スペイン、ラ・リーガ開幕2戦目、佐藤龍之介(19歳)が入団したバレンシアは、アンダルシアの雄であるベティスを相手に、ホームで0-1と敗れている。

「ベティスがさらなる論争を引き起こした」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』がそんな見出しをつけるほど、本拠地メスタージャのファンは現在のチームに不満を示し、非難を浴びせていた。

チームの現場としては「攻撃の有力選手獲得を求めてきたが、なしのつぶてで......」と言い訳もしたくなるところだろう。この日も、途中交代で入った元レアル・ソシエダのウマル・サディクは、パワーこそ感じさせたが、周りを生かすポストプレーができないばかりか、決定機も外すなど、相変わらずいいところがなかった。

佐藤龍之介が背負うバレンシアファンの期待 新たな攻撃のリーダ...の画像はこちら >>
 そのチームで、佐藤は希望の星だった。開始3分、MFハビ・ゲラが縦にボールを差し込むと、FWウーゴ・ドゥロが巧みなポストで佐藤に落とし、佐藤が際どいシュートをいきなり放っている。12分にもダンジュマのシュートのこぼれ球をエリア内で受けた佐藤は、反転から右足で鋭いシュート。惜しくもGKに防がれてゴールはならなかったが、佐藤にボールが集まっていた。

 辛口な『マルカ』も、「日本人(佐藤)はチャンスを作り続けていた。最後はうまく"接続"できなかったが......早々のチャンスは外側に逸れてしまい、ふたつ目は敵GKの好守に阻まれた」と寸評し、採点はバレンシアでは唯一の二つ星評価(星0~3の4段階評価)だった。

 開幕から2試合が終わり、佐藤がメスタージャの期待を一身に背負っていることは間違いない。 

 佐藤はすでにポジションを確立しているが、Jリーグからいきなりラ・リーガに入った選手としては、久保建英以来のことである。彼の技量と胆力と言うべきか、これだけでひとつの快挙だ。

 ポジションはシャドー(トップ下)と言えるが、攻撃での自由度が高い点に特徴があるだろう。

 攻撃時は3-5-2の2トップの一角、守備時は5-4-1の右もしくは左。右サイドを中心にタッチラインまで開いて崩し役になることもあるし、一気にバックラインの裏をブレイクすることもあるし、やや下がってプレーメイクしながらゴールに入ることもある。本来は左のゾーンに入ったほうが得点を予感させる選手だが、まずは右で作って......といったところか。

【心配なのはチーム状況】

「佐藤が敵にダメージを与える、攻撃の最高のオプションだった」

 開幕のセルタ戦後、スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、佐藤の存在を称賛していた。スコアレスドローに終わったこの試合は、ワールドカップ組のメンバーなどが間に合わず、ややスペクタクル性を欠いたが、佐藤には最高評価である三つ星が与えられた。

「試合序盤、最も攻撃を活性化させていた。バックラインのペペルからのロングボールを受け、自らの足で好機を作り出した。序盤、最高のチャンスでダンジュマのシュートをお膳立てしている。結局、シュートは枠を外し、オフサイドもあって取り消されたが......」

 スペインでは質の高いロングボールを呼び込んでいること自体、高い評価を受ける。それはトレーニングやプレシーズンにおいて佐藤がそれだけの実力をチームメイトに証明してきた証拠で、同時に技術力や連係力の高さも物語る。日本人選手がスペインに渡ると、「パスが来たら、うまくいくのに......」と恨み節になりがちで、確かに偏見も残るのだが、成功体験を重ねていれば自然とボールは来るのだ。

 心配なのは、佐藤個人よりもバレンシアのチーム状況だろう。

 2000年代、バレンシアは黄金期を迎えた。ラ・リーガではGKサンティアゴ・カニサレス、DFロベルト・アジャラ、カルロス・マルチェナ、アメデオ・カルボーニ、MFダビド・アルベルダ、ルベン・バラハなど、堅牢なディフェンスからのカウンターで2度もリーグ優勝。欧州カップ戦出場の常連で、2000年、2001年にはチャンピオンズリーグのファイナリストになったし、2004年にはUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)で優勝した。しかし、栄光も過去の話。今季まで最近の7シーズンは欧州カップ戦出場を逃し、下位に引っ張られた戦いが通例になりつつある。

 昨シーズンも、バレンシアは第23節でレアル・マドリードに負けたあとは17位まで順位を下げ、降格の危機にも見舞われたほどだった。最終的に9位で終えられたのは、最終節までの4試合で3勝1分けと巻き返したからだが、これも"相手の消化試合に当たったから"にすぎない。

 2024年12月からチームを率いるスペイン人カルロス・コルベラン監督はプロ選手としてのキャリアはないに等しい(4部リーグ以下のクラブの控え選手)が、リーズ時代はマルセロ・ビエルサの参謀役も務めるなど、理論派として知られる。プレッシング戦術は最先端で、堅固な守備は構築できるが、攻撃の多様性を生み出せず、5バックもかなり不評を買っている。

 もっともここ数年、クラブの補強はうまくいっておらず、コルベランは「ツケを払っているだけ」とも言われる。強かった時代とのギャップも重なり、状況は相当に厳しいものがある。ダビド・ビジャ、ダビド・シルバなどが去ったあとはチームのアイコンも不在なのだ。

 その意味でも新加入の佐藤への期待は高い。得点の予感が乏しいチーム(開幕から2試合ともホームで無得点)にあって、プレシーズンは得点を重ねてきた。高い技術は再現性を感じさせる。

 ただし、過度の期待には注意が必要である。バレンシアのファンにとって至高のトップ下は、かつてのアルゼンチン代表パブロ・アイマールだと言われる。そのレベルのファンタジスタはいまや世界でも希少で、同タイプは絶滅危惧種となりつつあるだけに......。

 佐藤は日本人として新たな攻撃のリーダー像をバレンシアで築き上げられるか――。それに挑むシーズンが幕を開けた。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

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