〈16歳勾留後に衰弱死〉「オーバーに言ってしまった」のちに覆された施設利用者の“虐待申告”はなぜ逮捕に発展したのか?  県警、地検、法務相はそろって「お答えできない」
〈16歳勾留後に衰弱死〉「オーバーに言ってしまった」のちに覆された施設利用者の“虐待申告”はなぜ逮捕に発展したのか? 県警、地検、法務相はそろって「お答えできない」

兵庫県警が暴行容疑で逮捕した障がい者支援施設のスタッフ、るなさん(仮名、当時16歳)への捜査は、施設利用者が「虐待ではないか」と自治体に申告したことから始まった。だがその証言は後に本人が覆し、容疑自体が存在しなかった可能性もある。

障がい者支援の活動が「犯罪」とされたことの重大さを知ってほしいと、るなさんの遺族と弁護団は訴える。支援活動の現場で一体なにが起きていたのか。るなさんの母親に話を聞いた。

「虐待ではないか」申告はなぜ16歳女性の逮捕に発展したのか

るなさんは、母のA子さんが責任者を務める兵庫県内の障がい者支援施設で働き、障がい者支援を自分の生きる道だと考えていたという。

A子さんは、「元気はつらつで思いやりをもって利用者さんに接する子でした。施設のイベントはすべて彼女が考えていました」と話す。

昨年2月15日、るなさんが企画した行事であるバレンタインイベントが開かれた。そこで知的障がいをもつ女性Xさんが、他の参加者を噛もうとする行為があり、るなさんと成人男性スタッフのBさんが「あかんよ」と言いながらXさんのあごに手を添え、制止したことがあった。

この場にいた別の利用者で知的障がいを持つ女性Yさんが、約1カ月半後の去年4月1日、住居があるα市の窓口で福祉関係の手続きをした際、「(るなさんとBさんのXさんへの行為は)虐待なのではないか」と申告をする。

この情報がXさんの居住地のβ市と明石警察署に伝えられ、同年6月17日、同署はるなさんとBさんをXさんへの暴行容疑で逮捕。小野警察署で勾留されたるなさんは容疑を否認し続けたが、「ショックで食べれない」(被疑者ノートの記載)状態になった。7月3日に嘔吐して緊急搬送されるが、即日、留置場に戻されて翌4日に釈放される。

被疑者ノートには取調官が、「Bは言ったぞ」「なんでBと言ってる事がちがうんやろな」などと言ったと記されている。

だがBさんも容疑を認めた事実はない。

A子さんの代理人、佐々木正博弁護士は、「事実と全く異なるウソを言って不安を煽り、錯誤に基づく自白を誘導しようとした」と、違法な捜査があった可能性を指摘。るなさんが倒れたことで当局はようやく釈放したとみている。

食事を受け付けない体になっていた、るなさんの体重は釈放翌日には27.7キロしかなく、逮捕前より約10キロも減っていた。体は快復せずに痩せ続け、12月14日に「低栄養状態」で亡くなった。

のちに覆された“虐待申告”の背景にあったもの

結局、神戸地検は2人を不起訴としている。弁護団の調べでは、35人いたイベントの参加者で逮捕前に警察が事情を聴いた人はYさん以外にはいないという。さらにYさん自身ものちに「ぎゃくたいではないと思った。オーバーに言ってしまってすいませんでした」と書いた手紙をA子さんに送り証言を覆したという。母のA子さんが経緯を話す。

「Yさんは私たちの施設を長く利用していたので、信頼関係はあります。それで、るなが警察には謝ってほしいと願ったので、釈放後の去年8月に明石警察署を訪ねた時、Yさんも一緒に行ってくれました。その場でYさんは『虐待かどうかはわからない』とはっきり言ったんです。

私は警察官に『これで逮捕したんですか』と質しました。すると警察官は『そんなわけない。こんな風に(Yさんが当初は)言ってないから捕まっているんでしょ』と言いました」(A子さん、以下同)

弁護団によれば、今年3月、Yさんは再度面会したA子さんに、「るなさんやBさんは(Xさんの)あごを押さえたのではなく手を添えていた。α市や警察、Xさんの親にオーバーに言ってしまった」といった趣旨の説明をし、その後「自分が言ったことのふりかえりをすると、ぎゃくたいではないと思った」と書き、謝罪を添えた手紙をA子さんに送っている。

「娘に何が起きたのか」遺族が国と県に問う捜査の責任

ただ、A子さんの言葉からは捜査の発端となったYさんを責める気持ちは感じられない。Yさんは以前にも別の施設をめぐって虐待を申告したことが複数回あり、「虐待じゃないか」との申告の直前には、「Yさんの世話を一手に引き受けていた担当者が辞めたことで気持ちが不安定になっていた可能性がある」とも話す。

問題はYさんではなく、虐待情報の真偽が調べられることもなくいきなり施設スタッフが逮捕されたことだとA子さんは訴える。

「虐待通報があれば通常、“被害者”とされた人が暮らす自治体が当人や施設など関係者に事情を聴いて本当かどうかを判断する場合が大半です。でも今回は(被害者とされたXさんが暮らす)β市からは何も問い合わせがなく、突然警察が来て逮捕しました。

それで私は逮捕当日にイベントの資料を持って明石警察署へ行き現場の事情を全部説明したのに、るなとBさんの勾留が続いたのです。こうなると障がい者支援に関わる者は誰が守ってくれるんですか」

佐々木弁護士は、「警察、検察が、障がい者支援の現場を少しでも知り、障がい者の特性を踏まえ、適正に捜査し、適正に手続きを踏んでいれば、るなさんは今もきっと生きていたはずです」と話す。

今年6月に国や県を相手に起こした国家賠償請求訴訟を通じ、A子さんと弁護団は、違法な捜査や健康管理義務違反の責任を問うだけでなく、障害者支援に取り組む人が安心して支援できる環境をつくりたいと話す。

関係機関にA子さんの主張に対する説明を求めたところ、

「個別の案件についてはお答えできない」(兵庫県警)

「ご遺族が国家賠償請求訴訟を提訴した旨の報道は承知しているが、個別事件の捜査の具体的内容にかかわる事柄でもあり、訴状の送達も受けていないためコメント取材をお受けすることはできない」(神戸地検)

「一切お答えできない」(β市)

と、それぞれ回答した。

また平口洋法相は7月9日の参議院法務委員会で受け止めを聞かれ、

「個別事件における捜査の具体的内容にかかわる事柄であることから法務大臣としての所感を述べることは差し控えたい」

とだけ述べた。

A子さんは訴える。

「教えてほしいです。娘に何が起きて、なぜ逮捕され、勾留され、そしてなぜ命を落とすことになったのか。なぜ16歳の娘が信じていた優しさや思いやりが十分に届かなかったのかを」

そんな訴えを問う法廷が間もなく始まる。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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