寒波や大雪など、予想外に寒いこの冬。ふと思い出すのは、かつてわが家で飼っていた犬が、雪の中に一生懸命おやつやオモチャを隠していたことだ。


少し大きめのエサやオモチャをあげると、必ずクウクウと切なげな声をあげ、困った様子でウロウロした挙句、土に埋めていた我が犬。
これは「宝物」を隠す行為だと思うのだが、どの犬もやることなのだろうか。ドッグテックジャパンのエリアマネージャーで家庭犬行動セラピストの山田夏子さんに聞いた。

「野生のオオカミは、食べきれなかった肉や骨を土に埋めて隠し、必要となったときにそれを食料とすることがあります。犬はオオカミではありませんし、毎日きちんと食事を与えられていますが、それでもこの本能が働くことがあるようです」

犬の種類や年齢はあまり関係ないようだが、総じて言えるのは「物に執着するタイプの個体に多い行動」ということ。また、妊娠(または偽妊娠)したメス犬がオモチャを子犬のように大切に守ろうとして隠すような行動をとることもあるのだという。


それにしても、なぜ大事なものを埋めてしまうのだろうか。せっかく大事なものなのに。しかも、なぜ悲しそうなのか。
「大事なものだからこそ、隠そうとするのです。鳴き声をあげたりウロウロしているときは、心理的に余裕がなく、強い個体に横取りされないよう安全な隠し場所を探すことに必死なのだと思います」

「強い個体」って、私たち!? オモチャもエサもとったりしませんよ!

ところで、気になるのは、「埋めた後のお宝」のこと。我が家の犬の場合、埋めた後に掘り出す様子を見たことがないのだが、掘り出して後に食べるということはあるのだろうか。

「オオカミの場合は、掘り出して食べることはあります。犬によって隠す行為に満足して、あとは忘れてしまうこともあれば、同じオモチャを別の場所に運んではまた隠したり、という行動を繰り返すケースもあるようです」

都会で暮らす犬など、室内犬はこうした「宝物隠し」はしないのだろうか。
「犬がソファやベッド、毛布などを一生懸命前足で掻いている姿を見たことはありませんか? 頭の中ではまさに穴掘りをしている状態です。マンション住まいの犬であっても、隠したければ自分の寝床の敷物の下や、家族の洗濯物の中、リビングのソファの下など、土にかわる場所を見つけて隠すでしょう。また、宝物隠しだけでなく、単なる穴掘りや宝物探しも犬にとっては大変楽しい遊びのひとつです」

我が家の犬の場合、オモチャでも、一瞬で食いちぎったモノもあれば、散々ウロウロした挙句、念入りに埋めていたモノもあった。
「宝物」の基準って、何なのだろうか。

「オモチャでも食べ物でも、他の個体に横取りされたくないものであることは間違いないと思います。犬によって何が宝物になるかは個体差があります。ボールが大好きな子、ぬいぐるみが大好きな子、骨が大好きな子、ボロボロになったスリッパが宝物の子もいるでしょう。犬が大好きなものは、それを与えてもらうときの輝く瞳や、喜びを隠しきれないほどに高揚した様子でわかると思います」

犬の本能に刻み込まれた「宝物探し」。切なく、愛おしいです。
(田幸和歌子)