日曜の終わりは「サザエさん」、大河ドラマ、日曜劇場で締めるのが日本人の正しい生き方という感じがする。
目下、大河をはさんだ「サザエさん」と日曜劇場、両方のスポンサー・東芝が東証二部落ちするかもしれないという大変なことになっていてひじょうに心配だが、2月19日放送回は「サザエさん」(話数不明)が13.5%、大河ドラマ「おんな城主直虎」7話が12.9%、日曜劇場「A LIFE〜愛しき人〜」6話が15.3%(いずれもビデオリサーチ調べ 関東地区)と、前の週から「直虎」はちょっと落ちて、「A LIFE」は上がったと変動があるとはいえ、3本とも調子がいい。
スポンサーの株価は落ちても視聴率は上がっていることも興味深い。
「おんな城主 直虎」「A LIFE」日曜のドラマ2本の三角関係を紐解き、菜々緒最強説を検証

「サザエさん」はともかく、2本のドラマを続いて観ていたら、ある共通点に気づいた。
菜々緒がどちらにも重要な役で出ていることと、メインの登場人物が、どちらも三角関係を形作っていることだ。これらの要素が2本のドラマをとっつきやすくしている。
菜々緒に関しては後回しにして、まず、三角関係について解説してみる。

超えられない階級格差を盛り込んだ三角関係 「おんな城主 直虎」


わたしのために争わないで〜♪ という歌があったが、三角関係は物語の花。
「おんな城主 直虎」は主人公・直虎(現在の名は次郎法師/柴咲コウ)と幼なじみで許婚だった井伊直親(三浦春馬)と同じく幼なじみの井伊家の筆頭家老の嫡男・小野但馬守政次(高橋一生)の3人が織りなす三角関係。

次郎と直親が家柄的にも気持ち的にも相思相愛で、政次だけが家柄的にも気持ち的にもわりを食いがちな位置づけ。7話で正次が「もう取りっぱぐれたくない」と偽悪的な言い方をしていたが、まんざら嘘でもなく、彼は常に損な役割に甘んじている。それは父(吹越満)の代からそうで、そこから脱却すべく父は井伊家を裏切った。それによって直親は10年間、国を追われ、次郎は出家することになってしまう。
物語は、10年経って直親が戻ってくるところから本格化する(5話)。

出家した次郎に代わり、井伊家を束ねていくのは、直親の役割。
政次は、幼なじみでありながら、階級的には下であることを改めて意識せざるを得ない。
父が裏切り者であるという引け目もあって、何かと卑屈になる政次。7話では、直親に、屈託のない瞳で、絶対に父のようにい裏切ることはないと信頼を寄せられて、あまりいい気持ちがしない。どうしたって、自分の宿命は変わらないからだ。
つまり「直虎」では、恋の三角関係というよりは、階級格差が際立って、よけいにじりじりする。

7話で、まんじゅうを子供と分け合うことと、食べずにおいてカビさせることと、どちらが国のためになるかという問答で、南渓和尚(小林薫)に食べてしまったらなくなってしまうのでカビさせるほうがいいと言われ、
次郎は自らそのカビたまんじゅうになろうと決意する。
男ふたりは、お家のために「女の喜びも悲しみも知らないまま」みすみすカビていくひとりの女(まんじゅうという喩えがなんとも)を見守っていくことになる。これもじりじりする。

ほのぐらい瞳をした高橋一生と、屈託ない笑顔のなかに10年泥水を飲んできたゆえの一筋縄ではいかないものをこめる三浦春馬。女性視聴者は当然眼福。そして、元々は家柄に恵まれた男と、埋められない階級格差に苦しむ男という設定は、男性視聴者でも共感できそうだ。

いわゆる太陽と月的な三角関係 「A LIFE 」


「A LIFE 」の三角関係描写はより王道だ。
「A LIFE 」も、家族経営の病院というある意味「家」を舞台に、ふたりの男が、院長の娘・深冬をめぐって、さながら太陽と月のような、「アマデウス」のモーツァルトとサリエリのような対称的な関係性をつくりだす。


海外の病院で修業し、10年ぶりに(「直虎」も10年ぶりに、三浦春馬が戻ってきた)日本へ戻ってきた、主人公・沖田(木村拓哉)。彼のいない間に、元恋人で病院長の娘・深冬(竹内結子)と結婚し、次期病院長の座を狙う壮大(浅野忠信)は、帰ってきた沖田にコンプレックスを抱いて苦しむ。病院も手に入れたい野心家だが、深冬のことはとても愛していて、でも過去、相思相愛だった沖田と深冬のことを拭い去ることができないのだ。

元々幼なじみの良き友であったのに、仕事と女、男としてのプライドのおきどころ、すべてを沖田に脅かされて、追い込まれていく壮大。
こちらも、男の感情を手厚く描いている。コネも学歴もなく、実力だけで生きている沖田に、壮大はよけいに敗北感を抱いてしまう。
「半沢直樹」や「下町ロケット」のように働く男のプライドの闘いを描いてきた日曜劇場だけはあって、男性視聴者にもアピールする。

どっちも菜々緒がすごい


さて、ここで菜々緒だ。
「A LIFE 」の菜々緒演じる実梨は、壮大の愛人であり、病院の弁護士でもある。壮大とはお互い欠けたものを埋めるように関係をもったものの、結局、壮大は深冬をとても愛していて、実梨はやりきれない想いにかられる。
「直虎」での菜々緒が演じる瀬名も、報われない役割だ。幼い頃、今川氏真の口約束を真に受け妻になれると思っていたが、なれず、売れ残ってしまった(いまここ)。
いずれ徳川家康の正妻になるが、やっぱり報われない結果になることは史実。
「おんな城主 直虎」「A LIFE」日曜のドラマ2本の三角関係を紐解き、菜々緒最強説を検証
『菜々緒スタイルブック』幻冬舎

実梨も瀬名も、ひじょうに聡明で、ものごとを鋭く見ているにもかかわらず、いわゆる女の幸せを得られない。
でも菜々緒の凛とした佇まいが惨めさを感じさせないし、意地悪を言ったり怒ったりしてもどこかユーモアもあって好感がもてる。
「A LIFE」も「直虎」も次郎の宿命や深冬の重病のことなど、けっこうしんどい部分があるのだが、菜々緒が出てきて、壮大にツッコんだり、深冬に嫉妬したり(ALIFE)、怒りの能を舞ったり、鷹の代わりにすずめを育てる家康をなじったり(直虎)するなど、ところどころでいいアクセントをつくりだす。菜々緒が出てくるとちょっと息抜きできる。

モデルだった菜々緒が「ファースト・クラス」(14年)の意地悪キャラと「サイレーン 刑事×彼女×完全悪女」(15年)で悪役とやってめきめき俳優としての才能を開花させ、いま、絶好調という感じがする。なんと、彼女、16年、「サザエさん」にも声優で出演経験があった。日曜の定番3つを制覇した菜々緒、最強である。

「世界に一つだけの花」の歌詞のように、どれもひとつひとつがきれいなのであって比べるものではないけれど、ふたつのドラマで描かれるそれぞれの三角関係と、それぞれの菜々緒の行くすえを楽しみにしている。
(木俣冬)