年金は原則65歳から受け取れるが、60歳からの「繰り上げ受給」や75歳までの「繰り下げ受給」を選ぶこともできる。では、結局何歳から受け取り始めるのが得なのか。
元市役所職員でYouTuberのみんなの給付金・補助金ちゃんねるさんの著書『元市役所職員ユーチューバーがガチで教える老後のお金の正解』(Gakken)より、一部を紹介する――。(第2回)
■国が年金の繰り下げ受給をすすめる理由
年金は原則として65歳からもらえます。ただし、受給開始を60歳まで早めたり(繰り上げ受給)、75歳まで遅くしたり(繰り下げ受給)することもできます。これを聞くと、「もらえるなら少しでも早くもらいたい」と、あなたは繰り上げ受給を希望するかもしれません。
でも、繰り上げ受給をすると、1カ月早く受け取るごとに年金が0.4%減り、年間で4.8%の減額になります。一方で繰り下げ受給をすると、1カ月遅らせるごとに0.7%増えます。1年間繰り下げると、年金が8.4%増えることになります(昭和37年4月2日以後生まれの場合)。
年金をもらうのを先延ばしにするとお得ですよ、この制度を通して国がそう言っているわけです。実際、国は繰り上げ受給をすすめていません。国の言い分は次のようなものです。まず、繰り上げ受給をすると年金額が減ってしまいます。
■繰り上げの損益分岐点は「80歳10カ月」
もし60歳から受け取ると24%の減額、つまり100万円受け取れるところが76万円になってしまう計算です。
損益分岐点は80歳と10カ月、これを超えて長生きする場合は繰り上げ受給をしないほうがいいことになります。長生きすればするほど損するのです。
次に、60歳以上で働きながら年金をもらうと、年金の一部あるいはすべてがカットされるからです。これを在職老齢年金制度といい、2026年4月からは老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額の合計で月65万円以上ある場合に年金が減ることになっています。
国は働いて収入のある人が年金をもらうことには消極的なのです。同時に、国は企業に60歳以上70歳未満の人を雇う努力を求めています。
つまり、こう言いたいのです。「70歳まで働いて、その間は繰り下げをし、将来の年金額を増やしましょう」と。さらに繰上げ請求後は、障害年金など一部の給付は請求できなくなります。障害年金とは、病気や怪我で一定の障害を負ってしまったときに支給される年金です。持病があるなど健康に不安がある場合は、繰り上げ受給をすると損をする可能性が高いのです。
そして遺族年金をもらえなくなることです。

■「66歳がベスト」って本当?
65歳以降は配偶者が亡くなると、遺族年金と老齢基礎年金の両方をもらえます。ただし繰り上げ受給をしていると、65歳前はどちらか一方しかもらえません。
受給開始を1年遅らせることで、もらえる年金が8.4%も増える。これをふまえて、「年金は66歳からもらうのがお得だ」と主張する人もいます。言い分としては、繰り下げ受給すると年金額が増えてお得だけれど、その間に健康を損なうなどのリスクも上がる。
増額されるのは1年後から(その後は1カ月ごと)だから、「1年繰り下げた66歳がベストだ!」というものです。具体的に見ていきましょう。収入によらず同じ額をもらえる老齢基礎年金を70歳まで繰り下げる場合を考えてみます。2026年度の老齢基礎年金の満額は、年間約84万7300円です。
これを65歳でもらわず70歳までの5年間遅らせると、0.7%×60カ月=42%増となります。84万7300円に増額率42%をかけると、年間約35万6000円増えることになります。この増額が一生続きます。
繰り下げ受給の良いところは、この増額率です。銀行に預けていたらほんのわずかの金利しかつかない時代に、繰り下げ受給をすれば1年間で年金が8.4%増えるわけです。
■年金額が増えると非課税の恩恵が減る
もし繰り下げをして、年金をもらわずに待機している間に心変わりしたら、待機をやめてもかまいません。中断してもとくに損はしないのです。待機を終了する場合、2つの選択肢が用意されています。
・繰り下げをやめた時点での増額率を適用して年金をもらい始める。これにより待っていた分だけ増えた年金を受け取れる

・65歳からの通常の受給額で繰り下げていた間の年金を一括で受け取る。このとき増額はされないが、65歳からの通常の年金額をもらうことができる

しかし、諸手を挙げて「繰り下げ受給を選びましょう」とはいえない事情もあります。繰り下げ受給にはデメリットもあるからです。
まず、税金や社会保障の負担が増えることです。繰り下げ受給をすると年金額が増えますが、年金額が一定より低ければ「住民税非課税世帯」として優遇を受けられます。年金額が増えるとこうした優遇を受けにくくなります。
たとえば、年金収入のみの65歳以上の夫婦の年金額が年間211万円以下、単身なら155万円以下が一つの目安です。
ただし、非課税世帯になる条件は各自治体によって少し違うので、自治体に確認してください。注意点としては、非課税世帯として認められるには、世帯全員が非課税でなければいけません。また、年金以外の収入がある場合は、計算は少し複雑になりますのでここでは割愛します。
■繰り上げでも手取りの差はわずか30万円
計算してみます。
年金額の額面が年間200万円の人が通常どおり65歳からもらうと、税金と保険料を引いた手取りは約178万円です。一方、60歳から繰り上げ受給すると額面は24%減の152万円ですが、65歳以降は控除額が増えるため手取りは約148万円になります。65歳受給との差は、30万円しかありません。
さらに非課税世帯になれば、いろいろな給付金や補助金が受けられるので、もしかしたら60歳で繰り上げ受給をしたほうが多めにお金をもらえるかもしれません。医療費や介護費の自己負担割合も、世帯の所得によって1割・2割・3割のいずれかに決まります。年金額が増えたことで負担割合が上がり、繰り下げの恩恵が相殺されてしまうこともあるのです。
次に、繰り下げ中に亡くなると増額分を失うことです。
繰り下げ中に亡くなると、65歳からもらうはずだった年金は「未支給年金」となり遺族に支給されますが、増額はされません。しかも年金には時効があり、過去にさかのぼって受け取れるのは最大5年分までです。
75歳から年金をもらう予定で待機していた人が73歳で亡くなると、68歳からの年金しか遺族は受け取れません。繰り下げ受給を開始した直後に亡くなった場合も、遡って年金を受け取ることはできません。
■「片方繰り下げ」という裏ワザもある
ただし、2023年に「繰り下げみなし増額制度」ができました。繰り下げ待機中に病気が見つかったり介護が必要になったりして、まとまったお金が必要になったら、過去にさかのぼって年金を一括受給できる制度です。
このときは、5年前の増額率で増えた年金を一括受給できます。また、厚生年金を繰り下げると加給年金がもらえなくなります。加給年金は、厚生年金に20年以上加入し、かつ生計を同じくする65歳未満の配偶者や18歳未満の子どもを扶養しているとき、年金に上乗せして支給されるものです。
繰り下げ受給をして年金額を増やしたいけれど、加給年金ももらいたい。そんな人には、おすすめの方法があります。年金には基礎年金と厚生年金がありますが、片方だけ繰り下げることもできるのです(片方のみを繰り上げることはできません)。

加給年金は厚生年金に関係があるので、基礎年金だけを繰り下げし、厚生年金は通常どおり65歳でもらえばいいのです。そうすれば、厚生年金は増額されませんが基礎年金は増額され、加給年金ももらえます。ただし、基礎年金を繰り下げると、今度は振替加算がもらえなくなります。ちなみに振替加算を利用できるのは、2026年時点で60歳以上の方だけです。
■66歳でもらうと追いつくまで12年かかる
繰り下げた場合、総額で追いつくのに長い年月がかかるデメリットもあります。66歳で年金をもらい始めたとき、通常どおり65歳からもらい始めた人に総額で追いつくのは、額面の計算で12年後です。つまり78歳まで生きないと損をします。
ただし、これは額面の話です。手取り額で考えると、損益分岐点はもっと先になります。
Aさん(大阪市在住、独身男性、扶養親族なし、公的年金以外に収入なし)の場合で計算してみます。公的年金は65歳で額面金額が月15万円、手取りで月13.8万円です。66歳まで1年間繰り下げると手取り額は月額約8000円増え、月14.6万円になります。
66歳で繰り下げ受給をしたときの合計の手取り額が、通常どおり65歳でもらい始めたときの総額に追いつくのは17~18年後です。つまり、84~85歳まで生きないと、65歳から受給する人よりも損をするのです。さらに、保険料納付期間が将来延びる可能性があります。国民年金は現在、20歳から60歳まで40年間の加入です。
この納付期間を65歳までの45年間に延長する案が検討されていましたが、2025年の年金制度改正では見送られました。ただし、将来的な課題としては残っており、いずれ再び議論される可能性があります。もし実現すれば、60歳からの繰り上げ受給がなくなることも考えられます。
年金制度は改正のたびに変わるので、早めにもらい始めるという選択肢があるうちに検討しておくことは大事です。
■年金受給年齢の最適解が「60歳」のワケ
では結局のところ、年金はいつからもらうのが良いでしょうか。実は、繰り上げ受給や繰り下げ受給を選んでいる人は、厚生年金の場合わずか1%程度です。約98%の人が65歳で年金を受け取っているそうです。それでも、私は60歳で繰り上げ受給することをおすすめします。
よくある考え方は、損益分岐点と寿命を考える方法です。手取り額で損益分岐点を計算すると、繰り下げた分の「もとが取れる」年齢は81歳から83歳くらいになります。つまり、それ以上に長生きをするなら繰り下げたほうがお得ということになります。
平均寿命は男性が81歳、女性が87歳くらいですから、それより長生きする可能性は十分あるといえるかもしれません。
しかし、寿命で考えるよりも健康寿命で考えたほうがいい、というのが私の意見です。健康寿命とは自分の力だけで普通に生活できる期間のことです。自分の力で動けなくなったあとにたくさんお金をもらっても、旅行に行ったり美味しいものを食べたりはできないかもしれません。人生を楽しみたいなら、健康なうちにたくさんお金をもらうほうがいいとも思うのです。
■インフレ時代は早めにもらったほうが得
男性の健康寿命は大体72歳、女性は75歳とされています。平均寿命と比べると男女ともに約10年の差があります。この健康寿命までに最も多い金額をもらえるのは、男性も女性も60歳で受給開始したときです。ただし、年金を繰り上げ受給しているときに失業しても、失業給付はもらえません。失業給付をもらいたければ、失業給付をもらい終わってから繰り上げ受給をする必要があります。
ほかにも考えることがあります。繰り下げ受給をして年金額が増えても、収入が一定額を超えると医療費や介護サービスの自己負担割合が上がり、繰り下げの恩恵が思ったほど得られないことがあります。
また、いまは物価上昇と年金額の引き上げ時期をずらす「マクロ経済スライド」が導入されており、物価が上がるのに年金が追いつかなければ、早めにもらったほうが実質的に得という考え方もあります。家庭がある人は、夫婦どちらかだけが繰り下げて、もう一方は繰り上げるといった柔軟な方法も検討してみてください。
何歳からもらい始めたらいいか、さまざまな考え方があります。厚生労働者が提供している「公的年金シミュレーター」を使えば、自分の情報を入力してお得な年金のもらい方をシミュレーションできます。ぜひ試してみてください。

※年金や助成金の制度や税金については、細かな条件がありまた自治体により異なるため、お住いの自治体や年金事務所にお問い合わせください。

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みんなの給付金・補助金ちゃんねる
元市役所職員YouTuber

元某市役所職員。市役所での勤務経験から、多くの人が国の制度や給付金・助成金の情報を知らずに損をしている現状に直面。その課題を解決すべく、YouTubeチャンネル「みんなの給付金・補助金ちゃんねる」を開設。複雑な制度を「ガチで」わかりやすく解説する動画が人気を博し、チャンネル登録者数は54万人を突破(2026年5月現在)。再生数が数百万回を超える番組も多く、YouTuber世論調査では企画力・知識・カリスマ性いずれも4.0(5点満点)と高評価。「知らないから損をする」という信念のもと、年金制度の仕組みから賢い受給方法、税金や社会保険料、さらにはシニア層のための資産運用、そして多岐にわたる給付金・助成金の活用法まで、お金に関する情報を日々発信している。

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(元市役所職員YouTuber みんなの給付金・補助金ちゃんねる)

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