ラーメンが好き! 特に豚骨が好き! という人でも、「イノシシのラーメン」を食べた経験がある人はあまりいないかもしれない。

しかも、単にイノシシの肉がトッピングされただけではなく、イノシシの骨からダシをとった豚骨(トンコツ)ならぬ、猪骨(シシコツ)ラーメンだ。
そんなラーメンが食べられるイベント「猪骨ラーメン実食祭vol.3 ~宴~」に行ってみた。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


頭蓋骨も! イノシシづくしの会場


会場の阿佐ヶ谷ロフトAは開場直後にも関わらず、お客さんでギッシリの大盛況。客層もさまざまで、サラリーマン風の方、若い女性グループ、子供連れの方もいた。

会場にはイノシシの骨や皮も展示されており、銃の薬きょうまで転がっている。骨や皮は触っても良いそうなのでそっと触ってみた。皮は想像以上にゴワゴワしていて毛が硬い。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


驚いたのはイノシシの頭蓋骨。
キバがかなり鋭利で、これで噛みつかれたら非常に危険である。骨だけになってもイノシシの力強さが伝わってくる。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう
イノシシのキバはとてもするどい


イノシシを捕獲するのに使う「くくり罠」も展示されていた。ここにイノシシが脚を踏み込むとワイヤーが締まって捕まるしくみになっている。
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くくり罠


また、狩猟のさまざまな情報を得ることができる狩猟専門誌『けものみち』も販売されていた。「春から始めるエアライフル特集」や、「当世猪犬見聞録 名血紀州系猪犬に半生をかけた猟人」など、気になる見出しの数々が並ぶ。

イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


イノシシメニューを味わう


「猪骨ラーメン実食祭」は今回で3回目の開催。『第一回 日本猪祭り』(2017年)でグランプリを獲得した、しまなみ産(愛媛県今治市)のイノシシ肉を使ったイノシシメニューを注文できる。

本日のイノシシMENUは以下の通り。

・猪ソーセージ盛り合わせ
・猪コロッケ
・猪肉の燻製
・猪肉ラー油炒め
・猪カレー
・猪骨ラーメン

迷ったが「猪骨ラーメン」(限定30食らしい)、「猪ソーセージ盛り合わせ」を注文した。「猪ソーセージ盛り合わせ」が運ばれてくる。パッと見、豚のソーセージと変わりない。食べてみるとくさみがなく、さっぱりとした味わいだ。
このさっぱり感は今回提供された猪料理に共通した特徴である。マスタードをつけて食べるのも美味しい。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


そしてメインの「猪骨ラーメン」が登場。主催者である吉井涼さんが、改良に改良を重ねて開発してきた一品だ。吉井さんは自ら狩猟を行う猟師でもあり、11月には瀬戸内海の大三島に「猪骨ラーメン」専門店をプレオープンする。今回はまさにそのお披露目イベントといったところ。

イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


さっそく麺をすすってみる。湯気からもどことなく動物性の香りが伝わってくるが、嫌なにおいではない。むしろ香りが食欲を刺激してくる。豚骨のようなコッテリ感を想像していたが、臭みがなく女性でも抵抗なく食べられそうだ。

麺に絡んだスープもさっぱりした味わい。スープはイノシシのゲンコツ(四肢の骨)や背骨からとり、8時間かけて抽出されたもの。
タレの味は塩レモンとのこと。化学調味料を使わずに絶妙なコクを生み出している。

トッピングにはイノシシの肉も。身がしっかり引きしまっていて、噛みしめているとタレの甘さだけではなく、肉本来の甘さが染み出てくるようだ。地元・愛媛産の無農薬のレモンを絞ってみるとスープや麺の味わいが変化。もともとさっぱりした味わいにさらに爽やかさが加わり、最後まで飽きることなく食べられる。

イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう

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セルフ解体&BBQも! スープ、肉など猪を味わいつくす


ほどよくお腹いっぱいになったところでイベント開始。ちなみにこの時点で、ソーセージ盛り合わせ、コロッケ、ラーメンはすでに完売だった。

今回の出演者は、吉井さん、吉井さんの奥さんであり新米猟師&狩猟ライター・吉野歩さん、「しまなみイノシシ活用隊」隊長のプロ猟師・渡邉秀典さん、猟師歴4年という狩猟専門誌『けもの道』の編集者・佐茂規彦さんという顔ぶれ。司会はプロ女流カメラマンの宮木和佳子さんである。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


話題はやはり「猪骨ラーメン」。なにしろ、現在の味にいたるまで半年以上の時間をかけた渾身の一杯だ。ラーメンのスープは「ベース」+「タレ」+「香味油」で構成されるが、今回は特別に猪骨ラーメンのベーススープを来場者全員に試飲させてくれた。
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スープだけで味付けはしていないが、口の中にイノシシ独自の香りが優しく広がる。お客さんからは「トンコツから油を抜いた感じ」という感想が出ていた。結構的確な表現かもしれない。イノシシ臭いのでは? と思っていたが全くそれはなかった。これはイノシシのイメージも変わってくる。

さらにタレに使われている塩も味見。大三島に工場がある「伯方の塩」(海塩)に、岩塩をブレンドしているとのこと。海と山の塩をそれぞれ舐めさせてくれた。伯方の塩はマイルドで、岩塩はピリっと刺激がある。二つを合わせることでより深い味わいになるそうだ。
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「セルフ解体体験&BBQ」では半身15キロもあるイノシシ肉が登場。お客さんが実際にお肉をさばいて、キッチンで焼いてもらって実食できるというものだ。クロネコヤマトが運んできたというイノシシの肉が、プロ猟師の渡邉さんによって引き出される。間近でみるとかなりの迫力だ。つい先日捕獲されたオスのイノシシ(56キロ)である。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


希望者は多くすぐに列ができていた。確かに、東京でイノシシを自ら解体する経験はなかなかできないし、焼き立てを食べる機会もめったにない。渡邉さんに手伝ってもらいながらお肉を切っていく。堅そうに思えたがナイフの切れ味はばつぐんで、スムーズに刃が入っていた。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう

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猟師あるある!?山の中で「九死に一生」は


猟専門誌編集者である佐茂さんが、実際の狩猟について語ってくれるコーナー「狩猟実体験エピソード」。狩猟の種類や鉄砲の所持許可といった知識、さらに狩猟をするのにどれだけ手間やお金がかかるかという話がリアルに展開される。会場にはすでに狩猟をしている方や始めたいという方もいて、佐茂さんの実体験に真剣に耳を傾けていた。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


それにしても狩猟をするのは大変だ。銃の所持許可や、それに伴う自宅でのガンロッカーの設置。銃の購入にも数十万円もかかるそう。「準備1年 引き金1秒」という言葉で解説されていたが、狩猟にはさまざまな準備が伴う。狩猟期間は一年のうちでも限られているが、道具の手入れをはじめ、射撃練習など、年間を通じて行う必要がある。

いざ狩猟に出たとしてもすぐに獲物を撃てるわけではない。10日間山に入って、実際に銃を発射するのは10発に満たないという。さらに、佐茂さんは猟師歴3年だが1年目は脳震とう、2年目は骨折、3年目は熱中症で危険な目に合っている。それでも、狩りの一瞬を得るために行う全ての過程が貴重なのだろう。ときには「九死に一生の体験」をすることがあっても……。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう

イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


大三島ではイノシシが田畑を荒らす被害が広がっているそうだ。そのためこうした形でお肉や骨を活用することは意義深いと言える。「イノシシ=臭い」というイメージは、狩猟した後の処理が遅いことが問題であり、きちんと仕組みを確立させればこんなにも美味しいグルメとなるのかと驚いた。
イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう


イノシシの捕獲から解体、調理まで一貫して行う、おそらく日本で初めての専門店。吉井さんの「猪骨ラーメン」のお店は2018年4月正式オープン予定とのこと。「猪骨ラーメン」以外にもさまざまなメニューを考案中だそう。10月31日までクラウドファンディングを実施中なので、興味のある方はチェックしてみて欲しい。

東京ではなかなか食べることができないイノシシ料理と、狩猟の奥深さを堪能できるイベントだった。
クラウドファンディング「ふるさとチョイス」
URL:https://www.furusato-tax.jp/gcf/188

イノシシの骨からダシをとった「猪骨ラーメン」を味わう
「猪骨ラーメン」店主・吉井さん


(篠崎夏美/イベニア)