青森県立美術館で「美少女の美術史」が開催中だ。日本画や浮世絵、挿絵、マンガ・アニメ、フィギュアなど。
少女モチーフの作品がずらっと300点以上展示されている。この中にセーラー服の美少女根付がある。

根付は江戸時代からアクセサリーとして使われていた細密彫刻だ。煙草入れや印籠を帯から提げるときの留め具として使われていた。動物などのモチーフが多く、丸みのある独特のデザインが多い。使っているうちに欠けたり、引っ掛けて服を傷つけないための工夫だという。
その根付にセーラー服の女の子?
モチーフは初音ミク。江戸の伝統美術「根付」が美少女になった

少女の根付を11点出品した永島信也に話を聞いてみた。

───セーラー服の女の子の根付を作ろうと思ったきっかけは?

永島:昔からある根付という媒体で、現代的なものを作りたいんです。『女神校生』『歌姫』『日を招く宴の踊り子』が新作。『歌姫』はツインテールのもので後ろもデジタルっぽくしています。

───ツインテール!

永島:モチーフは初音ミクなんです。女子高生や初音ミクはいろんなひとがやっているので。
そこはやっておくべきかなと。過去の作品はお客さんから借りてきました。代表的な美少女の作品は全部持ち主がいるので手元に残っていないんです。
モチーフは初音ミク。江戸の伝統美術「根付」が美少女になった

───『女神校生』はどんなイメージで作られましたか?

永島:年齢的なものもあって周りに女子高生がいない……。女子高生自体が自分のなかでリアルな存在ではないんですよね。アニメやマンガの中にいる感じがします。
そこに羽根をつけて幻想的な要素を加えて神様の作品にしたイメージ。現実的ではないものに対してのアプローチとして作りました。

───永島さんの作る美少女は現実と距離がある感じがしますね。

永島:僕の中での理想の美少女像があるので。現実感から離れているっていうのが根本にあって、顔にはモデルがいません。幻想の中の美少女というのがテーマなので、女神や精霊を使うことが多いんです。


───出身地の島根県の影響を感じることは?

永島:ありますね。神話になじみが深いのでテーマとしても自然と出てくる。ネタとして使いやすいっていうのもあります。それも含めて自分の作りたい少女像と神話の世界はリンクしています。

───テレビゲームからも着想を?

永島:主人公が女の子を使えるゲームをよくプレイします。「モンスターハンター」は自分の好みに合わせて女性の主人公に装備を付けられるのが好き。
根付のデザインを考えるときとやっていることが近い。ゲームは好きなのでなんでもやります。キャラクターメイキングの要素が強いゲームははまりやすいですね。「DARK SOULS(ダークソウル)」はとくにはまりました。顔を微調整して作るフェイスメイキングはすぐ崩れちゃって難しいんですよ。

───ゲームから発想を得るのは顔ではなく装飾品?

永島:そうですね。
自分の中にもう理想の顔の形があるので。そこに自分の手でどれだけ近づけられるかというのがあります。ダークソウルは西洋のきれいな装飾品が出てくるので特に影響を受けましたね。一時期武器や盾なんかを参考にして西洋風の装飾の根付を作りました。

───ゲーム以外で影響を受けているものは?

永島:マンガだとキャラクターがネタになることもあります。動物とか妖怪とか、これは使えるなと思うと作りたくなる感じですね。

あとは一枚絵とか参考にします。知り合いのイラストレーターのYUU菊池さんは顔の好みの傾向が似ている感じ。YUUさんの作品は見ていると自分もそういう顔の根付を作りたいなと思う。いいものを見ると創作意欲が湧きます。村田蓮爾(むらたれんじ)さんは初期のころとか参考にしていました。

───以前木彫フィギュアを作っていらっしゃいましたね。

永島:根付とフィギュアはデザインをするとき感覚的に全然違いますね。木彫フィギュアは一本の木を彫るのではなくパーツを 組み合わせて作ります。

───またフュギュアを作る予定は?

永島:今年も一作、作っておきたいなと思っています。作りたい欲求に合わせて作っている感じですね。

───根付はバストアップ(上半身のもの)の作品が多いですよね。

永島:根付独特の丸みのある形に合わせるとそうなるんですね。直立のものもいくつかありますが、他の作品とはぜんぜん別の作り方をします。『女神校生』のような全身のものは丸くするために動きを付ける。足を曲げてギュッとする感じ。

───永島さんの根付はぶらさげて使っても大丈夫ですか?

永島:展示会に出すので納品したものをお借りしたとき、がしがし使っているものがありましたが大丈夫でしたよ。

───高価な根付を付けるには勇気がいりますが(笑)。これからやってみたいことは?

永島:ちょっとポップなものを攻めたい。ずっと神話みたいなモチーフが多かったので、何か違うアプローチをしたいですね。より現代風味のものを美少女物で作りたい。よくある煙草入れとかポーチとかにつけられるものが作れたらいいかなと。コップのふち子さんみたいな「ここにいる感じ」がするものとか。そういったアプローチもできたらな、と思いますね。

(石水典子)

「美少女の美術史」は7/12〜9/7青森県立美術館で開催後、9/20〜11/16静岡県立美術館、12/13〜2/16島根県立石見美術館を巡回する予定。
「現代根付作家 永島信也」
「永島信也」と「閑溟」の二つの銘(作家名)で制作。「閑溟」では古根付の意匠から発想した工芸的な作品を制作。「永島信也」は美少女やキューブ状、スイーツと組み合わせた根付など。現代的なデザインの作品を作り自分の表現を模索する。
モチーフは初音ミク。江戸の伝統美術「根付」が美少女になった

画像提供:Gallery花影抄/根津の根付屋