8月7日、国立競技場。サッカー日本代表を率いる森保一監督がスタンドの一角に陣取り、横浜F・マリノスと鹿島アントラーズが戦ったJ1開幕戦を観戦していた。

「"16歳の子"と言うのは失礼ですね。物おじすることなく思いきって(力を)出しきり、同じ10代の選手たちに"俺たちもできるんだぞ"と示してくれました」

 J1歴代2位となる最年少得点を決めた横浜FMの三井寺眞について、試合後の森保監督は称賛を送った。それは心からの言葉だろう。

 三井寺のゴールや得点の起点になったプレーは、たしかに才気に溢れていた。空間に入っていくタイミング、スモールスペースでの技術やビジョンは人並外れたものだった。次からは相手も研究してくるはずだが、それに適応できるようなら、たった1年で違う次元に入るだろう。

 ただ、森保監督の賛辞は少し他人事のように聞こえた。

 三井寺が活躍できたのは、あくまでスティーブ・コリカ監督がこの試合で先発起用したからである。言うまでもないが、三井寺は完成された選手ではない。守備での曖昧なポジションや強度などマイナス点も明らかだが、それでも監督が試合に使ったことで、卓越したセンスや技術を示すことができた。

 16歳のゴールは、"石橋を叩いて渡る"日本人監督たちへの強烈なメッセージにも思えた――。

なぜ最年少ゴールは外国人監督のもとで生まれるのか 16歳・三...の画像はこちら >>
 J1歴代最年少得点の上位5人は、以下のようになっている。

1位 森本貴幸東京ヴェルディ)15歳11カ月28日    
2位 三井寺眞(横浜FM)16歳4カ月5日
3位 久保建英(横浜FM)17歳2カ月22日
4位 徳田誉(鹿島)17歳6カ月27日
5位 稲本潤一ガンバ大阪)17歳7カ月1日

 特筆すべきは、全員が外国人監督のもとで試合に出て、ゴールを決めている点だろう。

 森本はオズワルド・アルディレス、三井寺はコリカ、久保はアンジェ・ポステコグルー、徳田はランコ・ポポヴィッチ、稲本はヨジップ・クゼが監督だった。外国人指揮官は、積極的な登用をしただけではない。実際に結果を出せるタイミングを見計らい、結果を出させたのだ。ちなみに6位の阿部勇樹もジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド千葉)のゲルト・エンゲルス監督時代にゴールを決めている。

【「石橋を叩いて...」の弊害】

 この事実は、とても無視できるものではない。

 一般的に、日本人監督はどうしても経験や実績を重視する傾向が強いように見える。減点主義のところもあって、「あいつは守備ができない」「まだまだ肉体的に弱い」「積み上げが必要」と、石橋を叩いてから渡ろうとする。一番いいポイントを切り取って、それが出せるタイミングで使う果断さには乏しい。長年染み込んだ丁稚奉公のような"修業が第一"の思考回路から抜け出せないのだ。

 これは多くの日本人監督が、長くコーチとして下積みをしてから監督の座をつかむという人生経験も影響しているのかもしれない。選手の能力を直感的に見極めるべきところで、明らかに後れを取っている。

演繹的な思考で「若さ=経験のなさ=試合出場はまだ早い」という三段論法を成立させ、一般的事実を個別事項に当てはめてしまう。仮説や検証を怠り、積極的なイノベーションを起こせないのではないか。

 優れた外国人監督は「経験がないなら、どうやって経験をつけさせる?」と、単純明快な理屈を持っている。一方、多くの日本人監督は「時が熟すまで起用できない」と意地を張りがちだ。もしくは何の思慮もなく「若いだけ」で起用して失敗するようなケースもある。

「日本人は人間関係のしがらみが影響してしまうから難しい」

 そういう言い訳があるのだとしたら、そんなリーダーは即刻、解任すべきだろう。監督の仕事はチームの勝ち筋を見出し、合理的に戦わせることにある。非合理的な観念がはびこっている時点で敗者だ。

 有能な監督は、戦略を立て、戦術を用いる。その過程で必要な選手がいたら、年齢にかかわらず抜擢する。シンプルな理屈だ。

 だからこそ選手もそこでやるべきことがわかるし、同時に、自分ができないことも肌で感じられる。

確固たる仕組みのなかであれば、然るべき経験も積めるのだろう。

 たとえば横浜FM時代の久保のように、すぐ定着しなかった例も少なくない。しかし久保がそうだったように、必要なものに気づいた選手は、自らを環境に合わせて強化することができる。そこで成長の爆発も起こるのだ。

 かつて筆者はリオネル・メッシのラ・リーガでのデビュー戦に立ち会ったことがあるが、試合後のフランク・ライカールト監督の明快な発言は今も忘れられない。

「レオ(メッシ)はトレーニングで試合に出るだけのプレーをしていた。だから使った。チームのためになると思ったからだ。彼へのご褒美ではない」

 結局のところ監督の真価は、練習で選手の特性や力量を見極められるかだろう。それ以上でも以下でもない。単なる減点法を用いるなら誰でもできる。ライカールトが目利きであり、年齢への執着がなかったから、メッシという革命的選手のキャリアが生まれたのだ。

 森保監督を含めて、日本人監督の能力が低いというわけではない。慎重さが吉と出る局面もあるのだろう。しかし、年功序列の気配は消えておらず、それが革新的なリーダーを生み出せない理由だとしたら......。イノベーションは、ある理論を前提とし、そこから論理的に正しい答えを引き出すような演繹的思考では実現しないのだ。

 三井寺のデビュー戦ゴールは華々しかったが、森保監督の後任問題でも影を落とした"日本人監督事情"に対する"苦み"のようにも感じられた。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

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