1948年、1975年、2009年……3時代の空中写真に分かりやすい解説を添えた「空から見る戦後の東京 60年のおもかげ」（実業之日本社）が人気だ。眺めているだけで新たな発見に遭遇する。
●新宿
まずは新宿の空中写真から。じっくり鑑賞して、見比べてみてください。
▲1948年
新宿駅の西側は、1898年から1965年までの約70年間、浄水場（淀橋浄水場）だった。跡地は新宿副都心の高層ビル群となっている。（空中写真 左手参照）
「新宿御苑にはゴルフ場もありました」（竹内さん）
ゴルフ場は皇族専用のコースとして大正時代に誕生。
▲1975年
淀橋浄水場が閉鎖されて10年が経過した頃の様子。跡地は建設途中のビルや、まだむき出しの土地が目立つが、京王プラザホテル（47階、179メートル）、新宿住友ビル（52階、210メートル）、新宿三井ビル（55階、225メートル）は完成している。新宿三井ビルは完成時は日本一の高さのビルだった。
▲2009年
1996年、新宿駅南側に高島屋タイムズスクエアが開業。かつてJR東日本の貨物ホームがあった場所だ。
写真は国土地理院が所有する空中写真を三世代に区分けしている。空中写真は上空から真下を撮影したもので、フィルムの四隅に記録される建物はゆがみ、外側に倒れこんで写ってしまう。そうした空中写真を何十枚もつなぎ合わせて構成されている。違和感が少なくなるように微調整するのは大変な作業だったそうだ。
「発売に至るまでに、かなり時間がかかりました。携わっていただいた皆さんのおかげです」
●有楽町（東京駅・皇居周辺）
▲1948年
名称をピンク色で書かれた建物は接収された物件だ。丸の内のおもな建物はほとんどが接収されていた。
「東京駅の駅舎こそほとんど変わっていませんが、周辺は変わりましたね」
新丸ビルは1937年に着工されたが、基礎工事の途中で建設中断が決まり、戦時中は防火用貯水池となっていた。日比谷公園には進駐軍によって野球場が造成され、「ドーリットル球場」と名付けられた。ドーリットルとは、1942年4月18日、日本の主要都市を初空襲した部隊の指揮官である。
▲1975年
新丸ビルの完成は1952年。
「丸の内ビルと新丸の内ビルが完成した年には30年もの差がありますが、外観はそっくりでした」
▲2009年
1960年代まで、ビルの高さは31メートル（約100尺）以内とする「百尺規制」が残っていたが、規制が撤廃してからは次々と超高層ビルが建った。
「今は東京駅の周辺に高い建物がたくさん建っていますが、昔はスカイラインが綺麗で、空が広く見えましたね」
●上野
▲1948年
まず驚くのが不忍池。終戦直後は一面の水田だった。食糧事情の悪化に伴い、池の水は抜かれて水田となった。再び不忍池に水面が戻ってきたのは1950年の初頭だった。
「実は、そのまま野球場にしようという話もあったんですが、地元の猛反対もあって白紙撤回されました。計画では8万人のスタンドを擁する球場にするとのことでした」
▲1975年
戦後の復興とともに上野公園は再整備が進み、上野動物園は大きく拡張された。
▲2009年
下谷から浅草あたりにもタワーマンションが建設されている。
「東京はスクラップ＆ビルドの街だから、撮影した時点から古くなっていきますが、その時点での資料として見ていただければと思います」という竹内さん。ネットの地図はランドマークが事情により省かれていることがあるが、「空から見る戦後の東京 60年のおもかげ」の空中写真には建物の名称が書かれてある。竹内さんが丹念に調べたものだ。
（取材・文／やきそばかおる）
●「空から見る戦後の東京 60年のおもかげ」（竹内正浩著 実業之日本社刊）
1948年、1975年、2009年。あのころ歩いた街並みを、地図帳のように見ることができる空中写真の本。山手線全エリアを収録。60年を隔てた3時代の空中写真には、終戦後の東京が歩んできた歴史が余すところなく記録されている。掲載されてある地図には建物の名称も書かれてある。ウェブ上でも衛星画像や空中写真は公開されているが、それらには『この建物が何か』が書かれていないため、非常にためになる。
著者で、地図や近代史研究をライフワークとしている竹内正浩さんに、知っていると思わず話したくなる東京の街の変遷を伺った。
●新宿
まずは新宿の空中写真から。じっくり鑑賞して、見比べてみてください。
▲1948年
新宿駅の西側は、1898年から1965年までの約70年間、浄水場（淀橋浄水場）だった。跡地は新宿副都心の高層ビル群となっている。（空中写真 左手参照）
「新宿御苑にはゴルフ場もありました」（竹内さん）
ゴルフ場は皇族専用のコースとして大正時代に誕生。
当初は4コースだったが、その後9コースに拡幅された。
▲1975年
淀橋浄水場が閉鎖されて10年が経過した頃の様子。跡地は建設途中のビルや、まだむき出しの土地が目立つが、京王プラザホテル（47階、179メートル）、新宿住友ビル（52階、210メートル）、新宿三井ビル（55階、225メートル）は完成している。新宿三井ビルは完成時は日本一の高さのビルだった。
▲2009年
1996年、新宿駅南側に高島屋タイムズスクエアが開業。かつてJR東日本の貨物ホームがあった場所だ。
新宿コマ劇場は、2008年いっぱいで閉館。同年、コクーンタワーが完成した。
写真は国土地理院が所有する空中写真を三世代に区分けしている。空中写真は上空から真下を撮影したもので、フィルムの四隅に記録される建物はゆがみ、外側に倒れこんで写ってしまう。そうした空中写真を何十枚もつなぎ合わせて構成されている。違和感が少なくなるように微調整するのは大変な作業だったそうだ。
「発売に至るまでに、かなり時間がかかりました。携わっていただいた皆さんのおかげです」
●有楽町（東京駅・皇居周辺）
▲1948年
名称をピンク色で書かれた建物は接収された物件だ。丸の内のおもな建物はほとんどが接収されていた。
「東京駅の駅舎こそほとんど変わっていませんが、周辺は変わりましたね」
新丸ビルは1937年に着工されたが、基礎工事の途中で建設中断が決まり、戦時中は防火用貯水池となっていた。日比谷公園には進駐軍によって野球場が造成され、「ドーリットル球場」と名付けられた。ドーリットルとは、1942年4月18日、日本の主要都市を初空襲した部隊の指揮官である。
▲1975年
新丸ビルの完成は1952年。
「丸の内ビルと新丸の内ビルが完成した年には30年もの差がありますが、外観はそっくりでした」
▲2009年
1960年代まで、ビルの高さは31メートル（約100尺）以内とする「百尺規制」が残っていたが、規制が撤廃してからは次々と超高層ビルが建った。
「今は東京駅の周辺に高い建物がたくさん建っていますが、昔はスカイラインが綺麗で、空が広く見えましたね」
●上野
▲1948年
まず驚くのが不忍池。終戦直後は一面の水田だった。食糧事情の悪化に伴い、池の水は抜かれて水田となった。再び不忍池に水面が戻ってきたのは1950年の初頭だった。
「実は、そのまま野球場にしようという話もあったんですが、地元の猛反対もあって白紙撤回されました。計画では8万人のスタンドを擁する球場にするとのことでした」
▲1975年
戦後の復興とともに上野公園は再整備が進み、上野動物園は大きく拡張された。
▲2009年
下谷から浅草あたりにもタワーマンションが建設されている。
「東京はスクラップ＆ビルドの街だから、撮影した時点から古くなっていきますが、その時点での資料として見ていただければと思います」という竹内さん。ネットの地図はランドマークが事情により省かれていることがあるが、「空から見る戦後の東京 60年のおもかげ」の空中写真には建物の名称が書かれてある。竹内さんが丹念に調べたものだ。
タイムスリップするように、じっくりと時代を見比べることができる1冊である。
（取材・文／やきそばかおる）
●「空から見る戦後の東京 60年のおもかげ」（竹内正浩著 実業之日本社刊）
1948年、1975年、2009年。あのころ歩いた街並みを、地図帳のように見ることができる空中写真の本。山手線全エリアを収録。60年を隔てた3時代の空中写真には、終戦後の東京が歩んできた歴史が余すところなく記録されている。掲載されてある地図には建物の名称も書かれてある。ウェブ上でも衛星画像や空中写真は公開されているが、それらには『この建物が何か』が書かれていないため、非常にためになる。
