今、日本には保有不動産に巨額の含み益があるにもかかわらず、株価が買収価値と比べて割安な銘柄が多数あります。今日は、そういう「含み資産株」に改めてスポットライトを当てます。
不動産価格上昇、上場企業の含み益の増大続く
アベノミクスが始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、不動産需給が引き締まり、2019年にかけて不動産ブームが起こりました。2020年にコロナショックが起こると不動産市況は一時的に悪化しましたが、すぐに立ち直り、2023年以降には再び、不動産ブームの様相を呈しています。
都市部の新築マンションは高人気で、東京23区の新築マンション販売価格は2025年には、平均1億3,613万円と、高騰しています。マンションだけでなくオフィスビルの賃料、価格も好調です。2026年1月1日の三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の公示価格は、全用途平均で4.6%の大幅上昇となっています。
公示地価 地価変動率(全用途平均)年次推移:2014~2026年の1月1日時点、前年比
不動産ブームを反映して、三大都市圏に不動産保有の多い上場企業の賃貸不動産含み益【注】は拡大し続けています。
【注】含み益
時価と取得原価の差額。100億円で買った不動産が120億円まで値上がりしたとき、帳簿上100億円で計上している不動産に、20億円の含み益が存在することになる。
賃貸不動産の含み益上位4社の含み益推移:2013年3月~2026年3月
このように、上場不動産株の含み益が年々拡大しているにもかかわらず、不動産株は上値が重くなっています。
東証不動産株価指数の動き:2004年1月~2026年8月
不動産業は市況産業です。過去に、不動産市況の上昇下落に対応して、ブームと不況を繰り返してきました。過去を振り返ると、1973年、1990年、2007年に市況のピークがありました。
1973年は列島改造論のブームの中で不動産市況が高騰しましたが、オイルショックが起こると崩落しました。
このように、不動産市況が大きく変動することから、投資家は学習効果で、ブームでも不動産株への投資には慎重になる傾向があります。
とはいえ、保有不動産の含み益がどんどん拡大する中で、株価が低迷してきたために、買収価値(含み益を考慮した純資産価値)と比較して極めて低い評価の銘柄が増えています。私は、株価が極めて割安になっていると判断する銘柄に選別投資していって良いと判断しています。
解散価値といわれるPBR1倍を大きく割り込む銘柄が増えている
不動産セクターには、業績が堅調で、巨額の含み益を有しているにもかかわらず、株価が上がらないため、株価が、解散価値といわれる株価純資産倍率(PBR)1倍を割れる銘柄が多数あります。
賃貸不動産に大きな含み益があるのは、不動産会社ばかりではありません。電鉄・倉庫など、さまざまな業種に「含み資産株」があります。
直近の決算期末で、賃貸不動産の含み益が2,000億円を超えている27社は以下の通りです。
賃貸不動産に含み益2,000億円以上を有する27社
実質PBR0.7倍割れ、最高益更新を見込む5社
このような含み資産株には、含み益を考慮した実質PBRが1倍を大きく割れる銘柄が多数あります。最高益を見込む割安株として、以下5銘柄に投資して良いと判断しています。
実質PBR0.7倍割れ、今期最高益を見込む5社
<参考1>実質PBRとは
実質PBRを説明する前に、まず、PBRを説明します。PBRとは、株価が、純資産(自己資本)と比較して、どの程度、割安であるか測る指標です。
まず、PBRを説明する図1をご覧ください。1億円出資し、1億円借金し、合わせて2億円の資産を持って、ビジネスを始める企業を例にとって説明しています。
図1:PBR1倍とは
設立直後ですが、いきなり株式市場に上場できるとします。さて、株式時価総額はいくらになるでしょうか。普通に考えると、1億円になります。まだ何もしていない企業ですから、株式時価総額は、純資産価値と同額の1億円となると考えられます。
この状態をPBR1倍といいます。株式時価総額÷純資産=1で計算します。次に、PBR1.4倍、PBR0.8倍の意味を説明します。
図2:PBR1.4倍、PBR0.8倍の意味
純資産1億円でも、将来、利益をどんどん稼ぐ期待が高ければ、株式時価総額は1.4億円になることもあります。この状態が、PBR1.4倍です。一方、将来、赤字が続くと考えられる株は、株式時価総額は1億円を割り込み、8,000万円となることもあり得ます。その状態が、PBR0.8倍です。
さて、次に、実質PBRを説明します。純資産に、保有する含み益の7割を加えたものを、実質純資産と呼びます。含み益の7割を加えた実質純資産を、純資産と見なして計算したPBRが、実質PBRです。
三菱地所を例にとって説明しましょう。三菱地所には、2026年3月末時点で、5兆5,574億円の含み益が存在します。もし、賃貸不動産を全て時価で売却すると、5兆5,574億円の売却益が得られます(売買コストはかからないと仮定)が、売却益には税金がかかります。
税率を30%と仮定すると、税引き後で、含み益の70%に当たる3兆8,901億円が残り、自己資本に加えられます。実質PBRは、自己資本に含み益の70%を加えて計算したPBRで、三菱地所の場合、8月12日時点で0.67倍です。
<参考2>なぜ、2006年以降、ハゲタカファンドは日本から撤退したか
2005年ごろ、割安な含み資産株をハゲタカファンド(買収ファンド)が買い占めて大暴れしたことがあります。巨額の含み益を有するにもかかわらず利益水準が低く、PBRが実質1倍を大きく割れ、株価が安くなっている企業がターゲットとなりました。
一定量の株を買い集めた上で、企業に「含み益のある資産を売却して配当金を大幅に増やすこと」などを強く要求しました。
ただし、短期的な利益を狙って株主権を濫用するハゲタカファンドには社会的批判が集まりました。
今、株主権をたてに企業に株主還元を強要するハゲタカファンドは少なくなりました。企業と対話しながら、企業価値を高めていくことを目指すファンドが増えています。ハゲタカファンドが去ったことを受けて、買収防衛策を解除する企業が増えました。こうして巨額の含み資産を保有しながら、株価が割安な銘柄は、割安なまま放置されるようになりました。
ただし、最近「同意なき買収」が復活しつつあります。東京証券取引所がPBR1倍割れ銘柄に株主価値の改善策の開示と実施を求めていることもあり、低PBR株にまた注目が集まりつつあると思います。
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(窪田 真之)

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