武田一浩に聞くMLBの日本人投手たち 中編

(前編:「大谷翔平はもう投げなくていい」武田一浩が語る、プレーオフを見据えるドジャースにとって最悪のケースは?>>)

 ロサンゼルス・ドジャースの佐々木朗希は、シーズン前半は苦しみながらも、後半戦に差しかかるにつれて好投する試合が多くなっている。佐々木の状態について、15年の現役生活で4球団を渡り歩いて最多勝やセーブ王などのタイトルを獲得し、現役引退後は第1回WBCで投手コーチを務めた武田一浩氏に聞いた。

【MLB】佐々木朗希の好投が多くなってきた理由を武田一浩が分...の画像はこちら >>

【これから「まだまだよくなる」】

――佐々木投手の現状をどう見ていますか?

武田一浩(以下:武田) 彼は成長過程ですからね。昨季もそうでしたが、今季も不調だった時期はメディアからも「大丈夫なのか?」と言われ続けていました。でも、ドジャースは将来的に本当に頼れるピッチャーにするため、佐々木を使い続けています。

 6月くらいからコントロールも安定してきましたし、表情も変わってきました。(現地時間7月17日の)ニューヨーク・ヤンキース戦でもそうでしたが、 変化球でストライクを取れるようになってきたから、かなりピッチングがよくなったんじゃないかと思います。

――確かに、自信のある表情に変わってきた印象があります。

武田 ダメな時は、本当に自信がなさそうですよね。目が泳いでしまいますし、ずっと「もっと自信を持って投げればいいのに」と思っていました。クセがバレているのではないか、といったことも話題になっていましたが、特に彼の武器であるスプリットなどは、投げる前にわかってしまうと見逃されやすくなります。

 調子が悪い時はそれで苦しくなって、フォーシームを打たれるパターンが多かった。でも、そういった悪循環がなくなってきました。今はスライダーが頼りになってきていると思いますし、ある程度自信を持っているんじゃないですか。

――ピッチングのメカニクスに関して、変わってきた部分はありますか?

武田 けっこう左足を高く上げますけど、その時の姿がどっしりしてきた感じはします。

以前は風が吹けば飛んでいきそうな足の上げ方でしたし、あくまで外から見た印象になりますが、そのあたりは変えたような気がします。

 1年目と比べるとかなり成長していると思いますし、まだまだよくなるんじゃないかと。フォーシームも100マイル(約161キロ)を超えるようになって、ボールの質もよくなってきています。年齢も24歳ですしね。佐々木に対しては辛口な意見が多いので、僕は『長い目で見守ってあげましょう』と常々言っています(笑)。

【日本とメジャーでボールが違うことによる影響】

――本人は真意を明かしていませんが、佐々木投手のグラブが大きくなっていることについてはいかがですか?

武田 大きくしたといってもせいぜい1cmくらいだと思いますし、おそらく本人は気にしていないでしょう。ただ、確かにほかのピッチャーに比べたら大きいですね。

 グラブから指を出したり、指が立っていたりすると変化球を投げるとか、ピッチャーによってクセがいろいろあるので、その対策なのかもしれません。『もしかして、クセが出ているのかもしれない』という不安がなくなれば、迷いも消えて堂々と投げられるじゃないですか。真相はわかりませんが、メンタルの変化が好投の要因のひとつになっていると思います。

――ロッテ時代は、100マイルを投げながら制球も安定していた印象がありました。ボールが違う影響もあるでしょうか。

武田 大きいと思いますよ。

あれだけ速いボールを投げるピッチャーだと、グリップ力(指先の力)が大事になりますから。アメリカのボールは滑りますし、すごく空気が乾燥する球場もあるので、対応がけっこう大変なんじゃないかなと。それに慣れるまでに時間がかかっているんでしょうね。

 今井達也(ヒューストン・アストロズ)もそうだと思います。ボールに慣れるまでに時間がかかる選手もいれば、すぐに慣れる選手もいる。その点、佐々木は繊細なのかもしれませんが、ちょっと苦労している印象です。

――今後の課題を挙げるとしたら?

武田 今はフォーシームとスプリットを中心にスライダーを織り交ぜていますが、スライダーの精度が上がればフォーシームもより生きてきますし、スプリットがダメな日に頼れると思います。スピードがあるので3つの球種でいけるでしょうし、あとはコントロールの精度さえ上がれば大丈夫なんじゃないかと。

 ただ、現段階でもだいぶよくなってきています。ストライクも取れて、空振りも取れるようになってきていますし。一気によくなっているわけではないですが、徐々に向上していると思います。

【新戦力の加入でも先発ローテは外れない?】

――変化球でいうと、メジャーではカーブを投げていません。

武田 やはり、アメリカのボールだと投げづらいんじゃないですか。ただ、いろいろなボールを投げるより、今投げているボールの精度を上げたほうがいいと思います。山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース)も、今季はカットボールがよくなっていますよね。

 メジャーでは、「ホップ」からいきなり「ジャンプ」とはいきません。佐々木にとって、今は「ステップ」の段階なんじゃないかなと思います。

――トレードで最強左腕タリク・スクバル投手が加入。ドジャースでの初登板となった8月4日のシカゴ・カブス戦は6回2失点でした。

武田 その試合は負け投手になりましたが、スクバルの加入は大きいですね。ただ、佐々木は先発ローテーションから外れないと思いますよ。大谷翔平が入っても外れないんじゃないですか。

何人か離脱していた主力ピッチャーが戻ってきそうですし、ベストなローテーションは、山本、スクバル、佐々木、ブレイク・スネル、タイラー・グラスノー、大谷翔平だと思います。佐々木も今の調子を維持して、信頼を得てほしいですね。

(後編>>)

【プロフィール】

武田一浩(たけだ・かずひろ)

1965年6月22日、東京都生まれ。明大中野高を経て明治大に進み、六大学通算20勝8敗という成績で、1987年にドラフト1位で日本ハムに入団。1991年に18セーブを挙げて最優秀救援投手に輝く。その後、先発に転向して1993年には10勝をマーク。1995年オフにトレードでダイエーに移籍。1998年に13勝で最多勝のタイトルを獲得した。同オフにFA宣言をして中日に移籍し、1999年のリーグ優勝に貢献。2002年には巨人に移り、史上3人目となる全球団からの勝利を達成した。同年限りで現役を引退。2006年の第1回WBCで投手コーチを務めた。そのほか、プロ野球、メジャーリーグ中継で解説を務めるなど幅広く活躍している。現役時代の通算成績は341試合、89勝99敗31セーブ、1008奪三振、防御率3.92。

浜田哲男●取材・文 text by Tetsuo Hamada

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