※本稿は、田口里奈『科学的根拠に基づく 最高の睡眠空間』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■夜の睡眠にも効く「昼寝」の最適な時間帯
昼寝は集中力や生産性の向上が期待できることから「パワーナップ」として注目されています。企業や学校でも積極的に取り入れられるようになっていることは、ご存じの方も多いでしょう。
実際の研究でも、昼寝をしない場合より、短時間の昼寝をしたほうがその後のパフォーマンスが高くなることがわかっています(※1)。
また、夜の睡眠に関しても、適切なタイミングで昼寝をした日は、夜の睡眠時間は保たれやすく、睡眠リズムを崩しにくいことが報告されています(※2)。
つまり、適切な昼寝は、直後のパフォーマンス向上だけでなく、夜の睡眠にもいい影響を与えるといえます。
昼寝で注意しておきたいのは、昼寝の「タイミング(時刻)」と「長さ」、そして「場所」です。
昼寝をする場合は、就寝時刻の約7時間前までを目安にしましょう。夜の就寝時刻まで7時間を切ってから昼寝をすると、夜の睡眠の質の低下がみられることが研究で報告されています(※3)。
たとえば、23時に就寝する場合は、16時までに昼寝を済ませるのがおすすめです。
※1 Dutheil F, Danini B, Bagheri R, Fantini ML, Pereira B, Moustafa F, Trousselard M, Navel V. Effects of a short daytime nap on the cognitive performance: a systematic review and metaanalysis. Int J Environ Res Public Health. 2021 Sep 28;18(19):10212.
※2 Rea EM, Nicholson LM, Mead MP, Egbert AH, Bohnert AM. Daily relations between nap occurrence, duration, and timing and nocturnal sleep patterns in college students. Sleep Health. 2022 Aug;8(4):356-363.
※3 Mograss M, Dang-Vu TT, Abi-Jaoude J, Lim A. The effects of napping on night-time sleep in healthy young adults. J Sleep Res. 2022 Jun;31(5):e13578.
■ベッドなどで真横に寝る昼寝は避ける
そして昼寝の「長さ」も大切です。
5、10、20、30分の昼寝後のパフォーマンスをそれぞれ調査した研究では、10分、20分の昼寝だと起きた直後の眠気が少なく、パフォーマンスが向上しやすいことがわかっています(※4)。
また、10、30、60分の昼寝後のパフォーマンスや眠気を調査した研究では、どの時間でも注意力は改善され、特に30分の昼寝では記憶力の向上がみられることがわかっています(※5)。
最適な昼寝時間には個人差があるものの、これらの結果から、まずは10~30分程度を目安に取り入れることをおすすめします。
そして、昼寝の効果を最大限に引き出すには、「どこで寝るか」も大切です。
短時間の昼寝でのベッドの使用はおすすめできません。ベッドは深く眠るために最適な環境のため、20分だけのつもりでも、寝心地がよく、つい長時間眠ってしまう可能性があります。
10~30分程であれば、デスクに伏せる姿勢での昼寝スタイルがおすすめです。長時間は眠りにくい姿勢ですし、深い睡眠状態を回避できるため、すっきりと目覚めやすいといえます。
また、完全には横にならないリクライニングチェアもおすすめです。背もたれを少し倒して、体を支える姿勢であれば、首や背中に負担がかかりにくく楽な姿勢で過ごせます。
実際に、オフィスのパワーナップスペースにも、リクライニングチェアなどやや傾斜を持たせた椅子やソファがよく導入されている傾向です。
なお、昼食後すぐに真横になってしまうと、消化不良や逆流性食道炎のリスクが高まる可能性があります。
■薬物治療よりもメリットが大きい不眠症治療
夜、ベッドの上でテレビやプロジェクターを見たり、スマホやパソコンを操作したりするのは、多くの人にとって当たり前の習慣かもしれません。中には、毎晩そのスタイルで過ごしている方もいるでしょう。
しかし、ベッドの上で「眠ること以外の行動」を習慣化してしまうと、睡眠の質が低下する可能性があります。
質のいい睡眠のためには「ベッドは眠る場所」と頭に認識させることが大切です。
日常的にベッドの上でスマホを操作したり、テレビを見たりしていると、脳がベッドを「活動の場」と認識し、いざベッドで眠ろうとしても頭が冴えてリラックスしにくくなってしまったり、自然な眠気が起きなかったりといった、睡眠への悪影響が出やすくなります。
このように「ベッドを眠る場所と認識させる」ことで睡眠改善を行うことは、「認知行動療法」の1つです。
この「睡眠における認知行動療法」とは、睡眠に対する考え方(認知)や生活習慣(行動)を見直し、整えることで、睡眠の質を改善する治療法です。
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、アメリカの睡眠医学会においては慢性不眠症治療ガイドラインの第一選択です(※6)。副作用がなく、長期的な効果が期待できることから、薬物治療よりもメリットが大きいとされています。
※4 Brooks A, Lack L. A brief afternoon nap following nocturnal sleep restriction: which nap duration is most recuperative? Sleep. 2006 Jun;29(6):831-840.
※5 Leong RLF, Lau TY, Dicom AR, Teo TB, Ong JL, Chee MWL. Influence of mid-afternoon nap duration and sleep parameters on memory encoding, mood, processing speed, and vigilance. Sleep. 2023 Apr;46(4):zsad025.
※6 Edinger JD, Arnedt JT, Bertisch SM, Carney CE, Harrington JJ, Lichstein KL, Sateia MJ, Troxel WM, Zhou ES, Kazmi U, Heald JL, Martin JL. Behavioral and psychological treatments for chronic insomnia disorder in adults: an American Academy of Sleep Medicine clinical practice guideline. J Clin Sleep Med. 2021 Feb 1;17(2):255-262.
■考え方の一部は日常生活でも応用できる
東京大学らが行った研究では、慢性不眠症の治療として認知行動療法を受けた場合、症状が落ち着く「寛解率」は41%で、薬物療法の28%よりも高いという結果が得られました(※7)。また、認知行動療法は脱落率が低く、不眠症患者へ受け入れられやすい治療であることもわかっています。
しかし、日本では認知行動療法に対応している医療機関がまだ少ないのが現状です。
認知行動療法には医師や臨床心理士などの専門家による指導が必要ですが、この専門家の数が少ない状況にあるためです。
認知行動療法が有用であることを証明するエビデンスは増加傾向にあるので、今後は日本でも相談できる医療機関が増えていくかもしれません。
睡眠における認知行動療法は、睡眠日誌を書いて睡眠時間や睡眠スケジュールを見直したり、睡眠に対するネガティブな考え方を修正したり、就寝前にリラクゼーション法を行ったりと、基本的には専門家のもとで治療計画を作成し進めていきます。
認知行動療法は自己判断で進めるものではないですが、考え方の一部は日常生活でも応用できます。この「ベッドを眠る場所と認識させる」ことは快眠への入口として気軽に取り入れることができるでしょう。
■自宅で「認知行動療法」を取り入れる方法
では、ご自宅のインテリアをどう工夫すればより効果的に「ベッドを眠る場所と認識させる」ことができるか、ご紹介していきます。
① 就寝時以外はベッドで過ごさない
認知行動療法的に、日中ベッドに横たわる姿勢をとることが夜の睡眠に悪影響を及ぼすとされています。
ベッドに横になってスマホやテレビを見たり、パソコンを広げて仕事をしたり、食事をとったりしている生活スタイルでは、「ベッドの上は活動して過ごす場所」と脳が認識してしまい、夜に寝ようとしても覚醒状態が続きやすく、睡眠の質低下につながる可能性が考えられます。
ベッドからテレビやプロジェクターを見るレイアウトは避け、日中過ごすスペースと就寝するスペースは明確に分けるようにしましょう。
②「眠れないとき」はベッドから出る
認知行動療法的に、眠れないのにベッドの中で過ごし続けることによって睡眠効率が低下し、不眠症状のさらなる悪化につながる可能性があるとされています。
眠れない状態が続くと、脳は「ベッド=眠れない場所」と認識し、さらに寝つきが悪くなる悪循環に陥ってしまいます。
認知行動療法において「ベッド=夜に眠る場所」と認識させるためには、「眠くなるまでベッドに入らない・ベッドでは眠ること以外行わない・毎朝同じ時刻に起床する・ベッドでの昼寝は避ける・15~20分眠れなければベッドから出る」ということが推奨されています。
夜、ベッドに入っても20分以上眠れない場合は、いったん起きて別の場所で過ごし、眠気を感じてから再びベッドに戻るようにしましょう。
このとき、ベッドから出てスマホやテレビを見るのではなく、穏やかな音楽を聞いたり、軽いストレッチをしたりして、リラックスして過ごすことが大切です。ゆったり過ごせるソファや一人掛けチェア、ビーズクッションなど、ベッドとは別にリラックスして過ごせるスペースを作っておくとよいでしょう。
また、部屋の照明は暗めのオレンジ色にして過ごすことも意識しましょう。
住まいや寝室の環境をほんの少し変えるだけで、日々の眠りの質が変わります。ぜひ、今夜からベッドでの過ごし方と部屋の環境を見直してみてはいかがでしょうか。
※7 Furukawa Y, Sakata M, Furukawa TA, Efthimiou O, Perlis M. Initial treatment choices for long-term remission of chronic insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Psychiatry Clin Neurosci. 2024 Nov;78(11):646-653.
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田口 里奈(たぐち・りな)
医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士
2012年薬学部卒業後、薬剤師として薬局に勤務。10店舗以上での経験を通じ、幅広い年代の患者と向き合う中で、多くの人が睡眠に悩みを抱えている現状を知る。2016年、町田ひろ子アカデミー インテリアコーディネーターコースに入学。インテリアコーディネーター資格を取得し、卒業後は医療職と並行してインテリアコーディネーターとしてのキャリアをスタートさせる。
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(医療職インテリアコーディネーター、上級睡眠健康指導士 田口 里奈)

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