ケネディの脳、草薙剣…『絶対に見られない世界の秘宝99』
600年から1600年ごろのものと推定されるムイスカ人の工芸品。黄金郷エルドラドを求めてスペインの征服者や英国の探検家が南米各地を探し歩いた

2015年5月、アメリカの探検隊がマダガスカル沖の沈没船の中から、キャプテン・キッドの財宝と思しき銀の延べ棒50キロ(約320万円相当)を発見したというニュースが流れた。キャプテン・キッドといえば、現在の価値にして22億円もの莫大な財宝があったと言われているが「その一部が見つかったのか!」と鼻息を荒くした人も多いだろう。


世の中には、都市伝説を含め、実在したけれど歴史の波に飲まれてもう見ることができなくなった財産などがたくさんある。それに思いを馳せる楽しさを教えてくれるのが『絶対に見られない世界の秘宝99』だ。
ケネディの脳、草薙剣…『絶対に見られない世界の秘宝99』
『絶対に見られない世界の秘宝99 テンプル騎士団の財宝からアマゾンの黄金都市まで』ダニエル・スミス(著) 小野智子(訳) 片山美佳子(訳)/日経ナショナルジオグラフィック社、定価:2,376円(税込み)

好評につき続編を販売


こちらは以前、「エリア51、ヒトラーの地下壕、エアフォースワン…絶対に行けないから知りたくありませんか?」というタイトルのコネタ記事で紹介した『絶対に行けない世界の非公開区域99』という書籍の続編にあたるもの。こちらの書籍が好評だったため、発売に至ったのか出版元の日経ナショナルジオグラフィック社のエディター、田島さんに聞いてみたところ「同じ作家によるシリーズものの企画でしたから最初から出版するつもりではいたのですが……。『非公開区域99』がとても好評でしたので、じゃあ大急ぎで続編を出そうかと(笑)」とのことだった。やはり人は知ることができない、見ることができないなどの謎に惹かれてしまうところがあるのだろう。

今回も前回の書籍に引き続き、「ロシア皇帝のイースターエッグ」「ジョン・F・ケネディの脳の行方」「第一回ワールドカップのトロフィー」「草薙剣」「ハイジャック犯 D.B.クーパーの消息」「美女ネフェルティティの墓」などなど、誰もが一度は聞いたことのある話がもりだくさんだが、ここまでの情報を集め、まとめるのは大変だったのはないだろうか。
こちらも田島さんに聞いてみた。

「史実がたくさん含まれているので、その確認を日本側でも丁寧に行っています。実際に、原書の中に何カ所か改善すべき記述があり、原作者と相談して修正しています」

ケネディの脳、草薙剣…『絶対に見られない世界の秘宝99』
ロシア皇帝が贅の限りを尽くして作らせたイースターエッグ。革命の混乱で50個中の8個が失われたまま。見つかれば1億ドルは下らないと言われている(!)。

歴史的事件は今になって続報が入ることも


さらにここに収録される話、最近になって新しい情報が入ることも多いらしい。田島さんによると「『財宝船サンミゲル号』はちょうど300年前の1715年7月に嵐で沈没したスペインの財宝運搬船の話なのですが、今年7月、フロリダの沖合で海底に沈んでいたこの輸送船団の1隻から、100万ドル以上の価値のある金貨や銀貨が見つかり世界的なニュースになりました。さきほどの史実の確認と同様、調べていくと似たような最新情報が次々と出てくるので、編集作業はとてもエキサイティングでした。訳注ページを作って、いくつかの最新情報を収録していますよ!」

100万ドル! それだけあれば……と妄想を書き立てられてしまうのが一般人の悲しい性であるが、「黒ひげの隠し財宝」や「海底に眠るマハラジャの財宝」など、発見までの難しい過程はすっとばして財宝話には夢が膨らむばかりである。
ケネディの脳、草薙剣…『絶対に見られない世界の秘宝99』
海賊「黒ひげ」の財宝の在りかを示したとされる18世紀の地図。「本当の隠し場所を知っているのは俺様と悪魔だけよ」と黒ひげは不敵に笑ったという。


本の読みどころは?


しかし、こちらの書籍には財宝ばかりではなく夢のある、幻想的な話も収録されている。
エディター田島さんのお気に入りは「湖底に沈んだ町キーテジ」という古いロシアのエピソードで、「タタール人が襲来する直前、町ごとすべて湖の中に消えたという、悲しいけれど幻想的で美しい言い伝えが元になった話ですね」ということだ。

こちらの詳細は書籍78ページに掲載されているので、ぜひそちらを読んでいただきたいが、今でも静かな日には湖に沈んだはずの町から鳴り響く教会の鐘の音や、賛美歌が聞こえてくるという。なんてロマンチック! いつか訪ねてみたい場所のひとつだ。

他にもたくさんの謎や秘宝が掲載されているこちらの書籍、どのような方にお勧めしたいか田島さんに聞いてみた。
「この本は、書名に『秘宝』とありますが、本当は『人類が失ってしまって、もう見ることのできないもの』を集めた本です。海賊や盗賊、王侯貴族や騎士などが出てくる秘宝話も多いのですが、バミューダ沖で消えた飛行編隊とか、宇宙人の亡骸とか、ネス湖の怪物、アトランティス大陸などの、いわゆる定番の謎話がいくつも出てきます。
そういう意味では、大人向けの少年冒険雑誌ですね。時間と空間を飛び越えて、毎日のストレスをしばらく忘れることができる読書体験になると思います! また、歴史背景と絡めた話も多いので、歴史が好きな人も楽しんで読んで頂けると思います」

「人類が失ってしまって、もう見ることができないもの」とは、心惹かれる表現だ。また、その中のいくつかは今も新たな発見があり、生き続けている伝説であるのもさらに心が躍る。今年の夏は特段暑い。外には出ず、こちらを片手に空想旅行に出てみてはいかがだろうか。
(梶原みのり/boox)