関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


「せまい国日本、どこを行っても人だらけ」とよく言われます。ですが実は、あまり知られていない「隠れた観光地」というのは結構あるんです。
今回はその中の内二つ、京都南丹市の「美山かやぶきの里」と「芦生研究林」を紹介します。

自動車を除いた場合、美山に行く方法はふたつ。JR園部駅から出ている「美山園部周遊バス」を利用するか、京阪樟葉駅から出ている「美山ネイチャー号」に乗るかです。このうち美山ネイチャー号は美山以外に道の駅などへも立ち寄りますが、土日にしか運行していません。ご自身のスケジュールと照らし合わせた上で、どちらを利用するか決めましょう。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


そうしてやってきました美山かやぶきの里。
ここでは江戸時代に建てられたとされる茅葺き屋根の家が当時の姿そのままで、住居あるいは博物館として活用されています。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


都会のわずらわしい喧噪も、景観を妨害するビル街もないこの場所は、あたかもはるか昔へタイムスリップしたかのよう。世代によっては未だ見たことのない、日本の原風景を見ることができます。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


里に設置されているポストは、昔なつかしの丸型です。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


里を取り囲む田んぼに目をやれば、そこにはカエルやイモリ、トンボの姿が。田んぼは人間が生きるための作物を育てる場であるのと同時に、小さな生き物たちが生命を育む場でもあるのです。


関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


里の屋根ではツバメが巣作りに励んでいました。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


お腹が空いたら、かやぶきの里バス停すぐそばにある「にしむら」へ。ここでは美山の里で育てたそばの実を使った手打ちそばを楽しむことができます。その味は率直にいって絶品、自然の中で育てられたあたたかいおいしさをどうぞ。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


また、里内にある古民家を利用した喫茶店「彩花」では、美山で穫れたミルクを使ったスイーツをいただくことができます。自然の甘みをたんと召し上がれ。



手つかずの「原生林」が広がる芦生研究林


そして、美山付近にある関西随一の秘境が「芦生研究林」。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


京都大フィールド科学教育研究センター等が研究のために管理しているこの森林は4200ヘクタールもの大きさを持ち、そのうち2000ヘクタールが一切手つかずの「原生林」。自然の状態で手を加えられていない森というのは、関西ではここだけです。

この研究林へは無断で入ることができないので、事前に許可を申請する必要があります。あまりにも広大な森林ゆえ遭難者が出やすく、また動植物の生態系を保持するために多くの人を入れることができないのです。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


そこへ一歩足を踏み入れれば、まさに「もののけ姫」的な森の世界。


関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


覆い茂った木々が日光を遮っているため場所によっては昼でも暗く、あたかも外の世界からは隔絶された異空間を歩いているような気分になります。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


その道にはレールのようなものが。これはかつて森林や材木を運んでいたトロッコの軌道跡です。すでに錆朽ちて苔むしたそれらは、まるで自然の一部に取り込まれてしまったかのよう。あまりこの場所に長くいると、人間ですら森の一部になってしまうかもしれませんね。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


林のそばには水の透き通った由良川が。
運がよければ、アユやアマゴなどの魚を見つけることができるかも?

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


しばらく進むと、かつてここに建物があったことを推測させる遺構を見つけることができました。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


ここには昔、木地師(木材の加工で生計を立てていた人々)や山番が住んでいた「灰野集落」があり、決まった日には松上げや盆踊りなども行われていたのですが、昭和35年に廃村となってしまったそうです。廃村にいたったその理由は明らかではありませんが、おそらく人口の減少によるものでしょう。遺された集落の跡がどこか悲しげです。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


その側に小さな神社を発見。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


定期的に誰かが訪れているらしく、お酒が備えられていました。
かつては灰野の人々を見守っていたこの社、今ではこの森林を訪れる入林者の道中安全祈願の守り神となっているようです。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


本当はもっと奥へと行きたいのですが、装備が心許ないため引き返すことにしました。何しろ手つかずの「原生林」、生半可な気持ちで足を踏み入れれば、生命の危険に関わるトラブルに襲われる可能性もあります。事実、毎年何名かの方がこの森で遭難しているようです。クマやマムシなどの危険生物も生息しているので、入林する場合は決して事前の準備を怠らないようにしましょう。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


夜は研究林近くの宿泊施設「芦生山の家」へと宿泊。

関西唯一の広大な「原生林」が残る芦生研究林を歩く


歯ごたえと旨みばつぐんの地鶏、そしてご主人が自ら育てた大きなシイタケを使ったすき焼きで満腹気分。その夜は歩き疲れも相まって、ぐっすりと休むことができました。

以上、京都北部の隠れた名所、美山かやぶきの里と芦生研究林のレポートでした。「他の人が行ったことがないところへ行ってみたい」という方、そして自然散策や廃墟散策が大好きな方に、このふたつのスポットは非常にオススメです。
(かるめら)


美山かやぶきの里
〒601-0712 京都府南丹市美山町北揚石21-1

京都大学 フィールド科学教育研究センター芦生研究林
〒601-0703 京都府南丹市美山町芦生斧蛇1