先日、ある会社を訪問した際、恥ずかしながら筆記用具を忘れたため、ペンを所望したところ、「そこにあるペン立てから自由に使ってください」とのことだった。

お言葉に甘えて、ボールペンを取ってみたのだが、インクが出ない。
2本目も、インクが出ない。3本目でようやく、インクが出るペンに巡り会えた。

「手に取ったボールペンが使えない」というのは、たいしたことのない問題のようだが、これが日常的に起こると、相当イライラするものである。この問題は、使えなくなったボールペンを、捨てずにペン立てに戻す、ということがそもそもの原因となっているわけだが、人は何故、使えないボールペンをペン立てに戻してしまうのだろうか?

これについて、様々な知人から意見を募ったところ、主に以下のような原因があることが分かった。

1)自分のペンじゃないから捨てられない

会社の職場などに多く、また家庭の場合でも、自分が置いた覚えの無いペンはなんとなく捨てにくいということもあるようだ。

ある知人によると、「作業場のペン立てには3本のボールペンが入っているんだけど、3本のうち2本が使えない状態で、1発目で 使えるペンを手に取れるかが恒例の運試しになっている」という、毎日がおみくじ状態の職場もあるようである。


あまりにも使えないペンが職場に多い場合は、会議の議題に出す、社長に直訴する、その場で「このペン捨ててもいいっすかー!?」と大声で聞いてみる、などの方法が考えられるが、どれも勇気のいる行動であり、中々難しいようである。

2)もしかしたらそのうち使えるかもしれない

書けないけど、インクはたくさん残っている、そういうボールペンは意外に多い。「そのうち使えるようになるんじゃないか」という淡い期待を持ってペン立てに戻されるボールペンも相当数あるのではと思われる。また最近は替芯というのもあり、中身さえ取り替えれば使えるようになる可能性もある。

だがしかし、みんな忙しいので、そんなことをする暇もなく、使えないボールペンはいつまでたっても使えないようだ。

昔放送されていた生活の裏技紹介番組「伊藤家の食卓」では、インクのあるボールペンを復活させる方法として以下のような技が紹介されていたらしい。


・輪ゴムの中にボールペンを入れて、両側をテープでとめる 
・ボールペンをぐるぐる回して輪ゴムをねじり、手を離してペンを回転させる

要するに遠心力をかけてインクをペン先に出すというものであり、30%くらいの確率で復活するようである。ペン立ての近くに、輪ゴムとテープを置いておけば、誰かがやってくれるかもしれない。

3)もったいない

もはや世界標準語にもなった「もったいない(MOTTAINAI)」。まだキレイなボールペンを、インクが出ないからって捨てるなんて、もったいない。

ところで、経済学には「埋没費用(サンクコスト)」という言葉がある。これはどうやっても回収することのできない費用のことで、例えば、つまらない映画を見るために払ったチケット代は、埋没費用である。


経済学では、未来の行動を決定するとき、埋没費用を考慮することは合理的ではない、とされる。「使えないボールペン」は、すでに(モノを書くという)価値を失った物であるので、埋没費用であり、さっさと捨てて新しいボールペンに取り替える、というのが経済学的には合理的な判断となる。

しかし、人間、そんなに簡単に割り切れないので、「使えなくなったペン立て」を別で用意してみるというのはどうだろうか。ボールペンをここに順次入れておけば、心が痛むこともない。また、先の埋没費用の話は、「ボールペンが使えるようになる」という可能性を考慮しない場合の話なので、心優しい誰かが、上記の裏技で復活させてくれれば、それはそれで合理的なのである。

これらを参考に、ペンを手に取ったらいつでも使える、「使えるボールペン率100%職場(または家庭)環境」を目指して、がんばっていただきたい。

(エクソシスト太郎)