ジーコインタビュー(後編)

【前編】ジーコが語る日本代表2026 「チームワークだけで世界一になった国はひとつもない」>>

 日本の成長を高く評価したジーコだが、母国ブラジルに対しては決して甘くなかった。決勝トーナメント1回戦(ベスト32)で日本を打ち破ったものの、続くベスト16でノルウェーに敗れたセレソン(ブラジル代表)に対し、敗退後もさまざまな機会に厳しい言葉を口にしてきた。

ジーコは今回のブラジル代表をどう見ていたのか。
【ワールドカップ】「魔法のような解決策はない」 ジーコが占う...の画像はこちら >>

「ブラジルに才能のある選手がいなくなったわけではない。今でも優秀な選手は次々に出てきている。でも、どれだけ才能があっても、それをピッチで証明できなければ意味はない。チームが本当に必要とした瞬間に、その力を発揮できなかった。それが今大会のブラジルだった。

 問題は才能ではない。その才能をチームの力へ変えられなかったことだ。一人ひとりが自分のことだけを考え始めれば、チームは本来の強さを失ってしまう。昔はブラジル代表でプレーすることが、すべての選手にとって最高の夢だった。でもいまは、代表をクラブでのキャリアの延長のように考えている選手も少なくないように感じる。クラブと代表はまったく違う存在だ。

 私が一番残念だったのは、敗退したあとにほとんどの選手がブラジルへ戻らなかったことだ。国民がどれだけ悲しみ、悔しがっているのかを、もっと感じなければいけない。代表とは国民とともにあるチームなんだ。国を代表することの意味を、もう一度思い出さなければならない。ブラジル代表は、どんなスター選手よりも大きな存在だ。ヴェルデアマレーラ(緑と黄色)のユニフォームを着る者は、その責任と誇りを誰よりも理解していなければならない」

 だからこそ、ジーコがカルロ・アンチェロッティ監督に求めているのは、戦術の修正だけではない。

「アンチェロッティの仕事は、単にチームをつくることではない。代表への誇りと献身を、もう一度選手たちの心に取り戻すことだと思っている。今のブラジルは、自信を失っているように見える。失敗することを恐れ、思いきって挑戦できなくなっている。いまこそ顔を上げ、自分たちのサッカーを信じてプレーしなければならない。落ち着いて、自信を持って戦うこと。

それが今大会のブラジルには足りなかった」

【「すべてを見直す時だ」】

 議論を呼んだネイマールの招集についても、ジーコの考えは一貫している。

「招集を決めたのはアンチェロッティだ。監督が『彼はチームの力になれる』と判断したのなら、それは正しい決断だったと思う。実際のコンディションは私にはわからない。でも、たとえ70%の状態だったとしても、ネイマールはこのブラジル代表の誰よりも才能のある選手だ。

 ただ、ひとりにあまりにも多くの責任を背負わせてしまった。チームに本当のリーダーがいなかったから、ネイマールはベンチに座っている時でさえ精神的な支柱であることを求められた。実は私自身も1986年のメキシコ大会で同じような経験をした。自分でもベストコンディションではないことはわかっていた。それでも周囲は私を頼った。その重圧がどれほど大きいか、私はよく知っている」

 そして、ジーコはブラジル再建への道について、こう語っている。

「ワールドカップが終わったいまこそ、すべてを見直す時だ。同じ失敗を繰り返さないために、代表を一から立て直さなければならない。

ブラジルらしさを取り戻すには時間がかかる。でも、不可能ではない。魔法のような解決策は存在しない。必要なのは努力を積み重ねること、そして忍耐だ。

 私は昔からアンチェロッティを知っている。彼ほどサッカーを理解している監督はそう多くない。選手の話を聞き、グループをまとめ、プレッシャーのなかでも冷静に仕事ができる。だから私は、彼ならブラジル代表をもう一度、正しい方向へ導いてくれると信じている」

 母国ブラジルに対しても「魔法のような解決策はない」と語るジーコ。その言葉は、そのまま日本の未来にも当てはまる。日本が掲げる「2050年のワールドカップ優勝」という目標を、彼はどう見ているのか。

「私は今回の大会を見て、その目標は決して現実離れしたものではないと感じた。以前よりもはるかに難しい相手と互角に戦えるようになり、決勝トーナメントへ進むことも特別な出来事ではなくなった。

世界の強豪を相手にしても、自分たちのスタイルを貫き、内容でも互角以上の試合を見せられるようになっている。だから私は何度でも同じことを言いたい。日本は間違いなく正しい道を歩んでいる。ここまで日本サッカーが積み重ねてきた努力は、本当にすばらしいものだ。

 Jリーグが発展し、育成組織が充実し、多くの選手がヨーロッパのトップリーグへ挑戦するようになった。そのひとつひとつが日本サッカーを世界トップレベルへ押し上げてきた。だからいま、一番大切なのは焦らないことだ」

【「積み重ねること」でさらに高い場所へ】

 ジーコが今回、日本に向けて最も伝えたかったメッセージ。それは「焦らないこと」だった。

「ブラジルでサッカーが本格的にプロ化したのは1933年だったが、初めてワールドカップを制したのは1958年だった。世界一になるまでには25年という長い時間が必要だった。しかも、その間にはペレやガリンシャという歴史に残る天才が現れた。しかし、そうした選手はどの国にも簡単に生まれるわけではない。

だから日本も、近道を探す必要はない。

 Jリーグが始まってまだ30年あまりで、ここまで世界に認められる国になったこと自体が驚くべき成果だと私は考えている。世界には、優れたリーグを持ち、多くのスター選手を抱えながら、なかなかワールドカップで優勝できていない国がある。イングランドもそのひとつだ。1966年に自国開催で優勝して以来、世界一にはなれていない。世界一のプレミアリーグがあり、デビッド・ベッカム、ウエイン・ルーニー、アラン・シアラー、そしていまならジュード・ベリンガムやハリー・ケインのようなすばらしい選手を輩出しても、それだけで優勝できるわけではない。

 必要なのは、議論を繰り返すことではない。ただ仕事を積み重ねることだ。これは日本人にとっては難しいことではないだろう。育成年代をさらに充実させ、クラブを支え、サッカーが発展し続ける環境を守る。その積み重ねが、やがて世界を驚かせるスター選手を生み、日本をさらに高い場所へ導いてくれる。その日は、皆さんが思っているより近いかもしれない。

私は、その未来を楽しみにしている」

 インタビューの最後に、ジーコは日本の人にどうしても伝えたいことがあると言った。それは提言でも批評でもない。日本のサッカーと共に歩んできた、自らの人生への率直な思いだった。

「私は本当に幸せだ。日本でプロサッカーの発展に携われたことを、心から誇りに思っている。日本にはプロリーグが始まる前から来て、多くの仲間とともに日本サッカーの土台づくりに取り組んできた。もちろん簡単な道ではなかった。苦しいこともあったし、思うようにいかないこともあった。それでも私たちは、一度も挑戦を諦めなかった。

 だからこそ、今こうして日本サッカーが世界のトップレベルに入るまで成長した姿を見るたびに、本当にうれしくなる。日本のクラブも、日本代表も、世界から尊敬される存在になった。その歩みの一部に、自分も関われたことは私にとって何よりの財産だ。もちろん、それは私ひとりの力ではない。多くの仲間がいて、多くの人が日本サッカーのために力を尽くしてきた。私はそのひとりとして全力を尽くしただけだ。

 そして何よりうれしく思うのは、日本の皆さんがいまでも私の仕事を覚えていてくれていることだ。日本の人々は私に会うたびに『ありがとう』と声をかけてくれる。日本では感謝の気持ちを言葉で伝える文化が根付いている。その温かさに、私は何度も励まれてきた。私が日本で経験したこと、日本の皆さんと過ごした時間は、どれも人生の宝物だ。いまでは私もサムライブルーを心から応援するひとりになっている。

 日本サッカーの歴史の一部になれたことを誇りに思い、その歴史がこれからも続いていくことを心から願っている。だから日本の皆さん、これまで歩んできた道を信じてください。焦る必要はありません。日本サッカーにはもっと大きく成長できる力があります。私はその未来を信じています。ありがとう」

リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon

編集部おすすめ