先日、目、耳、口の「寝る順番・起きる順番」についての調査記事を書いたが、去年10月に、クラシック曲を観客に聴いてもらい、脳波計で“眠さ”を測定する「睡眠コンサート」なるものが大阪で行われていたことを知った。

これってつまり、寝ている間もやっぱり耳は起きているということ? 

コンサートを企画した「日本睡眠学会」の大阪バイオサイエンス研究所・裏出良博研究部長に聞いた。

「これは本当に良い質問です。そして、科学的に正確に答えるのが難しい疑問です。動物は寝ることが命取りになることもあるのに、命がけで寝ます。そもそもなぜ寝るのか? そんな“寝ることの意味”すらわかっていないんですよ」

眠りに関する様々な研究が行われるなかで、まだはっきりしていない事柄は非常に多いらしい。
「確かに眠くなると瞼が重くなるけれど、目から最初に寝るわけじゃないと思います。おそらく脳が最初に眠るのだと思います。
そもそも目をあけるには、エネルギーがいります。眠って意識が無くなると、力が抜けて目を閉じてしまいます。つまり、口をあけるのと同じく、目も意識的にエネルギーを使って開けているのです。そして、眠るために目を閉じるのです」

眠りを妨げる一番の刺激は「光」だと言う。
「たとえば、授業中でも、眠くなると自然と目を隠すでしょ。また、カーテンを閉めていると光に気づかず、寝過してしまうし、朝日が差し込むと、目がさめます」
一方、鼻や耳は寝ても「閉じない」。
構造上、常にあけっぱなしだからだ。

「特に努力しなくても音は耳に入ってきて、鼓膜を刺激し、その情報は脳に届きます。ただし、眠ると、音の刺激が脳に届いても、脳が受け止めない、つまり、音を認識しなくなるんです」
その証拠に、街の真ん中や高速道路沿い、線路のガード下など、騒音のひどい場所で暮らす人も、日常的な騒音に慣れてスヤスヤ眠ることができる。ところが、そんな環境で暮らす人も、窓ガラスが割れたり、モノが落ちた音などではパッと起きるという。
「こんなことができるのは、寝ている間でも音がずっと聞こえているからです。しかも、音の大小はあまり関係なく、電車の音のほうがずっと大きな音であっても、その音は安全とわかっているとスヤスヤ眠ることができます。
でも、小さな音でもモノの落ちる音・割れる音などは、“危険”と判断して、すぐに起きます」
脳は「慣れている音=安全」、「聞き慣れない音=危険」と判断するのだそうだ。

耳に入る「音」は、危険を感知するためのとっても重要な情報であり、眠って意識がなくなっていても、脳は自分で自分を起こせるようになっているのだという。
「会社に行くときや気の乗らない家族サービスのときなどは、大きな音で目覚ましが鳴っていても、聞こえなかったり、無意識で止めたりする。それでいて、自分が楽しみにしているゴルフや釣りに行くときは、奥さんや子供を起こさないように、目覚ましが鳴る前にパッと起きることができる。人間の頭はズルイんですよ(笑)」

「目覚ましの音が聞こえない」という人は、慣れによって「安全」と認識してしまっている可能性アリ。大事な場面では、お母さんが怒鳴る声など、「危険」と感じる音にかえてみるのも良いかも。

(田幸和歌子)