今も変わらぬ人気を集める『ドラゴンボール』。
フジテレビ系アニメ『ドラゴンボール超(スーパー)』も絶好調。
関連グッズの勢いも天井知らず。週刊少年ジャンプでの連載終了から22年。未だ増殖し続けるドラゴンボールワールドに驚くばかりだ。

当時のジャンプで『ドラゴンボール』が抜けた穴は大きかった。
そこで翌96年、激減する発行部数へのテコ入れとして取られた策が、『Dr.スランプ』&『ドラゴンボール』(ピッコロ大魔王編まで)の名物編集者、鳥嶋和彦氏(Dr.マシリトのモデル)の編集長への抜擢だ。
鳥嶋氏は鳥山先生にとって、デビュー前からの育ての親。
ある意味、絶対的な主従関係がある。編集長就任には、鳥山明先生をセミリタイア状態から復帰させるという意味合いも大きかったと思われる。

鳥嶋氏にせっつかれた(?)鳥山先生は、読み切り作品を何本か経て、97年には3週掲載して1週休載という変則スタイルの短期集中連載『COWA!』を発表している。
『COWA!』は、絵本のような世界観のハートフルな物語。鳥山先生自身は1番のお気に入りと語るが、当時のジャンプの路線からはあまりに異色。正直、売り上げに繋がる作品ではなかった。


ジャンプ創刊30周年記念の目玉として始まった『カジカ』


そこで、98年32号から始まったのが『カジカ』。『COWA!』の連載終了から4ヶ月ほどでの新連載だ。
週刊少年ジャンプ創刊30周年記念の3号連続新連載第2弾として、華々しくスタートを切っている。

ちなみに、第1弾は『シャーマンキング』(武井宏之)。コアな人気を集め32巻の長期連載に。アニメ化もされた準看板作品だが、後半は巻末掲載が定位置となり打ち切られた伝説の“未完”作品である。(後に完全版で正式な最終回までが大幅に加筆されている)

第3弾『Base Boys』(にわのまこと)は、不良たちの野球漫画。
後にドラマや映画で大ヒットする『ROOKIES(ルーキーズ)』と内容ダダ被りとあって全2巻で撃沈している。
(「蠱毒(こどく)」ともいえる同ジャンルの同時期連載は悪習としか思えないのだが……。)

『ドラゴンボール』の再来!? 読者の期待は高まるばかり!


さて、話を戻そう。
その『カジカ』開始号では、ジャンプ創刊時からの歩みを振り返るオールカラーの特別企画も掲載。ジャンプから離れてしまった読者を、鳥山先生「完全復活」とのW企画で呼び戻そうという思惑もあったに違いない。

「完全復活」というのは、この作品の世界観がほぼ『ドラゴンボール』にあったため。
表紙のあおりには「『竜の伝説』をめぐる大冒険が今、始まる!!」とある。


鳥山先生がキャラクターデザインを務める『ドラゴンクエスト』や、『ドラゴンボール』を思い起こさずにはいられない、そそるキャッチコピーだ。
『カジカ』の扉でも「ヒーロー伝説は終わらない!!」「ただいまっ!!みんなが待ってた新英雄(ニューヒーロー)がやってきたぞ!!」と、『ドラゴンボール』の再来的にあおりまくる。

新たな看板作品の誕生を、読者は大いに歓迎したのだが……。

あまりに『ドラゴンボール』すぎた『カジカ』


「カワ族」の生き残りであるカジカは、不用意に殺してしまったキツネに呪われてキツネ人間の姿となり、持ち前の高い戦闘力を封印されてしまう。その呪いを解くため、1,000匹の生き物の命を助ける旅を続ける中、絶滅寸前の竜のタマゴをめぐる争いに巻き込まれ……。

戦闘民族サイヤ人的な主人公は大猿の尻尾ならぬキツネの尻尾を持ち、「鷲風(しゅうふう)」というエネルギー波を操る。呪いが解けると、スーパーサイヤ人的なパワーアップを果たす。

まあ、ほぼ悟空である。

竜のタマゴ(=竜の子どもの血)がとてつもない力を与えるキーアイテムであり、それを伝えるのは自分勝手でわがまなな女性。
こちらは、ドラゴンボール的な存在とブルマ。そう、『ドラゴンボール』要素が濃すぎなのである。

車田正美先生が、『聖闘士星矢』の後に二番煎じの『サイレントナイト翔』で大コケした(記事はこちら)不安がよぎる……。

『カジカ』からは鳥山明先生のやる気が感じられない!?


しかし、本当の不安は鳥山先生のモチベーションにあった。何しろ、この連載開始に対してボヤキっぱなしなのである。


巻末の作者コメントでは「前作『COWA!』とはガラリと変えて、冒険モノ(になる予定)です。年相応にそこそこガンバル(予定)なのでヨロシクね!!」と弱気一辺倒。
ページ欄外にも「これ以上仕事を増やしたくないのでボク(鳥山明先生)の漫画が読めるのはたぶんジャンプだけ!!」と、冗談を交えた本音がチラリ。

次号予告で「旅は始まったばかり!」とあおる割には、カジカは出だしからかなりの強キャラ設定。呪いを解く目的にしても、すでに990匹を救済し、残り10匹の状態。1話目にして、物語はある意味終盤戦なのだ。
そして、その不安はすぐに現実のものとなる……。

看板作品になるどころか、短期連載であえなく終了


連載途中から扉絵に「最終回まであと○話」と予告され始めたのだ。

背景を描く負担が少ない無人の荒野が舞台なのはお約束だが(文明が滅んだ世界という設定で正当化する荒業を披露)、大ゴマを多用したバトルシーンもあっさり風味だし、ストーリー展開も常に巻き状態。
正直、やっぱりそうか……が当時の感想。前作、『COWA!』が短期集中連載だった時点で、気付くべきだったのである。

結局、全12話でコミックスは1巻のみ。コミックスの作者コメントには「できるだけボク一人でやるようにしている。自分だけのペースでできるからだ。ただ、かなりしんどいので12回ぐらいが限界」とある。

どうやら、鳥山先生の中では短期集中連載は既定路線だったが、編集部というか鳥嶋編集長ができる限り引き伸ばそうと画策。鳥山先生的には『ドラゴンボール』がなかなか終了できなかった経緯があったことから、確実に終わらせるために最終回へのカウントダウンを告知したように思えるが、果たして……。

ストーリー自体は綺麗にまとまっているが、鳥山先生自身がこの作品を語ることはない。『ドラゴンボール』的な内容を“嫌々描かされた”のだろうか?

前作『COWA!』、次作『SAND LAND』、2013年の『銀河パトロール ジャコ』と、いずれもジャンプの短期集中連載だったこれらの作品は大好きと語っているのが、より切ないのである……。