“元アウトローのカリスマ”こと瓜田純士(37)が森羅万象を批評する不定期連載。今回のお題は、北野武監督の人気シリーズ映画で5年ぶりの続編となる『アウトレイジ 最終章』だ。

元極道であり、北野映画のファンでもある瓜田は、この作品を見て何を思い、何を語るのか?

 17歳から10年間に渡り暴力団に所属し、組抜けしてからも数々の事件やトラブルを巻き起こしてきた瓜田だが、2014年に4度目の結婚をして以降は、すっかり更生して穏やかな日々を送っている。

「昔はレンタルDVD屋に行ったらヤクザ映画やギャング映画ばかり借りていましたが、最近はディズニー映画が中心ですね。血なまぐさい映画はもう何年も見ていません」

 そんな瓜田だが、『アウトレイジ』の新作が公開されるとなれば、話は別のようだ。

「俺も北野映画は大好きですけど、お袋がそれ以上のファンで、今年の8月ぐらいから『行こう、行こう、一緒に行こう』としつこく誘われていましたから、親孝行も兼ねて、公開初日のチケットを取りました。ちなみにウチの嫁はバイオレンス映画が苦手なんですけど、1人でお留守番させるのは可哀想なので、映画が終わったあとの食事をエサに一緒に連れて来ました」

 こうして瓜田ファミリーが映画館に集結した。かつては極道の妻として、数多の筋者を身近に見てきた母・恭子。
その遺伝子を継ぎ、幼少期から悪名を轟かせてきた息子・純士。そうした親子にも物怖じすることなく、「暴力は嫌いや!」と言い切る関西人の嫁・麗子。

 三者三様の感想を鑑賞後に語ってもらった。

 * * *

――いかがでしたか?

純士 いい面、悪い面、両方あったけど、トータルとしては面白かったし、よかったですよ。

恭子 私はものすごく楽しみにしていたんですが、期待が大き過ぎたせいか、ちょっとガッカリしましたね。

麗子 こんなん茶番劇や。
『ビー・バップ・老人ホーム』って感じ。ただ、西田敏行だけはよかったです。

――意見が分かれましたが、まずは純士さんが「いい」と思った部分を軸に、感想を語り合ってもらえますでしょうか。

純士 まず、大森南朋がとびきりよかったですね。他の多くの役者たちは、北野監督が横にいるせいか、一発で録らなくちゃいけないみたいな緊張で思い切り硬くなっているのがわかった。でも、大森は場に何人いようが、武が回していようが、その壁を壊して自分の空気を出せていたように思います。
屈託なく笑うシーンなんかもそうだけど、肩の力が常に抜けている。今作の中ではピカイチかも。めちゃくちゃ優秀なんだと思いますね、役者として。

恭子 あの人、いいんだよ。テレビで『ハゲタカ』を見たときも、うまいなぁって感心したもん。

麗子 ウチは「こんなヤクザおらへんやろ」って思いながら彼を見ていましたよ。
橋下弁護士にしか見えへんかったけどなぁ。

恭子 ウソ? ウソ?(笑)

麗子 あんなんやったんですよ。昔の橋下徹は。

純士 大森は、冒頭の釣りのシーンからよかったよ。彼と武が共演する別の映画を見たくなったもん。

――その他、いいなと思った役者はいますか?

純士 一番癖があってよかったのは、ピエール瀧ですね。
凄み方もビビリ方もよかった。実際はどうだか知らないけど、あの人ってたぶん、夜の繁華街とか飲み屋とか、不良がたくさんいるような場所に、長い人生の中でいっぱい行って遊んできた人なんじゃないかな。だからああいう台本を渡されても、すぐに「じゃあ俺流でいきますよ」と演じることができたんだと思う。ああいう不良、マジでいますからね。新体制が発表されて自分が昇格したとわかった途端、調子に乗ってポケットに手を突っ込んで大声で誰かと電話し始めて岸部一徳から呆れられる場面なんて、本当にリアル。韓国で大友(北野武)に向かって、「ところで、お前の名前は?」って聞いたあとの目つきの悪さとかもね。
ああいうのって、ただテレビや映画に出て育ってきただけの俳優ではできないことなんで、たいしたもんだなと思います。

麗子 タムケンにしか見えへんかったけどな(笑)。

純士 あとは、西田敏行の演技も圧巻でしたね。そこらへんの三下っぽく振る舞ったらいけないんだ、俺は大物ヤクザなんだと言い聞かせながら役を全うしたと思うんです。その徹底ぶりがよかったですね。「大友、来ていませんよ」って場面でも、二流の役者だったら「え? 来てねえのか?」と泡食った演技をしそうなもんだけど、「それならそれで別にいい」といった感じで動じない。そういう不敵なリアクションが多々あったじゃないですか。

恭子 あれがウザかった~。

純士 あの、常に上から見下ろしている感じがいいんだよ。

麗子 ウチもやねん!

恭子 何、私だけ除け者にして、夫婦で意気投合してんのよ!

純士 出所者を励ます会で、西田がマイクで喋り出すところなんかも「キター!」「さすがだな」って思いながら見ていました。最後まで西田は武の期待値以上のことをやったと思いますね。

麗子 西田敏行って、ウチのお父さんにソックリやねん(笑)。

恭子 ウソ? あんなオッサンなの?

麗子 それが、懐かしくて懐かしくて(笑)。

恭子 私は西田が、ウザくてウザくて。早く殺されていなくなれ! と思っていたけど、全然いなくならないからイライラしたわ。

麗子 イヤやーーー! そんなん言わんといてください。

恭子 あれは、よくいるタチの悪いヤクザもんだよ。本当に根性の汚い奴。

純士 でもそれがよかった。本物の不良っぽかったじゃん。あと、西田がすごいな、貫禄勝ちだなと思ったのは、大杉漣のところに行って、啖呵を切る場面。誰かに話をつけに行くのって、相手が1人だとしても緊張するじゃないですか。それを映画の中の話とはいえ、西田は他のヤクザも大勢見守る中、今から下克上してやるという一世一代のシーンを、さらっと演じ切ったでしょう? あの貫禄がすごかったよね。

麗子 すごかった!

恭子 似た者夫婦だから意見も一致するのかねぇ……。お父さんに似ているから、なんでもよかったんじゃないの?

麗子 ちゃうわー!

純士 あと、張会長(金田時男)から明らかにシカトされているにもかかわらず、西田が行儀悪い格好で延々と話しかけ続けるところも、いいんだわ。

恭子 ああいうのが私は鼻についた。やり過ぎでしょ。ああいうヤクザ、実際にいることはいるけどさぁ。

純士 そう、ああいうのが本物のヤクザなんだよ。武と大森が銃を持って、屋上駐車場で花菱会の面々と向き合うシーンでも、車の窓がスッと開いて、西田が「オイ、大友。今までのことは一回水に流して」みたいなことを言うじゃないですか。あのときもまだ「俺のほうがお前より貫目が上だぞ」っていう態度を崩さない。ヤクザの上層部って、ああじゃなきゃダメなんですよ。それを演じ切った西田は只者じゃない。一級品の役者ですね。

――その他、ヤクザがリアルだった場面はありますか?

純士 塩見三省みたいな顔をしたヤクザは、どの義理場に行っても必ず1人はいます。今回、痩せて弱っちくなっていたけど、かえってそれがリアルだったと思う。花田(ピエール瀧)っていう金稼ぎのうまい有望な若い衆を抱える身でありながら、本家からは年寄り扱いされたり、信頼している人間のタマを取るように命じられたり。年老いちゃったから丸め込まれて、組織維持のために使われそうになる、ちょっと可哀想な立場。そういうのが伝わるうまい見せ方だったと思います。

恭子 西田と塩見が疲れ切った顔で車に乗っているシーンが可笑しくて、私、吹き出しちゃったわよ(笑)。どんな看板を背負っていようが、寄る年波には勝てない。こういうロートルヤクザ、実際にいるなぁと思って。

麗子 ウチは笑うよりも心配になりましたよ。老人ホームの発表会を見ているみたいで痛々しくて……。

純士 武も岸部一徳もそうだけど、映画は画面がデカイから老いを隠せず、加齢臭全員集合みたいになっていたのは否めない。でもその一方で、フレッシュな若手もいたじゃん。キャバクラで踏ん反り返っていた池内博之。彼はハーフ特有の顔の怖さが不良にハマる。現代風ヤクザとしての実在感がありましたね。逆に、ヤクザとしての実在感が一番薄かったのは、武が演じた大友かな(笑)。彼の振る舞いは、ヤクザじゃなくてただのチンピラ。刑事に絡んだり凄んでみせたり、出所祝いの会場で道具を出したり。実際は大物のヤクザほど刑事を立てるし、義理場や祝いの席はあえて避けてケンカをしますからね。大友は最低ですよ(笑)。チンピラの極み。

恭子 今回、武さんの見せ場が少なかった気がするなぁ。西田ばっかりになっちゃっていたような……。

純士 確かに。昔の北野映画はぶっちぎりの独りよがりでそれが面白かったのに、今回は監督が、自ら呼び集めた大物役者に気を使って、彼らを立て過ぎちゃったせいなのか、誰が主人公なのかわかりづらくなっていたかも。西田や塩見の演技はすごいんだけど、それは小出しにするからいいんであって、今回は前面に出し過ぎて安くなっちゃった印象がありますね。全員のセリフを半分とか3分の1とかに切っちゃっていいから、もっと他に描き込んでほしい部分もあった。

――それは具体的には?

純士 今回、繁田刑事(松重豊)がキレる場面があったじゃないですか。あれ、本当に絶妙なタイミングだと思うんです。人が発狂する瞬間って、あんな感じだよなぁと思って、すごく共感できたんだけど、上司と決別したあと、武と大森が階段を上がってくるシーンだったから、上で待っているのは繁田かと思いきや、違うんだもん。「刑事としてではなく、俺個人として言うが、大友、往生しろ」とかのシーンがあるのかと思いきや、ない。みんなが自分のやってきたことにケジメつける映画かと思ったら、そうでもない。

恭子 西田に尺を取られちゃって、そこらへんに時間を割けなかったのよ、きっと。

純士 ピエール瀧にしても、ドMの変態ヤクザでいくんなら、女性にもっとひどいことをしたりさせたりしている描写がほしかった。じゃないと、ただのコスプレになっちゃう。

恭子 それは、いろいろ問題があって映像化できないんじゃない?

純士 直接的な暴力描写や性描写は無理にしても、もっと車で移動している最中とかヤクザ的な時間を過ごしている間に、上の人がいる前でわざと変態っぽい電話をかけてニヤニヤしているシーンとかがあったほうが、あの末路の爆発力も増したのに。序盤、済州島でヘタを打ったピエール瀧が、大友たちがいなくなったあとに、自分とこの若い衆をボコボコにするシーンがあったでしょう。ああいう八つ当たりって、実際のヤクザ社会でもよく見ることで、すごくリアリティーがあってよかったから、もっとあの温度で最後まで来てほしかったです。

――その他、不満だった点はありますか?

純士 かつての北野映画の世界観って、暴力描写にはスピード感がある一方で、それ以外ではよくわからない女性が出てきたり、ゆっくりなシーンがあったりしたと思うんだけど、今回はそういう緩急や、独特の間が少なくて、俳優陣の長ゼリフが最初から最後まで続いた印象でした。しかも俳優が噛まないように一生懸命になり過ぎちゃったせいで、リアルさが失われてしまった感がある。そうなった一番の原因は、関西出身じゃない俳優に、関西弁を喋らせ過ぎたことでしょうね。

麗子 その通りや! バッタもんの関西弁が多過ぎて、序盤で興醒めしたわ。

純士 関東人の俺からするとイントネーションのおかしさはそれほど感じなかったけど、誰からも文句を言われないように一生懸命勉強してきたというのが伝わってきて、こっちまで緊張しちゃった。そういう本筋とは関係ないハラハラドキドキって、映画を見る上で邪魔。特にこの手の掛け合いが肝となる映画の場合は、標準語の人は標準語のままアクセル全開でぶっちぎったほうが絶対よかったのになぁと思いました。関西の組織に関東人がいてもおかしくないんだから。

麗子 あと、やり過ぎた服装もアカンかったわ。今どきあんなん着たヤクザ、どこにもおらへんやろ? ヴェルサーチのテロテロのシャツに犬の首輪みたいなチェーンとか(笑)。

純士 俺は10代の頃、ああいうコテコテの格好をしていたけどね(笑)。ピエール瀧みたいなストライプのスーツも愛用していたし、上下サテンのスウェットとかも着ていた。

麗子 当時はイケてたん?

純士 いや、その当時から生きた化石状態だった(笑)。

麗子 そやろ? 今回の映画は服装のセンスが古いねん。

純士 まぁあれはあれで、どれだけヤクザ化できるかという俳優同士の競い合いみたいなもんだから、いいと思うけどね。もっと派手にやってほしいと個人的には思ったよ。それよりも気になったのは、設定の古臭さかな。

――と、申しますと?

純士 謎のフィクサーが日韓を股にかけて暗躍、みたいな設定は、20年前なら底知れぬ不気味さを感じたのかもしれないけど、今はそうでもない。というのも今の日本人は、韓流映画やK-POPにたくさん触れて韓国文化を知り過ぎているから、張会長や白龍らの韓国語のやりとりを見ても、それほど新鮮さを感じないんですよ。あと、原田泰造。ビビって引き金を引けない表情はよかったんですけど、「元暴走族の鉄砲玉」という設定はあまりにも前時代的でしょう。あともう一つ、個人的に受け入れがたい描写もありました。

――それは何でしょう?

純士 自分が今、カタギになる苦労を味わっているからこそ感じたんですが、汗だくになってカタギに戻ろうとしている人間に対して、あそこまでの追い込みをかけるのはいかがなものか。もっと他にやるべき奴がいたんじゃないの? と思いました。だから見終わったあと、あまりスッキリできなかったです。

麗子 お義母さんはこの映画を見て、スッキリできたんとちゃいますか? 銃撃戦のときに「ひゃーっはっはっはっ!」って大笑いしていましたよね?(笑)

恭子 最近、日常生活で嫌なことがあったから、ああいう場面を待ち望んでいてテンションが上がっちゃったけど、どうでもいい奴らが死んだだけだったから消化不良よ。でも、映画の終わり方は好き。

純士 俺は、あのラストはイマイチかな。もっと間を与えず、情け容赦なく、幕を引いてほしかった。

――ご家族の中でも賛否両論、さまざまな意見が飛び交いましたが、そろそろ純士さんのほうから総括のコメントをお願いします。

純士 なんやかんや文句も言ったけど、やっぱりこの映画はすごいですよ。こんだけ今、現実の暴力団同士が揉めていて、東京五輪も近いってときに、あんだけのヤクザがバンバン組の名前を出して人を殺すような映画を実際にやっちゃう、許されちゃうってのは、本当にすごいこと。もしこれが北野映画じゃなかったら、そんな映画に出たってだけで銀行取引もダメになるような時代なのに、民放各局がこぞって宣伝までするというのは、武の力に他ならない。あの人以外に許される人はいないでしょうし、こういうヤクザ映画を劇場で見られるのはおそらくこれが最後でしょうね。だから、見ておいてよかったと思います。

 * * *

 劇場はアウトローだらけなのでは? と心配している読者も多いかもしれないが、満席の場内を記者が見渡した限り、それらしき風体の人物は瓜田を除けばほぼ皆無。家族でもカップルでも安心して楽しめる作品と言えそうだ。
(取材・文=岡林敬太/撮影=おひよ)

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※瓜田純士公式ブログ
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