765プロの事務所の扉を開ける。カメラが事務所のぐるっと見渡す。

「おはようございます、プロデューサーさん!」
共に働くアイドル達が声をかけてくる。

「アイドルマスター ワンフォーオール」が発売されました。
双海亜美大好きP(プロデューサー)のぼくが一番感動したのが、この朝の挨拶のシーンでした。
ぼくはこれだけで満点つけます。

Twitterなどの反応を見ていると、本作への反応が面白い。
アイマスファンの多くが大絶賛。
ベタ褒めです。
一方批判意見は、これでもかと厳しい。0点かマイナスってくらい。
なぜここまで両極端に評価されるの?

ヒントになるのは以下の二点。

・徹底して親切
とにかく操作しやすい。ほとんどストレスを感じません。
またシビアな仕事の問題や、コミュニケーションのギスギス感は皆無。
あんまりにも世界観が優しすぎて、まるで小骨を全部とりのぞいた焼き魚を食べているかのごとき感覚を受けます。
ユーザーインターフェースは、あらゆる意見を全部取り入れたんじゃないかってくらい配慮されていいます。

・13人全員プロデュース
……というキャッチコピーです。
ん? いやそれ当たり前でしょ? キャッチコピーにするものなの?
でも、これこそが、今回のゲームのキモになっているポイントです。

ぼくはこう考えます。

「ワンフォーオール」は救済のゲームであり、新規ファンの入り口として作られたのだ、と。
理由を読み解くには、今までの「アイマス」事情を追う必要があります。

●アイマス2をめぐって
ゲーム「THE IDOLM@STER(以下・無印)」は、2005年にアーケードで稼働、X-BOX 360に移植された、対戦型アイドル育成ゲーム。
無印ではキャラクター一人〜三人を選んで、トップアイドルにするのが目標。
ファン向けのCDやダウンロードコンテンツ(DLC)などでは、「765プロ」というプロダクションの仲の良さを知ることができます。
ここで「765プロの中の、一人の子を選んで、プロデュースしている」という意識がファンに植え付けられました。

その後「THE IDOLM@STER SP」(PSP)や「THE IDOLM@STER Dearly Stars」(DS・別プロダクションの外伝)など、幅を広げていきます。

さて、2011年2月に、「THE IDOLM@STER 2」が発売されます。
まず、オンライン対戦がすべてカットされました。
加えて、4人が同じ事務所のユニットメンバー「竜宮小町」としてデビューした結果、プロデュース可能キャラではなくなってしまいました
これには制作スタッフの中で、きちんと思惑がありました。

石原章弘「”そろそろ、アイドルたちの成長を1歩進めてあげたい”という親心と、アイドルたちからの「いい加減、ほかのこともやらせなさいよ!?」という圧力も感じつつ、このような設定にしたというのが、素直な心情です」
独占インタビュー! 『アイマス2』男性ライバルユニット“ジュピター”、そして“竜宮小町”の秘密を総合ディレクター石原氏に訊く! - ファミ通.com

とても納得のいく話です。
「アイドルマスター」は確かにキャラ選択ゲームだから、「格闘ゲームも一人二人いなくなることあるじゃん」という見方もできます。

けれども。
ファンには「765プロは全体で一つ」という意識が既にある状態なのですよ。

ゲームは、シビアな戦略性のあるよくできた作品です。
新キャラの男性ユニット「ジュピター」もおおいに愛されました。

しかしここで生まれたファンと製作陣との「765プロ」の捉え方の違いは、大きかった。
いくつかのまとめサイトがそれを過剰に取り上げたことで、全くアイマスを知らない人が「なんておっかないコンテンツなんだ」と感じるようになった。
楽しんでいる人も煽られていやな気分になる。
プロデュースできなくなったキャラのPは、そりゃ……辛いに決まってんじゃん……(ぼくのことだよ!)。
苦しい悪循環が始まってしまいました。

●アニメ「アイドルマスター」の救済
2011年7月。錦織敦史監督のアニメ「アイドルマスター」が放映されます。
これが見事に、製作陣の思いとアイマスファンの思いのギャップを埋めました。

例えばプロデュースできなくなったキャラの一人、プロデューサーになった女の子、秋月律子。
作中で一度だけアイドルとして活動せざるを得なくなり、彼女の心の中と、ファンとの距離感が語られます。
角度を変えて、プロデューサー、律子本人、765プロメンバー、律子ファンの間に、どういう感情が渦巻いていたのか。
これらを物語として全部見せられるとさ、納得できちゃったんだよ。おれプチピーマンさんになるよ。
ゲームとプレイヤーの距離感、「765プロ」のキャラ同士の距離感が丁寧に描かれることで、「765プロはみんなで一つだ」と再確認した、儀式的作品でした。

●シンデレラガールズ・ミリオンライブの発展
モバゲーで「アイドルマスター シンデレラガールズ」、GREEで「アイドルマスター ミリオンライブ!」がソーシャルゲームとして配信されます。
ミリオンライブは50人。シンデレラガールズは150人以上(!)という、爆発的なキャラの増え方。
完全にパラレルワールドなので、無印、アイマス2とはなんのつながりもありません。

どちらも大いに支持されているアプリです。登録数は数百万人。
同時に、一部のファンに不安がよぎります。
このまま拡散して、アイマスというコンテンツは使い捨てられてしまうのではないだろうか。
「765プロの13人」じゃなくて、「大勢のうちの13人」になったのですから。

●SSA事件
2014年。劇場版『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』が上映されます。
テーマになっているのは、一致団結する力でした。
ここで、ゲストとして「ミリオンライブ」から数人出演しています。

その後、さいたまスーパーアリーナでライブが行われました。
「アイドルマスター」「シンデレラガールズ」「ミリオンライブ」そして「ディアリースターズ」。
すべての「アイマス」が一同に介し、ライブ会場において「私達は一つです」という方向性を示しました。
誰か一人でも欠けることはない。
大丈夫だよ。みんなで「アイマス」だ。

●一人はみんなのために
ここまで踏まえての、「ワンフォーオール」です。
プレイできるのは、既に765プロにアイドルが集まっており、2になっていない世界、と言うパラレルワールドです。

「13人全員プロデュース!」というコピーは、ファンへの約束的文言でしょう。
今までは一人選んで、一年でクリアしたら、次のキャラ……だったのですが、今回は13人をいっぺんにまとめて、つまり「765プロのプロデュース」になっています。
期限はありません。何年でも、ずーっと、半永久的にサザエさん時空でのんびり遊べます。

あと○週間しかないけどどうしようもうブレイクするのは無理か……みたいなシビアさは撤去されました。
メニュー画面を開いたら、仲良く彼女たちが遊んでいるのが見られる。
仕事に行くときは待っているアイドルが見送ってくれる。
ホワイトボードには季節ごとにアイドルの誕生日を祝うコメントが寄せ書きされている。
なんて多幸感あふれる空間。まるで教室。ぼくは先生役だ。

坂上「やはり『アイマス』といえば、小さな事務所を舞台に、新人アイドルたちといっしょに成長していく、というところが醍醐味ですからね。アニメや派生作品も認知され、世界観が大きく広がったところで、改めてユーザーの皆さんが大切に思ってくださる“765プロ=原点”に立ち返り、そこにある“温かみ”を描こうということで、方向性がまとまったんです。」
教えてガミP! 『ワンフォーオール』プレイ動画その5:神崎蘭子が踊る!(ガミPインタビューもあるよ)(ゲーム紹介)

アイマスの舞台になる事務所は、本当に笑っちゃうほど小さいです。
その小さい世界から、大きな舞台に飛び出していく開放感。隣に仲間がいて一緒に駆け出していく気持ちよさよ!
これを、彼女たちとプレイヤーがどう一緒に味わうかの一点に、力が注がれています。

「シンデレラガールズ」と「ミリオンライブ!」、「ディアリースターズ」などはパラレルワールドのため、直接参加はしません。
そこで、ライバルキャラとしてゲスト参加。「アイマス」の一環であることをきちんと見せています。
「望んでいたアイマス」がやってきた。まさにワン・フォー・オール。

ところで反対意見はどういうものなのか?
一つは「DLCが高すぎる」
基本ほしい人だけが買えばいいものなので、特に問題はない。
ただ毎回恒例、キャラクターから届くゲーム内メールが全員分で3000円近い。ストーリーに絡むものにここまでお金がかかるのは、ちと高いかなとは感じます。
もう一つは「ゲームがぬるすぎる」
無印のように、あるいは格闘ゲームやFPSのように、キリキリとシビアなゲーム性を求めているとしたら、相当にぬるいです。
人ととも、時間とも戦わない、かなりのまったりゲーですので、そこは人を選ぶはず。

『けいおん!』のような「みんなでがんばる空間」の優しさを求めている人には、究極の癒やしゲーム。
仕事から帰ってきて、ちょっとアイドルと接するだけでも、めちゃくちゃ幸せになれますよ。

初めてアイマスやるなら、ダントツにここからがオススメ。特にアニメ見てこれからやってみたいんだけど、って人向け。
そこから過去作品に戻るのもいいですが、このゲームだけでもやりこみ量はものすごく多いので、当分飽きないはず。

さあ、765プロは、やる気のあるプロデューサーをお待ちしております!


「アイドルマスター ワンフォーオール」
『THE IDOLM@STER MOVIE 輝きの向こう側へ!』

(たまごまご)