本の雑誌社の炎の営業・杉江由次さんによると、「2017年は『オブリヴィオン』を読むためにあった年」とのことである。私も今年当コーナーでご紹介してきた数々の本のことを思うとそう簡単に断言してよいのかとためらう気持ちがないではないが、認めよう。
私が遠田潤子という作家を知ったのは、2012年刊行の『鳴いて血を吐く』(KADOKAWA・文庫版は『カラヴィンカ』に改題)でだった。俗物で人の心を踏みにじることをなんとも思わないような父親と屈折した愛情を我が子たちに向ける母親のもとで育てられた兄弟・不動と多聞。ある日、父親の愛人とその娘・実菓子が同居することになる。実菓子は息をのむような美少女で、後に兄・不動の、さらに後には父親の妻となった女だった...。すごいものを読んでいると思いながらも息苦しくてたまらなくなり、最後まで読み通すことができなかった(どんな本でも最後まで読むことから「完読王」と呼ばれた私だが)。たとえ救いが待っていたとしても、途中あまりにつらすぎる物語というのが苦手である(おそらく子どもの頃にテレビで見た「母をたずねて三千里」あたりがトラウマになっている気が)。その後遠田さんは、「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫第1位」に輝いた『雪の鉄樹』(光文社文庫/杉江さん曰く「2016年は『雪の鉄樹』と作家・遠田潤子を発見する年」)や『蓮の数式』(中央公論新社)などを次々と発表され、現在に至る。
本書の主人公・森二が刑務所を出所する場面から、物語は始まる。森二は自分の妻だった唯を殺した罪で服役していた。出所にあたってはふたりの兄が迎えに来ていた。
4年前、森二は娘・冬香の目の前で唯を死なせた。出所後ほどなくして森二のアパートに現れた冬香は、「戸籍上の父親を見に来た」と言い、「私の本当の父親は誰なのか」と冷たく問いかける。現在は圭介に育てられている冬香は、誰からも腫れ物に触るような扱いを受け、心に深い傷を抱えていた。
誰もが傷つき、周りの人間を傷つけている。お互いを思いやる心はあるのに、それがうまく届かない。なぜ相手を思う気持ちが行き違うなどということが起こるのか。でも、現実にはこんなことはまったく珍しい事件ではない。というか、日常茶飯事といっていい。人と人とはすれ違う。
けれど、人と人とはやり直すことができる。互いを大切に感じる間柄ならば、仲違いをしても修復できる。亡くなった相手とはそれがかなわない。森二と唯が許し合う機会は失われてしまった。本書は登場人物たちの再生の物語である。一時は憎み合っていても、再びわかり合える可能性もある。森二の、光一の、圭介の、冬香の、そして沙羅の、過去を悔やみながらも少しずつ未来へ踏み出そうとする思いを受けとめていただきたい。
遠田潤子はエンターテインメント小説界の至宝である。『鳴いて血を吐く』/『カラヴィンカ』、今度は必ず最後まで読みます。
(松井ゆかり)
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