8月のBTCは急反発した。わずか2週間で3割高、7月の底値からは4割上昇した。

何が起きたのか。なぜここまで上がったのか。底を打ったのか。9月はどうなるのか。楽天ウォレット・シニアアナリスト:松田康生、通称MATT(マット)が、9月以降の方向性を分析する。


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8月のビットコイン相場

9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
出典:TradingViewより楽天ウォレット作成

何が起きたのか?

 8月のBTC市場は大きく反発した。BTCは7月初に5.7万ドル台で切り返すと、6月の戻り高値6.7万ドル手前で跳ね返された。その後は半値押しとなる6.2万ドルでサポートされ、月前半は狭いレンジでもみ合いが続いた。


 その間、材料はいずれも決め手を欠いた。注目のクラリティ法案(米国で、ビットコインなどの仮想通貨を、誰がどんなルールで監督するかを整理する法律)は夏季休会前の採決を断念し、9月15日に審議入りの採決を行うことになった。


 イラン情勢は一時交渉機運が高まったものの進展がなく、60日間の停戦を定めたイスラマバード合意(2026年4月に激化する米国・イスラエルとイランの紛争を終結させるため、パキスタンが仲介して提示した2段階の和平案)は失効した。


 一方、雇用統計や消費者物価指数(CPI)といった指標は弱く、7月の米連邦準備制度理事会(FRB)議長議会証言で高まった利上げ観測は若干後退した。


 8月半ばに米政府債務が40兆ドルを突破し、恒例の米国債「四半期入札」はいずれも低調だった。

とくに30年債の落札金利は2001年以来の高水準を記録した。これに対し米財務省は長期国債の買入額増額を発表。これをきっかけに先物市場でショートカバー(空売りポジションを買い戻してポジションを解消すること)が発生し、BTCは7万ドル近辺まで急騰した。


 さらに、昨年3月以来となるホワイトハウスでの暗号資産サミットで、トランプ大統領がクラリティ法案成立の必要性を主張し、戦略BTC準備の積み増しも検討していると発言すると、BTCは200日移動平均線を上抜け、8万ドルに迫った。


 コイングラス(CoinGlass:暗号資産のデリバティブ市場を分析するためのプラットフォーム)によれば、先物市場では8月19~21日の3日間で46億ドルのショートポジションが清算された。上場投資信託(ETF)フローも回復し、8月17日から27日まで9営業日連続で合計30億ドルが流入した。


 価格上昇を受けてトレジャリー企業(ビットコインなどの暗号資産を企業の資産として長期保有する企業)の株価も上昇した。その結果、6月30日から8月10日まで4回にわたり計4.3億ドルを売却していたストラテジー(MSTR)社は、8月31日に3.7億ドルの購入へ転じたことを発表した。


 8月28日には、一部でBTC追加購入の大統領令が出るのではないかとの観測も広がり、8.1万ドル台半ばまで値を伸ばした。


 しかし5月の戻り高値8.2万ドルに上値を押さえられると、ジャクソンホールでのウォーシュFRB議長講演が想定よりタカ派な内容となり、3割程度だった9月利上げの織り込みが7割程度へ急上昇した。7月以来控えられていた米イランの軍事衝突も再開し、上昇は一服している。


なぜここまで上がったのか?二つの上昇要因を分析

[1]財政悪化懸念

 上昇のきっかけは、米財務省による国債購入の増額だった。当初は量的緩和(QE)、すなわちドル増刷の再開ではないかとの見方も出回ったが、これは誤解だった。


 米長期債を中央銀行が買う場合、原資には中央銀行の債務である米ドルが使われるため、ドル減価を見越したBTCへの逃避、という物語が成り立つ。実際、この見出しを受けてBTCも金(ゴールド)も急上昇した。


 だが今回、長期債を買うのは米財務省であり、原資は財務省の債務である国債、おもに短期債で賄われる。要するに、米政府債務の借入期間の短期化でしかない。一部では手元資金を充てるとの報道もあるが、長い目で見れば同じことだ。短期債の発行が増えて短期金利がFRBの誘導水準を上回れば、FRBが短期債を買う「ステルスQE」になる可能性はある。


 ただし今回発表された増額は、1回当たり20億ドルを40億ドルにする程度で、QEと呼ぶには規模が小さすぎる。


 あえて言えば、日本通のベッセント長官が、1998年の「資金運用部ショック」を意識した可能性はある。当時、大蔵省の資金運用部は郵便貯金などの余資で国債を買っていた。その購入を止めただけで、日本の10年債利回りは1カ月で0.8%から2%へ急騰した。買入額自体は市場全体から見れば小さかったが、「公的な買い手が消える」という合図が金利を動かした。


 今回の財務省による長期債買入の増額は、その逆、つまり「買い手が戻る」と見せて金利を沈める狙いだったのかもしれない。


 今回、このアナウンス効果は2日ほどしか持たなかった。逆にこれをきっかけに、世界的な財政悪化への懸念が意識されるようになった。


 世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーターの創業者レイ・ダリオ氏は「歳入5.5兆ドルに対し歳出7.5兆ドル。年間2兆ドルの財政赤字のうち利払いが1兆ドル。収入の大部分が利払いに消え、債務が雪だるま式に増える転換点まであと3年」と警鐘を鳴らし、「ポートフォリオの10~15%を金に、少額をBTCに振り分ける」ことを推奨した。


 加えて、関税取り消しに伴う還付請求で米財政は火の車だ。同様の動きは日本でも見られる。骨太方針をきっかけにした夏のトリプル安に続き、10年国債利回りは約30年ぶりに3%へ上昇した。世界的な財政不安と債券安が、金やBTCへの逃避を呼び込んだ。


[2]アノマリー

 ただ、財政懸念はずっと続く大きなテーマであることは分かるが、なぜこのタイミングで、ここまで大きく市場が反応したのか。そこにはBTC市場のアノマリーが大きく関係していそうだ。


半減期のアノマリー
9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 BTC市場は半減期による供給要因で4年サイクルを描くことが知られている。

従来のパターンでは、半減期で供給が半分になると、その累積効果で半減期のおよそ半年後から上昇を始め、半減期の1年から1年半後あたりにピークアウトする。オーバーシュート(為替レートなど相場価格が想定の範囲を超えて動くこと)した市場は、そこから約1年間の低迷期を迎えてきた。


 図は、半減期からの相場動向を重ねたものだ。半減期からピークまでの上昇率は、初回2012年が90倍、2回目2016年が29倍、3回目2020年が8倍、前回2024年が1.9倍と徐々に縮小している。だが倍率をそろえてみると、かなり鮮明なパターンが読み取れる。


 これを今回に当てはめると、2024年4月の半減期から1年半後の2025年10月にピークアウトし、そこから「冬の時代」に入って10カ月が経過している。ETFを中心とした長期投資家の間ではボトムアウトが近いとの見方が出る一方、「落ちてくるナイフはつかむな」の格言どおり、様子見も強まっていた。


BTC/USD 月別騰落率


9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
出典:Bloombergより楽天ウォレット作成

 一方、毎月紹介している月別アノマリーでは、8月は1年で最も弱い月で、9月がそれに続く。その結果、短期勢は底入れ前にもう一段の下げがあると見て、先物でショートを積み上げていた。


 そこに米財務省の「逆・資金運用部ショック」が重なり、短期勢のポジション巻き戻しが発生した。同時に、買い遅れていた長期勢の買いも殺到した。これが、このタイミングでここまで急騰した一因だと考える。


7~8月の半値からやや反発、ここでボトムアウトか?

 今回、8月の安値6.2万ドルから8.1万ドルへ3割、7月の底値5.7万ドルから4割反発した。果たしてこれでBTCはボトムアウトし、下落トレンドを脱したのだろうか。


 まずアノマリーであるが、4年サイクルに従って底を打った、との見方はある。小職はこの半減期の供給要因によるサイクルを、日本で早くから提唱した一人だと自負している。それでも、このサイクルだけを理由にした予想は危ういと考えている。


 過去のパターンは、それだけでは単なる出来事にすぎない。因果関係を伴って初めて再現性がある。これまでは半減期による供給減という、はっきりした因果があったが、半減期が進むにつれ、その影響は弱まってきた。2012年の半減期では1ブロック当たり25BTC、1日3,600BTCの供給減となった。


 直近2024年はブロック当たり3.125BTC、1日450BTCの供給減にとどまる。次回2028年にはさらに半分となり、供給要因の影響は一段と小さくなる。


 その割にサイクルどおり動いているのは、市場参加者の多くがこれを意識しているから、すなわち自己実現的に動いている部分が大きいと考える。2019年から2020年にかけて小職がこの理論を主張し始めたころは、BTCの価格はマイニングに投じられた電力やネットワークの価値で決まる、というのが主流で、かなり異端だった。


 だが2020年末の200万円超え、2021年の高値圏と年末安をこの枠組みでかなり近い水準で捉えるうちに考えは広まり、2025年のピークがサイクルと重なるにつれ、いまでは参加者の多くがこれを前提にするに至った。意識されたパターンは、そのとおりに動きやすい。


200日移動平均線とBTC相場
9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
出典:TradingView

 テクニカルにもそうした傾向が見られ、その観点ではボトムアウトした可能性が高い。4年サイクルにおける弱気・強気の指標として、200日移動平均線は強く意識される。相場がピークや底をつけるとき、参加者はそれがピークか底かをその場では分からない。200日線を割り込むと弱気相場入りが意識され、上抜けると弱気からの脱却が意識される。


 確かに「自己実現的」な部分もある。だがそれが参加者の総意を表すなら、それだけで市場を動かす原動力になる。


 従来はピークから1年前後で底をつけ、そこから数カ月後に200日線を上抜けると、底入れが鮮明になった。今回は従来のサイクルよりややピッチが速いが、ピークから底まで268日、底から51日後に200日線を上抜けた。2015年のように、上抜けがあだ花に終わる可能性は残る。紆余(うよ)曲折もあるだろう。それでも大底はつけた可能性が高い。


9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
著者作成

 材料面では、従来の底打ち時には決まって想定外の「最悪の事態」が生じていた。2015年1月の底は大手交換所ビットスタンプのハッキングだ。


 マウントゴックス事件(2014年、東京を拠点とする暗号資産取引所「マウントゴックス(Mt.Gox)」から約85万BTC(当時約480億円相当)が消失した、暗号資産史上最大規模の事件)から1年もたたない再発で、業界自体の信頼が揺らいだ。


 2018年12月の底は、ビットコインキャッシュ分裂時のハッシュウォー(2018年11月、ビットコインキャッシュが分裂した際に、ABC陣営とSV陣営がマイニングのハッシュパワーを大量に投入してお互いのチェーンをつぶし合った史上初の大規模な内戦)だ。


 両陣営の対立が激化し、相手チェーンへの攻撃が懸念され、ブロックチェーン技術への信頼が揺らいだ。2022年11月の底はFTX破綻だ。世界第2位の交換所が倒れ、同社発行のトークンFTTも暴落し、とくにアルトコインの価値への信頼が揺らいだ。


 今回は6月30日、世界最大のBTC保有企業ストラテジーが本格売却を開始し、翌7月1日に底値5.7万ドルを付けた。最も強気だった主体が弱気に転じたときに、相場が底をつけることはよくある。同社が保有する84万BTCが売りに出たらどうなるか。市場は震撼(しんかん)した。


 しかしBTCの反発で同社株も反発し、新株発行による資金調達とBTC購入を再開している。同社は8月17日から2週間で26億ドルの新株を発行したにもかかわらず、株価は3割上昇した。最悪期は去った可能性が高い。


 さらに需要面では、本命である財政悪化と法定通貨からの逃避、という物語が浮上したことが大きい。2020年以降、BTCがここまで買われた本丸がそこだからだ。コロナが収束すると、緊急対策でばらまいた過剰流動性が招いたインフレを、各国は財政・金融の「正常化」で沈静化しようとした。


 ところが2024年から2025年にかけて主要先進国で与党がほぼ全敗し、緊縮は否定され、世界は減税競争に入っている。この中でまずBTCが上昇し、続いて金、直近ではAIや半導体株が上がった。そのブームが一巡し、金とBTCに順番が戻ってきたイメージだ。


 この世界的な財政悪化は一時的ではなく、構造的だと考える。増税では選挙に勝てない以上、財政赤字と金融緩和への依存から抜け出しにくい。


9月の見通し

 このように大きな流れとしては、BTCはボトムアウトしたと考える。ただし9月のBTC市場は、現水準で値固めする展開を予想する。


 テクニカル的には、下向きのヘッドアンドショルダーが完成、200日移動平均線を上抜け、一目均衡表の雲の上限を突破し、三役好転で上昇トレンドへ転換した。ただし8.2万~8.3万ドルは、5月の戻り高値と史上最高値からのフィボナッチ38.2%戻しが重なる、強めの抵抗帯だ。


 ここを抜ければ底入れは鮮明になる。だが今回の上昇が急だっただけに、半値程度の調整があっても不思議はない。6.2万ドルから8.2万ドル手前まで上げたので、7.2万ドル付近が支持になりそうだ。


BTC/USD
9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
出典:TradingView

 アノマリーでも9月は強くない。とくに月初に急落した例が何度もある。逆に月前半を乗り切れば、後半にかけて徐々に盛り返すのがパターンだ。


9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
著者作成

 前回「注目すべき三つの材料」としてイラン情勢、金融政策、クラリティ法案を挙げたが、目先はいずれも厳しい。イラン情勢は出口が見えなくなった。穏健派と米政府の合意を強硬派が覆す展開が続き、米政府は交渉を諦め、経済制裁の強化へ軸足を移した。兵糧攻めであり、いつ、どのような形で収束するかは不透明だ。これを受け、原油は三角持ち合いを上抜けている。


 ジャクソンホールでのウォーシュ議長のタカ派発言で、9月利上げの織り込みは7割近くまで上昇した。


 一方、トランプ大統領の親友の娘婿で、ベッセント長官の元同僚として下馬評を覆して指名を勝ち取った議長が、両者の意向に反し中間選挙前に利上げへ踏み切るハードルは極めて高い。利上げするにせよ見送るにせよ、雇用統計やインフレ指標ではっきりした方向性が出るかどうかに注目したい。利上げとなれば、ある程度の売り圧力となり得る。


 クラリティ法案は9月15日に、審議入りの可否を採決する予定だ。いまのところ、可決に必要な60票は確保できていないもようである。中間選挙直前は、党派対立の強い法案は通りにくい。9月の採決で否決されれば、廃案の可能性が高まる。中間選挙では上院は共和党が優勢と伝わるが、それでも60票に届く可能性はほぼないとみられている。


 このうちいずれかが好転すれば、BTCは急騰し、8.2万~8.3万ドルの抵抗帯を上抜ける可能性はある。ただ、いまのところそこまで楽観できる状況ではなく、まずは現水準での値固めだろう。レイバーデー(7日)明けやセントレジャー(12日)明けは、夏休みから投資家が戻る時期で、買い遅れからのフローも期待される。


 こうした中、9月のBTCは、上値は重いが下値も堅いもみ合いとなり、現水準で値固めする展開を予想する。


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今月のMATTメモ

 


 

 


 先日、お昼休みにゴルフ仲間に聞かれました。


「松田さん、『XXX』ってご存じですか。AIが自動で運用してくれて、15%の配当が保証されていて、大谷選手が出資していて、片山財務大臣が……」


 ちょうど一緒に回っていたのが、証券会社でコンプライアンス部長をしている銀行時代の先輩で、ここまで聞いた段階で「それは典型的な投資詐欺ですよ」と、ほぼ同時に答えました。


「ちょっと心配だったので、聞いてみてよかったです」と感謝されました。その方はどこかの病院の理事をされているお医者さんです。おそらく名のある医学部をご卒業されていると思われます。非常にクレバーなゴルフプレーをされます。


 そういう方でも、こんな典型的な手口に気づかないのかと驚きました。もっと啓発が必要だと感じました。


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9月ビットコイン:7月底値から4割高。アノマリー弱気、チャート好転、冬の時代は終わった?
暗号資産詐欺に気を付けて! 取引所コンプラ部長がお伝えする暗号資産詐欺の手口

(松田 康生)

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