で作者は「少年A」の仮面を剥がすことを切望する人々が出てくることをある程度予想していたように思われる(公器である週刊誌がそのキャンペーンに荷担することまでは予測できなかっただろうが)。ドラマは、原作のそうした批判的な姿勢を受け継いだ上でさらに「自分の犯した殺人は美しい」と主張する殺人者も否定してみせた。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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