ソウルの街を歩いていると、東京地区のナンバープレートが設置された、不可解な原付によく出会う。

最初にこれを見つけた時は、韓国で日本の風景に出会う驚きに、なんでやねーんと愛のある突っ込みを入れていた私であるが、しかしよくよく見るとソウルは東京ナンバーであふれており、いちいち突っ込んでいたらきりがない、と思うようになってきた。

日本人だから日本語に反応してしまう、というのもあるかもしれないが、とにかくやたら目に付くのである。今回、証拠写真を撮ろうと街へ繰り出したところ、わずか5分ほどで数件の東京ナンバーに遭遇。それぐらい高い出現率であった。

韓国の検索サイトでナンバープレートを探してみると、韓国でどんな東京ナンバーが出回っているのかよくわかる。
なかでも圧倒的に多かったのが、写真のような「新宿区 モ3げ57」ナンバーだ。これは私も確かによく見かけた気が。

韓国で生産されているのであろうこの新宿区ナンバー、数字やカラーはバリエーションがいくつかあるが、文字部分はあくまで「モ・げ」となっている。何だろう、この2文字が醸し出す絶妙な脱力感は。たくさんある日本語の中から、カタカナの「モ」とひらがなの「げ」を選んでしまう引きの強さに脱帽だ。

他には単なる「東京」のナンバーも多く、その場合一文字のひらがなは「あ」という無難なものが多いが、ひらがなの変わりに「バイク」と書かれたシュールなナンバープレートもあった。
「新宿区」「東京」以外の地域のナンバーは稀少だが、わずかに「足立区」なんてのもある。たくさんある区から、なぜに足立区? まあ、いいんだけど。


「新宿区モげ」ナンバーを1万ウォン(約760円)で取り扱うバイク専門S店に、これは一体何なのか聞いてみた。
「韓国では50cc未満のスクーターに、ナンバープレートの設置義務がありません。そこで、ファッションとしてこうしたプレートをつけているんです」
東京ナンバーが登場したのは、だいたい5年ほど前のことだとお店の人は語る。
「最初は誰かが、日本から持ってきた本物のプレートを貼っていたみたいですね。それがおもしろいと広まって」
日本だけでなく、欧米のものを模したナンバープレートも多いそう。
「最近は韓国語のものに人気があって、“私は初心者です”などと韓国語で書かれたプレートが良く売れています」

ところで、こうした韓国ならではの「東京ナンバー原付」も、やがて消えてしまう運命にある。

2011年から、50cc未満の原付にも、国で定めたナンバープレートの着用を義務づける計画があるからだ(2009年5月26日国土海洋部)。
そうなれば当然、東京ナンバーが使用される機会は一気になくなってしまうわけだが、このファニーなアイテムが街から消滅する前に、読者の皆様には韓国を訪れていただき、異国の東京ナンバーが醸し出すパラレルワールド感を、ぜひとも体験してほしいと思う次第である。
(清水2000)