〈企業が知らない“シャドーAI”の実態〉社員の59%が「AIを使ったことを伝えていない」…46%が「機密情報をアップロード」の衝撃
〈企業が知らない“シャドーAI”の実態〉社員の59%が「AIを使ったことを伝えていない」…46%が「機密情報をアップロード」の衝撃

ChatGPTやGeminiなど、生成AIの業務利用が急速に広がる一方、その実態を会社側が把握できているとは限らない。国内調査では、生成AIで作った成果物を提出・報告する際、59%が「AIを使ったことを伝えていない」と回答。

海外では、46%が機密の会社情報や資料を無料の生成AIにアップロードした経験があるとの調査結果もある。社員はなぜ、会社に隠れてAIを使うのか。禁止すれば問題は解決するのか。企業の目が届かないところで広がる“シャドーAI”の実態と、生成AI時代に本当に必要な向き合い方を考える。

「人間の仕事は奪われるのか」とかいうでっかい話の前に…

最近、企業の広報担当者から「生成AIって、実際にはどう使えばいいんですか」と聞かれることが増えた。

これは別に生成AIの未来について聞かれているわけじゃない。「AIによって社会がどう変わるのか」とか、「人間の仕事は奪われるのか」とか、そういう立派な話ではなく、もっとゲンジツ的な話だ。

ChatGPTを開いた。で、何を入力すればいいのか。会社から「AIを活用しろ」と言われた。でも、明日の仕事をどう変えればいいのか。みんな、そこで止まっている。

実際、そういう内容の講演を、いくつかの企業でやってきた。

相手は名も知られていない小さな会社ばかりではない。東証プライムに上場してるような大企業でも、生成AIを本当に仕事で使えている人は、まだ驚くほど少ない。

もちろん、ChatGPTやGeminiの名前くらいは知っている。「会社でも導入を検討しています」とも言う。しかし、日常的に使っているかと聞くと、途端に話があやしくなる。

メールの文章を整えたことがある。会議の議事録を要約させたことがある。ニュース記事を短くまとめさせたことがある。だいたい、そのあたりで止まっている感じ。50代なんて、覚えずに逃げ切ろうとしている人だって多い。

「私は競馬の予想をさせています」

一方で、講演の後に近寄ってきて、「私は競馬の予想をさせています」と小声で教えてくれる人がいる。まったく仕事に使ってないじゃないか、と思うだろう。でも、むしろ、こういう人のほうが期待できると思っている。

競馬の予想をさせようと思えば、過去の成績をどう与えるか、馬場状態をどう説明するか、騎手や距離との相性をどこまで考慮させるか、いろいろ試すことになる。

最初の回答が外れれば、質問の仕方も変える。「その予想の弱点を挙げろ」と言ってみたり、「人気を無視して穴馬だけ探せ」と命じたりする。

当たるかどうかは知らない。そこは生成AI以前に、競馬というものが難しい。ただ、その人はすでに、頼み方によって答えが変わることを知っている。AIの言うことをそのまま信用してはいけないことも、たぶん身をもって学んでいる。

59%が「AIを使ったことを伝えていない」

会社の研修で「プロンプトとは、AIに与える指示文です」と教わった人より、競馬で何度も外した人のほうが、AIの性格をよく理解していることだってある。

そんなことを言うと、「企業ではまだ生成AIが普及していないのだろう」と思われるかもしれない。ところが、実態は少し違う。会社が把握していないだけで、社員はもう使っている。

インターグが2025年11月、全国の20代、30代の社会人535人を対象に実施した調査では、39%が仕事で週1回以上、生成AIを使っていた。さらに、生成AIで作った成果物を提出・報告するとき、59%が「AIを使ったことを伝えていない」と答えた。

一方、生成AIに関する教育を会社が十分に提供している、または提供していると答えた人は27%にとどまる。社員は使い始めているのに、会社の教育とルール作りは追いついていないわけだ。

別の国内調査でも、業務でAIを使っている人のうち過半数が、上司や同僚に利用を隠した経験があると答えている。20代では、その割合が63.1%に達した。どうして隠すのか。

これは一つの理由に断定できる話ではない。ここからは、私が企業の現場で話を聞いてきた経験を踏まえた推測である。

AIを使ったことを会社に隠す理由

AIを使ったと明かせば、「何に使ったのか」と聞かれる。業務以外のことにも使っていたのではないかと疑われる。入力した内容まで会社に知られるかもしれない。

さらに、AIがもっともらしいウソをつく、いわゆるハルシネーションが交じっていたら、「なぜ確認しなかったんだ」と詰められる。つまり、AIを使ったことを申告しても、得をする場面があまりないのだ。

仕事が早くなったと評価される保証はない。

むしろ、使い方を細かく聞かれ、間違いがあれば責任を負わされ、私用まで疑われるかもしれない。それなら、AIを使ったことは黙っておき、完成した成果物だけ出したほうが安全だ。

なんとも窮屈な話だが、社員の側から見れば、それなりに合理的な判断でもある。これは日本人だけの話ではない。

WalkMeが2025年7月、米国のAIを利用する就業者1000人を対象に調査したところ、78%が勤務先に承認されていないAIツールを使ったと答えた。

49%は、評価が下がるのを避けるため「AIを使っていない」と偽って伝えた経験がある。Z世代では62%に上った。

46%が機密の会社情報を生成AIにアップロードしたという調査結果も

さらに45%が、会議でAIについて分かっているふりをしたという。使っていることも隠す。分かっていないことも隠す。もう何を隠しているのか分からない。

米国、英国、オーストラリアのデジタルワーカー6000人を調べたGleanの「Work AI Index 2026」でも、87%が職場でAIを利用する一方、32%は利用を隠し、33%は実際より控えめに申告していた。

メルボルン大学とKPMGが47カ国で実施した調査でも、就業者の57%が職場でのAI利用を隠し、AIが作った成果物を自分のものとして示したと答えている。

同調査の米国データでは、46%が機密の会社情報や資料を無料の生成AIにアップロードした経験があると回答している。

設問も対象者も違うので、数字の単純比較はできない。ただ、日本、米国、英国、オーストラリアを含む複数の調査で、かなりの社員がAIを隠れて使っていることは間違いない。

「シャドーAI」などと、何やら悪の秘密結社みたいな名前まで付けられている。でも、本当の問題は社員が隠れて使うことだけじゃない。会社が、隠れて使うしかない環境を放置していることだ。

企業から相談を受けると、「まず利用を禁止したほうが安全ですか」と聞かれることがある。たしかに、顧客名、未発表の決算数字、契約書、人事評価などを、無料の生成AIにそのまま貼り付けるのはまずい。

46%が一般公開のAIツールに会社の情報を貼り付けた経験

先のKPMG・メルボルン大学調査の米国データでも、46%がChatGPTやGeminiなど一般公開のAIツールに会社の情報を貼り付けた経験があると答えている。本人が、それを機密情報だと理解していない場合もある。だからルールは必要だ。

しかし、「危ないから全面禁止」で終わらせるのも考えが甘い。禁止したところで、社員は自分のスマートフォンで使う。

自宅で使って、結果だけ会社に持ってくる。会社に見えなくなるだけで、利用そのものがなくなるとは限らない。

しかも、隠れて使うようになれば、何を入力してよいのか、AIが出した数字や固有名詞をどう確認するのかを教える機会まで失われる。道路が危険だから自動車を禁止する、みたいな話だ。危険だからこそ、ルールを作り、事故が起きにくい環境を整える。それが普通だろう。

生成AIも同じである。でも、社員の側からすれば、会社の立派なガイドラインが完成するのを待っている必要はない。まずは毎日使うことだ。

最初の一歩はGeminiでOK

仕事の機密情報を入れず、失敗しても困らないことから始めればいい。

私自身、生成AIの回答にはそれほど信用を置いていない。平気でもっともらしい間違いを言うし、存在しない資料を作ることもある。どのAIが一番賢いかという話も、機能が次々に変わるので、半年もすれば結論が変わる。

ただ、最初の一歩としてはGeminiでいいと思う(私はあまり信用してないが)。GeminiはGoogleマップなど、Googleのサービスとの相性がいい。たとえば、こう聞けばいい。

「東京駅付近で、Googleマップの評価を参考に、コストパフォーマンスのいい店を教えて」

「新宿で接待に使えて、1人1万円以内、完全個室があり、駅から徒歩5分以内の和食店を探して」

「異性と行ったら相手が喜んでくれるようなおしゃれなバーないかな。あんまり高くないほうが嬉しい」

普段使いなら、間違ってても、致命傷にはならない。どういうときに嘘をつくとか、どういうことが得意なのかとかを知るには普段から、体で覚えることだ。

場所だけでなく、予算を入れる。人数を入れる。相手の年齢や目的を入れる。避けたい条件を入れる。

最初の候補に不満があれば、「高すぎる」「駅から遠い」「チェーン店は除外」と言い直す。そうやっているうちに、AIへの頼み方が分かってくる。

生成AIの使い方を覚えるのに、最初から「自社の経営戦略を立案させよう」なんて力む必要はない。ランチの店を探す。旅行の日程を考える。長いメールを短くする。競馬の予想をさせる。

ただ、どうでもいいことに何度も使った人だけが、どうでもよくない仕事に使えるようになる。会社が認めるまで待つのか。完璧な研修が始まるまで待つのか。それとも、今日の夕食の店でも探してみるのか。結局、それだけの話なのだ。

文/小倉健一

 

編集部おすすめ