「公判請求」がなされた場合には、裁判官の予断を排除するために、起訴時には証拠書類は提出されず、最終的には公開の法廷で審理され「判決」という形式で判断が下されます。しかし、「略式起訴」がなされた場合には、起訴と同時に証拠資料が提出されて、非公開のまま審理され、「略式命令」という形式で判断がなされます。
メリットもあるが、合憲性の論点も略式手続は、争いのない軽微な事件を迅速に処理することにより、訴訟経済に資するとともに、煩わしい刑事手続から被告人を早期に解放するといったメリットもあることから設けられた制度です。他方で、憲法37条1項は、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」と定めていますので、略式手続そのものが、この憲法に違反するのではないかといった疑問があります。
しかしながら、略式起訴をする場合、「検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確かめなければならない」(刑事訴訟法461条の2第1項)と定められていますし、実際に略式命令が出された場合でも、「略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求をすることができる」(同法465条1項)と定められていますので、最高裁判所は、制度としての必要性・合理性に照らして、合憲と判断しています。
検察官が都合よく略式手続を利用するケースがあるただし、検察官が自らに都合よく略式手続を利用することには注意が必要です。すなわち、正式裁判となった場合には、証拠上、有罪の判決を得られない可能性がある事件について、検察官としては「無罪」となるリスクを避けたいといった心理が働きます。無罪判決は、検察官にとっては「負け」を意味するからです。
そこで、被疑者の「罰金程度で処理してもらえるのなら、早期に解放されたい」という心理に乗じて、略式起訴とすることに同意してもらい、「略式命令」という形式ではあっても「有罪」を勝ち取ることができるというわけです。