スペイン対アルゼンチン。延長前半を終えて0-0といえば、試合内容が拮抗する接戦を連想する。

だが、アルゼンチンが初めて放ったシュートは延長戦に突入してからで、FIFAの記録によれば、120分間のボール支配率はスペイン60%、アルゼンチン32%で、残る8%はどちらでもない「中立」だった。過去の決勝戦を振り返っても、ここまで両者の内容に差のある試合も珍しい。少なくとも筆者のワールドカップ決勝観戦歴のなかでは断トツの1番だった。

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 だが、このままPK戦に突入し、アルゼンチンが勝利する可能性は大いにあった。よくある話ではないが、それもサッカーだ。そうなったらなったで、受け入れるしかないが、試合内容と結果は可能な限り一致してほしい。中立の立場で観戦する日本人ライターの筆者は、スペインにゴールが決まることを期待しながら残り15分に目を凝らした。

 攻めるスペイン、守るアルゼンチン。後半のアディショナルタイムにアルゼンチンはラフプレーを犯したエンソ・フェルナンデスに退場処分が下り、10人になったこともそれに拍車をかけた。引いたというか、引かされたというか、守備的なサッカーを終始展開した。ブラジル戦の日本を彷彿とさせるサッカーと言ったら、アルゼンチンに叱られそうだが、噛み合いの悪い内容は、何よりその消極的な姿勢にあった。

 その守り倒そうとする方法論に、サッカーの神様が微笑む可能性もなきにしもあらずとはいえ、今大会の流れはそうではなかった。

王道を行くのは、言ってみれば非・日本代表的サッカーである。スペインはそのリーダー的な役割を担っていた。大会のストーリー的にもスペインが勝利したほうが丸く収まるのだった。

 それでも0-0で推移した理由としては、スペインにはキリアン・エムバペ、ウスマン・デンベレ、ハリー・ケイン、アーリング・ハーランドといった、決定力の高い典型的なストライカーがいなかったことが挙げられる。個人の力でゴールをこじ開けることができないチームだ。むしろ、それを最初から求めていなかった。パスで崩す理詰めのサッカーである。そのこだわりというか美意識が強く、そのぶん、大胆さや強引さ、いい意味でのアバウトさに欠けたことが、延長前半まで無得点に終わった理由だ。

【疑問が残るアルゼンチンの交代策】

 だが、選手層は厚い。強みは、交代で誰が入っても同じようなサッカーができる点にある。

 MFミケル・メリーノが右ウイングのラミン・ヤマルへパスを送った延長後半1分だった。そのボールを横で受けたペドロ・ポロが深々としたクロスを上げると、ニコ・ウィリアムズが反応。

ファーポストに走り込んでバックヘッドで落とした。それをフェラン・トーレスが蹴り込み、決勝点とした。

 この得点に絡んだ選手として、前述した5選手のうち3選手が交代選手だった。特に左ウイングに中盤系のアレックス・バエナに代えてニコ・ウィリアムズを入れたことで、ともすると不足しがちだった活気やダイナミックさがチームにもたらされることになった。フェラン・トーレスに落としたニコのバックヘッドはその典型である。

 アルゼンチンで引っかかったのは、フリアン・アルバレスに代えてマルコス・セネシを投入した延長前半12分の交代だ。その時、スコアは0-0だったにもかかわらず、FWを下げてCBを入れたわけだ。準決勝のイングランド戦で、逆転ヘッドを決めたラウタロ・マルティネスを入れる手もあったはずだ。それをせずにCBを入れた。弱気と言うべきである。

 下げた選手がアルバレスである理由もわからない。究極の選択かもしれないが、なぜリオネル・メッシではなかったのか。

イングランド戦で、ラウタロの逆転ヘッドをアシストした鮮やかな右足キックが、リオネル・スカローニ監督の頭にしっかりと刻み込まれていたからかもしれない。

 しかし、その期待感はマイボール時に限られる。相手ボールになると存在感はゼロ。ボールを追いかけることをしないメッシは、戦力になれない時間が長かった。最初からひとり足りないサッカーを見せられているようだった。その分をアルバレスが頑張り、それで足を使い疲れてしまったのだろうが、前からボールを追いかけるスペインと比較すると、アルゼンチンの前から行けないサッカーは、守備的で非今日的に見えた。

 それはメッシという存在と深く関わっていた。メッシがいるから守備的になったと言っても言い過ぎではない。メッシは最後までピッチに立ち、ラウタロの出番は最後までなかった。

 今大会のメッシはヨルダン戦を除く7試合に先発。初戦のアルジェリア戦を除く6試合でフル出場を果たしている。スカローニは39歳のメッシと心中する作戦を取った。

その弊害には目もくれずに、だ。それはカーボベルデ、エジプト、スイスに大苦戦した理由と深い関係がある。一方で、先述したように準決勝のイングランド戦の土壇場で決勝アシストを決めている。

 だが、スペインには通じなかった。ボールを回される原因になった。

 メッシという歳を取ったスーパースターとどう向き合うか。メッシが35歳で迎えた前回2022年大会はうまくいった。決勝でフランスに延長PK戦の末、勝利を飾っている。今回も危ない橋を渡りながらも、なんとかうまくやりくりし、決勝の延長前半までしのぐことができた。だがサッカーの神様は、そこまでを限界点とした。

 メッシのいない次回のアルゼンチンが心配になる。何と言っても負け方が悪かった。

非今日的で、いいところがなかった。反則も多く、美しい敗者とは言えなかった。

 アルゼンチンの順当負け。スペインから見れば順当勝ちだ。振り返れば今大会は順当の連続だった。ベスト4も順当。優勝チームも大会前にブックメーカー各社が一番人気に推したスペインだった。本大会出場チームが32から48に増えたことで、大会のなかの格差が広がった。次回、64チームで争うことになれば、その傾向はさらに強まるだろう。

 一方、サッカーの流れはこのスペインの優勝でいっそう攻撃的な方向で進むだろう。高い位置から網を掛けるサッカーであり、三角形をピッチの各所に作りながら、効率的にパスをつないでいくサッカーだ。カテナチオに代表される後ろで守るサッカー、マイボールを簡単に放棄するカウンター系のサッカーは、時代遅れになる。

日本はどうする。
 

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