日英伊で次期戦闘機を作る「GCAP」

 日本、イギリス、イタリアが共同で開発している次期戦闘機「GCAP(Global Combat Air Programme)」。これは航空自衛隊のF-2戦闘機の後継として2035年の初号機配備を目指しており、将来の日本の防空を担う重要な戦闘機です。

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 ただ、こうした国際共同開発には、機体の性能とは別の難しさがあります。それは、文化も仕事の進め方も違う3か国の人々が、本当にひとつのチームとして働けるのかという問題です。

 GCAPでは、この課題に対応するため3か国の政府間機関「GIGO(GCAP International Government Organisation)」が設けられています。その実施機関である「GCAPエージェンシー」のトップ、CE(Chief Executive)を日本の防衛省出身である岡 真臣氏が務めています。

 筆者は2026年7月、ファーンボロー国際航空ショーで岡CEに単独インタビューし、「実際、日本人と英国人、イタリア人が一緒に働いて、うまくいくのでしょうか」と聞いてみました。すると返ってきたのは、「違うんですよ、やっぱり国によって」という率直な答えでした。

英国人は戦略、日本人は期限、伊は…

 ただし岡CEは、ここからの話は「若干、独断と偏見」であり、「記事にするようなものではないかもしれない」と前置きしています。あくまで岡CE個人がGCAPの職場で感じた印象としての話です。それでも、組織のトップが日々の仕事で感じていることは、GCAPエージェンシーの雰囲気を知る貴重な手がかりといえるでしょう。

次世代戦闘機「GCAP」、その特別な開発体制をトップが激白 日英伊“チーム融合”の舞台裏 「文化の壁」もブチ破る!?
GCAP Agencyの岡 真臣CE(Chief Executive:首席行政官)(布留川 司撮影)。

 たとえば英国人は、ある問題に取り組む際にまず「どのような原則のもとで、どのような戦略を考えるのか」といった大前提から議論し、そこから具体的な課題へ進んでいく傾向を感じるそうです。

 一方、日本人については、期限やスケジュールを強く意識し、「いつまでに何をしなければならないか」を考えながら、まず目の前の具体的な問題に取り組む傾向があるといいます。

 そしてイタリア人について岡CEが印象的だと感じているのが、朝にエスプレッソなどを片手に交わされる雑談だそうです。

その会話では、「あちらの部門では今こうなっている」「こちらではこんなことが起きている」といった仕事上の情報も共有され、彼らなりに情報がまとまっているように感じるそうです。

 英国人は大前提から、日本人は期限から、そしてイタリア人は会話を通じて情報を共有する――。もちろん国民性を決めつけた話ではなく、あくまで岡CE個人から見た職場の一例です。それでも、これほど異なる人々が一緒に戦闘機を作っていること自体が、GCAPというプロジェクトの大きな特徴といえるでしょう。

「事務官+技官+自衛官」に外国人も!?

 GCAPエージェンシーを内部組織として持つGIGOは2024年12月に正式発足しました。岡CEによると、当初は20~30人ほどからスタートし、まずは後からやって来る職員を受け入れる態勢を整えながら、3か国からの人員を増やしていったそうです。

 しかも、組織内で違うのは国籍だけではありません。軍出身者(日本では航空自衛隊出身者など)もいれば、シビリアンやエンジニアもおり、それぞれの経験や専門分野も異なります。岡CEは、その状況を日本の防衛省にたとえて次のように説明してくれました。

「事務官と技官と自衛官が一緒になって仕事をしているような感じです。さらに、ここでは他国というレイヤーがあります」。

 つまり、国際共同開発は、ただ日本人、英国人、イタリア人を集めれば済むわけではないのです。

異なる国籍に加えて、異なる専門分野や経験を持った人々をひとつのチームにする必要があります。そのため新しくGCAP エージェンシーへ加わる職員には、それぞれ異なる背景があることを理解し、互いに尊重しながら一緒に仕事を進めていこうと説明しているそうです。

トップ同士「今から行っていい?」で会える!?

 異なる人々をひとつにまとめる工夫は、職場の意識だけではありません。組織そのものにも仕掛けがあります。現在の体制ができる以前は、3か国の政府がそれぞれ国内企業と契約していました。そのため会議を開けば「当事者がものすごい大勢になる」状況で、当時から関わっていた岡CE自身も「これは大変だな」と感じていたそうです。

次世代戦闘機「GCAP」、その特別な開発体制をトップが激白 日英伊“チーム融合”の舞台裏 「文化の壁」もブチ破る!?
「Edgewing」のマルコ・ゾフCEO(布留川 司撮影)。

 そこで政府側をまとめるGCAP Agencyが設けられ、企業側でもBAEシステムズ、レオナルド、日本航空機産業振興株式会社(JAIEC)が出資する合弁会社「EdgeWing」が発足しました。

 組織をまとめるだけでなく、コミュニケーションを円滑にするために、その物理的な距離も近いものになっています。岡CEによると、英国レディングにあるGCAP AgencyとEdgewingの本部は、同じ建物に入っているそうです。そのため岡CEがEdgeWingのトップであるマルコ・ゾフCEOと話したいことがあれば、「今から行っていい?」と連絡し、都合が合えばすぐに会いに行けるといいます。

 3か国にまたがる巨大な戦闘機開発でありながら、その中枢では政府側と企業側のトップが、必要ならすぐ顔を合わせられる距離で仕事をしているわけです。岡CEも、こうした環境を国際的な事業として「すごいところだと思う」と話します。

 もちろん、職場の人間関係が良ければ戦闘機開発が成功するほど単純な話ではありません。岡CEも「まだまだこれからの部分があるのは事実」としています。それでも、これまでについて「いろいろな課題はありましたが、乗り越えてきました」と振り返ります。

「3か国の強い政治的なコミットメントを受けた事業なので、我々としては共通の目標に向かって、しっかりと取り組んでいきたいと思っています」

 日本にとって、日英伊が対等なパートナーとしてひとつの戦闘機を共同開発するGCAPは、これまで経験したことのない規模の国際共同開発です。機体を設計するだけでなく、異なる国の人々が一緒に開発できる環境も作らなければなりません。

 英国人は大前提から議論し、日本人はスケジュールを意識する。そしてイタリア人はエスプレッソを片手に会話を交わす。これはあくまで岡CEというひとりのトップから見たGCAPの職場風景です。ただ、その個人的な印象を通して見えてきたのは、違いを消すのではなく、違いを理解したうえでひとつのチームになろうとしている姿でした。今回の取材からは、日英伊が2035年に向けて一緒に戦闘機を作るための「環境づくり」は、うまく動き始めているように見えました。

【写真】えっ…これがGCAPの全貌&そこに乗り込む「超大物」です

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