「はいどうも、武道館ーっ!」
今年1月から行われたグループ魂の全国ツアーのファイナル、日本武道館でのライブを収録したDVD&ブルーレイ「グループ魂の決勝戦!日本武道館」が発売された。

グループ魂。
読み方は、「グループたましい」(間違えて「グループだましい」というひとが多いので、気をつけて!)。7人組のパンクコントバンドだ。
ボーカルの破壊は、劇団大人計画の看板役者で映画「舞妓haaaaan!!!」やドラマ「マルモのおきて」の主演も果たし、さらにはコイケヤポテトチップスのコイケ先生やクイックルワイパーのクイックル博士などCMでもおなじみの……とまでいえばわかるだろうか。ハイテンションな役から狂気じみた役まで幅広くこなせる演技力を持ち、少年のようにかわいらしい見た目と色気のある声が特徴の阿部サダヲだ! 同じく大人計画所属でドラマ「木更津キャッツアイ」や映画「少年メリケンサック」などのヒット作を生み出した人気脚本家、最近は『週刊文春』の連載でいいパパぶりも見せているクドカンこと宮藤官九郎がギターの暴動を担当。ドラムの石鹸は、「少年メリケンサック」でモヒカンのドラマー役を演じ、子ども番組「みいつけた!」(キッズワールド)では、ぴっちりとした七三ヘアーに仲本工事風のスタイルで、子どもたちと唄って踊りながらイス取りゲームをしている、顔の四角い俳優三宅弘城。他には、ギターの遅刻(富沢タク)、ベースの小園(小園竜一)、大道具のバイト君(村杉蝉之介)、港カヲル(皆川猿時)が在籍。2005年には「君にジュースを買ってあげる」で紅白出場も果たしている。

「ファッション◯ルス武道館へようこそ!」
港カヲルが、モヒカンに極悪風メイク、スタッズのたくさんついた皮のベストと皮パン姿で登場した。原点回帰のパンクスタイルらしい。気合いは十分伝わるが、どう見てもプロレスラーにしか見えない(本人曰く、ブル中野)。ライブ恒例のすけべなMCに加えて、「おっぱい元気ー?」と聞かれたら、親指を突き立てて乳首の前に持っていき、「結婚、離婚」と言いながら指を交互に突き出すという変なコール&レスポンスをやらせようとする。最初は恥ずかしがっていた客席だが、促されているうちにジェスチャー付きでこたえるようになった。
「結婚、離婚……」という声が、会場全体に響き渡る。

スクリーンに画質の悪い映像が映し出された。
通行人の落とし物を拾ってあげた破壊が、落とし主のおじさんに「落としてんじゃねえ、落としてんじゃねえ!」とからんでいる。バイト君は、見ず知らずのおじいさんのヒゲの長さをメジャーではかったりとやりたい放題。グループ魂が結成された1995年の映像で、破壊、暴動、バイト君の初期メンバーが浅草で路上ライブを行っているのだ。サラサラヘアーでいまよりもシャープな破壊が、周囲をにらみつけながら唄っている。顔つきもそうだけど、とがっていて、どこか人を寄せつけないような印象。「若いなー」とにやけながらつぶやいてしまった。

ステージが暗転。ゴールドの光に照らされたグループ魂があらわれた。両手を大きく広げて下をむいていた破壊が、「ずるむケーションブレイクダウン」(2)のイントロに合わせて顔をあげる。右手にはもちろん、「魂」のロゴが入った青いスリッパ。
センターに置かれている「笑え!!」と書かれたカラーコーンや楳図かずお先生風のバイト君の衣装も気にならないくらいの風格を漂わせている。破壊が両手の拳をつきあげ、暴動が観客をあおり、バイト君とカヲルさんが飛びはねる。遅刻と小園も前に出てきたりと、1曲目から大丈夫なのか、というくらいのハイテンションだ。2曲目の「アイサツはハイセツよりタイセツ」(1)では、「オイ! オイ! オイ!」と早くも観客との一体感が生まれた。3曲目の「くるま売りたいな」と続くにつれて、会場のボルテージがどんどんあがっていくのがわかる。昨年15周年という区切りをむかえたグループ魂。このタイミングでロックの聖地、武道館でライブを行うというのは感慨深いものがあるのだろう。楽しんでやる!という気迫のようなものが、メンバーからも客席からも感じられた。

「こんばんは! グループ魂です」
挨拶のあと、破壊が客席を見つめて少しの間黙った。会場はざわつき、「破壊ー!」と声援が飛び交う。
「3階の奥の方の人に、もしかしたら泣いてるんじゃないの?って思わせるために黙っていました。全然泣いてません! 楽しいです!」
そう言いながらも、照明のあたりぐあいなのか、少し目が潤んでいるように見えた。
自分が唄わない曲のときには身体を左右にふったり、隣のひとと肩を組むようジェスチャーで指示をするなど、体をめいっぱいつかって客席を盛りあげる。顔を見ると、子どものようににっこにこしている。革ジャン&リーゼントでかっこよくキメている破壊が、素顔をのぞかせた瞬間だ。
曲が終わると、「やべーっ!」というように、そそくさとステージを去っていった。
すかさず暴動が、「すみません。本当は破壊さんいったんはけて、次のスタンバイをするはずだったんですけど」とフォロー。
えー、許す! だってかわいいもん。

アンコールでは、メンバーひとりひとりが笑いなしでファンへ感謝のことばを述べた。
「みなさんが、『わたしはグループ魂が好きだ』と胸をはって堂々と言えるようなバンドにはなりません。これからもちょっと恥ずかしい存在でいつづけようと思いますので、こっそり応援してください」(暴動)
「グループ魂ってご褒美だって思った」と語ったバイト君が、「ありがとうございます。宮藤さん」と言ったとき、目を潤ませながらも笑っていた暴動が、目をそらしてうつむいた。
出番前のステージ裏では大勢の観客を見て、吐き気をおぼえるくらい緊張していたという石鹸は、「最後どうなるのかなと思ったら、すげえいっぱい(お客さんが)いるでしょ。
もう、見ただけで泣きそうになって。ずっと泣いてたんだ」。楽しそうに演奏していた他のメンバーとは対照的に、石鹸の顔がしばらくこわばっていたのが気になっていた。そうか、あの表情は泣いている顔だったんだ。気づくと暴動も泣いている。
白い革ジャンを着た破壊がステージへと出てきた。メッセージ代わりのように「べろべろ」を唄う。魂にはめずらしく笑いの一切ない曲だ。シンプルなメロディだけに、歌詞が際立つ。「俺たちはバラバラだけど、ひとりじゃない」。聴きながら、冷蔵庫とガリガリのラクダは、やっぱり泣いちゃうんだなとクスッと笑ってしまった(この辺は、アルバム『1,2,3,4』をチェックしてみてください)。

小園が聞きおぼえのあるベースラインを弾く。
「TMC」だ(近くのカメラに向かって、破壊が舌をぺろっと出してピースをするところは必見)! 拍手をしていた手は上につきあげられ、ほほえみは歓声に変わった。そのまま「グループ魂のテーマ」(破壊17、小園1、暴動1)へと続く。感動だけじゃ終わらせない、パンクコントバンドらしくツアーの締めをかざった。

結成当時に比べて体型も変わったし、歌詞でネタにしているくらい体力も落ちたようだ。でも、観客を盛りあげ、魅了してくれるステージパフォーマンスは年を経るごとにパワーアップしていく。なにより本人たちが楽しそうなのがいい。15年前とはちがう、大人のパンク魂を見せつけてくれた。(畑菜穂子)

※()の数字は破壊がスリッパを投げた個数。投げているシーンが映っていないときもあり、マイクスタンドに残っているスリッパの数でも判断しているため、多少の誤差はご容赦ください
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