外国人落語家・桂三輝さんに聞く、日本と海外で落語の反応に違いはあるの?

昨年の11月24日から3日間、ロンドンにて日本の食や文化を扱ったイベント「ハイパージャパン」が開かれた。最終日、会場内にあるステージでパフォーマンスのトリを務めたのが、カナダ人落語家・桂三輝(サンシャイン)さんだ。


三輝さんは六代桂文枝さんに弟子入りし、その後、外国人落語家として国内外で公演を行ってきた。日本の伝統芸能である落語が海外に出たときに、何か違いは生じるのだろうか? ロンドンで三輝さんにお話をうかがった。
外国人落語家・桂三輝さんに聞く、日本と海外で落語の反応に違いはあるの?


落語の笑いは万国共通?


――ハイパージャパンへの出演は2014年に続き2回目。今回はニューヨークからロンドンに来られたそうですね。
じつは米オフ・ブロードウェーで行なっている3週間公演の真っ最中なんです(記者注:取材時の11月)。今回はその合間を縫ってロンドンへ来ました。

――現在の活動の中心は海外ですか?
今はロンドンとニューヨークの公演が多いです。以前はロンドンにも住んでいたこともありますし、現在はニューヨークへ引っ越し、オフ・ブロードウェーを活動の中心にしています。

――今回のハイパージャパンでは、日英の「挨拶」を比較した小話や、英訳した『寿限無』を披露して、会場を大いに沸かせていました。各国でユーモアのセンスは変わると思いますが、国によってネタは変えるのでしょうか?
じつは落語は万国共通なんです。日本と英語圏の笑いのセンスを比べれば、基本的なところではすごく違うとは思いますが、落語についてはロンドンの人々の前でやる英語の落語と、日本人の前でやる日本語の落語は、私の中では全く同じです。これからニューヨークに行くから落語をニューヨーク・モードにする、ということはしていません。話もすべて直訳します。


ただし、公演する国によっては話を切り込む角度は変えます。私はよく日本と海外の文化を比較した話をします。その場合、日本ではカナダ人から見た日本の話をして、カナダでは日本人から見たカナダの話をするといった具合です。視点は変えますが、笑いの種類は結局一緒。どこへ行っても同じテーマを使い回せる、非常に効率の良いネタの作り方だと思いませんか?(笑)。
外国人落語家・桂三輝さんに聞く、日本と海外で落語の反応に違いはあるの?


――笑いの「間」はどうでしょうか。違いはありますか?
これは英語圏の中でも異なります。例えば、ロンドンとニューヨークの劇場を比べても「もう少しここを強調する」とか「ここで間を入れるとノリが良くなる」というのは、国によって違いますね。これは芸人としての、高座に上って肌で感じることですから、今はうまく説明はできません。まだまだ経験が浅いので、10年後に同じ質問をもう一度聞いてください。その時は今よりも、うまく話せると思いますよ!(笑)。


海外の芸の世界で新人は元気よく挨拶しない?


――当初日本に来た理由は落語ではなく能と歌舞伎に興味があったからだとか。
もともと芝居の研究をしていて、古典ギリシャの喜劇と能と歌舞伎に似ている点があるという論文を読んだんです。
それを実際に見てみたいと思い日本を訪れました。落語は軽い気持ちで見たのですが、そうしたら感動してしまい……人生が変わってしまいましたね! 落語は日本の伝統もコメディも入っている。私が今まで好きだったことや研究したことは、落語のためだと思いました。
外国人落語家・桂三輝さんに聞く、日本と海外で落語の反応に違いはあるの?

――海外のまったく違う文化・習慣で育ってきて、いきなり落語という日本の中でも特殊な伝統芸能の世界に飛び込むことで、いろいろ苦労もあったのではないですか?
当然といえば当然なのですが、言葉で苦労しました。文枝師匠からは常に「言葉のプロになりたいのなら、ちゃんとしゃべりなさい」と言われ、厳しく指導されました。弟子入りしたときは「です/ます」といった丁寧語は話せたのですが、尊敬語などは、きちんと使えませんでした。外国人だからといって「師匠寒いっすね!」なんて中途半端な言葉は使えなかったです(笑)。

――芸の世界の慣習は海外と日本でずいぶんと変わるんじゃないですか?
日本の芸の世界では、下っ端は無視されても「おはようございます! 桂三輝です!!」と、大きく元気よく挨拶せえと言われる。アメリカの芸の世界では逆でしょう。下っ端はしゃべりません。日本風に大きな声で挨拶すると、「なんて偉そうな奴」と思われてしまうかもしれません。

――修行の形にも違いはありますか?
日本の場合、修行中は自分のすべてを消さなければいけません。
コメディアンになりたいのに、パフォーマーとして仕事をしたいのに、なぜ静かに師匠の鞄持ちやらなければいけないのか、と思ったことはありました。ですが、それをすることで、朝から晩まで師匠の近くにいられることが分かった。うちの師匠も、そのまた上の師匠の鞄持ちをやっていた。こうやって芸が代々伝わり、今に生き続けていると考えたら、この世界はすごいなと思いました。

一方で、もしアメリカの有名なコメディアンのところへ行き「毎日部屋を掃除します。私に名前を付けてください。芸を教えてください!」と日本風に言ったら、気持ち悪がられて「二度と来るんじゃねえ」と言われるでしょうね(笑)。
外国人落語家・桂三輝さんに聞く、日本と海外で落語の反応に違いはあるの?


「落語」という日本語が世界語になってほしい


――インタビュー中、常に気になっていたのですが、お着物がかっこいいですね。
私のオリジナルデザインなんです。以前から着物のデザインをしたくて、これが処女作です。生地はデニムを使い、形は振袖にしてあります。振袖は結婚していない女性用の着物ですが、それをあえて男性向けにしました。
振袖部の肩部部にファスナーを備え、振袖部分を着脱できるようになっています。その日によって違うデザインの袖に変えられます。

――高座の衣装としてですか?
普段着としてロンドンやニューヨークの町歩きにも使っていますよ。これを来ていると目立つため、道端で知らない人から「どこでファッションショーをやっているの?」と言われますね。その時は「私がファッションショーだよ!」と返すことにしています(笑)。

――最後に今後の目標を教えてください。
今以上に世界で落語をやりたいです。ロンドンとニューヨークを拠点にして、北米ツアーやヨーロッパツアーを行い、落語を世界に広めたいです。落語という言葉が広まって、将来的に世界での認知度が上がれば、こんなに嬉しいことはないですね。
(加藤亨延)
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