休んでも疲れが取れないのはなぜなのか。産業医の岩見謙太朗さんは「疲れには大きく3種類ある。
脳の疲労と体の疲労と、メンタル疲労だ。どこが疲れているのか、正しく診断して、それにあった回復方法を実践しないと疲れは取れない」という――。
※本稿は、岩見 謙太朗『ハーバード、ペンシルベニア、スタンフォード… 科学的に認められた 疲労回復大全』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■「疲れ」には種類がある
「ちゃんと寝たはずなのに、なぜか疲れが取れてない……」

朝起きたとき、そう思ったことはありませんか。
昔は少し眠れば、すぐに回復できたのに

疲れが油汚れのように体に染みついてなかなか取れない。

体が重く、頭がぼんやりする。

小さなことでイライラする。
「年齢のせいかな」

「体力が落ちたのかな」

「このくらいでしんどいなんて、自分が弱いだけなのかな」
そんなふうに、歳や体力だけのせいにしてしまう人もいるかもしれません。たしかに歳とともに体の代謝は落ちて疲労は回復しにくくなります。しかし、「科学的な疲労回復術」を身につけることによって、以前のように疲れにくく、効率よく回復できる心身を取り戻すことができるのです。
疲れたとき、多くの人は「とにかく寝よう」「週末にまとめて休もう」「コーヒーやエナジードリンクで乗り切ろう」と考えます。それで、一時的には楽になるかもしれません。
しかし、疲れの正体を見誤ったまま休んでも、体は本質的な意味で回復しません。
脳が疲れているのに、ただ横になる。

肩が凝って、体がこわばっているのに、ソファでだらだらする。

メンタルが張りつめているのに、休日に予定を詰め込む。
休んでいるつもりでも、これでは疲れは抜けません。むしろ、「休んだはずなのに回復しない」という違和感だけが積み重なっていきます。
■疲れの3種類
この本では、疲れを「脳の疲労」「体の疲労」「メンタルの疲労」の3つに分けて考えます。
「脳の疲労」とは、集中力や判断力が落ち、ミスが増え、頭が回らなくなる状態です。長時間の会議、メールやチャットへの対応、資料作成、マルチタスクが続くと、脳は少しずつガス欠を起こしていきます。
「体の疲労」とは、倦怠感、だるさ、筋肉の張り、首・肩・背中の重さなどとして表れる状態です。現代人の体の疲れは、激しく動いたことよりも、長く座り続け、同じ姿勢で固まり続けることから生まれやすくなっています。
「メンタルの疲労」とは、意欲の低下、イライラ、不安、ストレスの蓄積として表れる状態です。
人間関係、プレッシャー、将来への不安、責任の重さが続くと、心は安全モードに戻れなくなります。
■疲れは複合的
ここで大切なのは、この3つの疲労が、バラバラに存在しているわけではないということです。
脳が疲れると、集中力や判断力が落ちます。するとミスが増え、仕事が進まなくなり、自分を責めるようになります。そうなると、メンタルにも負担がかかります。
メンタルが疲れると、夜になっても緊張がほぐれません。眠りが浅くなり、翌朝も疲れが残ります。すると、体はだるくなり、動き出すのがおっくうになります。体がこわばると、呼吸が浅くなり、血流も悪くなります。首や肩が重いまま仕事をすると、頭も働きにくくなります。頭が回らないと仕事の効率が落ち、さらに時間に追われ、また休めなくなります。
つまり、疲れは一要素だけの問題ではないのです。

脳、体、メンタルが互いに影響し合いながら、総合的なパフォーマンスを下げていく。これが、「休んでも疲れが取れない」人の中で起きている悪循環です。
図表1は、この悪循環を表したものです。
疲れは、輪っかのようにつながっています。ですから、「寝れば治る」「気分転換すれば大丈夫」「体を休めれば戻る」といった一つの方法だけでは、うまく回復しないことがあります。
■まずは「疲れの種類」の診断をしよう
大切なのは、「いま自分は、どこが疲れているのか」を知ることです。病院で、原因を調べずにいきなり治療を始めないのと同じように、疲労の回復もまた、見立てから始まります。
頭が回らない人に必要なのは、気合ではありません。脳の負荷を下げる工夫です。
首・肩・背中が重い人に必要なのは、ただ長く寝ることだけではありません。体のこわばりをゆるめる方法です。
不安やイライラが続く人に必要なのは、予定を詰め込む気分転換ではありません。
自律神経を安心モードに戻す道筋です。
図表2に今の疲労が「脳」「メンタル」「身体」のどこからくる疲れなのかを簡単に見分けるためのチェックリストを作りました。自覚する疲れの症状から、自分の負担が3要素のうちどこに多くたまっているのかを見極めてみましょう。


■「休むこと」にも余力が必要
これまで産業医として、体調やメンタルのバランスを崩した多くのビジネスパーソンとの面談で向き合ってきました。
面談の現場で、疲労を軽視してメンタルや体を崩してしまったビジネスマンを何度も目にしてきました。
最初は、少し眠りにくくなる。朝起きても疲れが抜けない。いつもよりイライラする。このような些細な不調から始まります。
それでも、多くの人はこう考えます。
「忙しい時期だから仕方ない」

「自分が弱いだけだ」

「今は休めない」
そして、走り続けてしまう。
やがて、心や体が限界を超えます。
出社しようとしても体が動かない。涙が止まらない。眠れないのに、何もする気力が湧かない。その結果、休職に追い込まれてしまう方もいます。
そんな方々の多くが、あとからこう言います。
「もっと早く休めばよかった……」
でも、その時にはすでに、自然治癒力とも言うべき“休む力”そのものが落ちていることがあります。
心身ともに疲れきった人は、疲労から回復することすら難しくなります。眠ろうとしても眠れない。休日に何をしていいかわからない。休んでいるはずなのに、頭の中では仕事のことを考え続けてしまう。
■疲れ切る前に休もう
大切なのは、限界まで頑張ってから、倒れるように休むことではありません。疲れきる前に、回復することです。

科学的な休み方を身につけることは、仕事を続けるための重要なスキルです。

大切な人との時間を守るための土台です。

これからの人生を、すり減らさずに働くための戦略なのです。

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岩見 謙太朗(いわみ・けんたろう)

医師・産業医

労働衛生コンサルタント、株式会社いわみ産業医事務所 代表取締役。東京生まれ。北海道大学医学部卒。史上最年少で労働衛生コンサルタント資格を取得。日立グループ専属産業医を務める。その後、株式会社いわみ産業医事務所(https://iwamisangyoui-office.com)を設立。神奈川県を中心に、中小製造業など計20社以上の産業医を担当している。少子高齢化や人手不足が進む日本において、働く世代のメンタルヘルス不調の予防、労働災害防止、組織の生産性向上に取り組む。また、若手産業医の育成および労働衛生コンサルタント資格取得支援を目的に一般社団法人プライムエッジ(産業医600人の勉強会)を設立。代表理事として教育事業を展開している。著書に『ゼロから始める産業医の教科書』(中外医学社)、『ハーバード、ペンシルベニア、スタンフォード… 科学的に認められた 疲労回復大全』(実務教育出版)がある。


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(医師・産業医 岩見 謙太朗)
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