連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第20週「さて、問題です」第120回 8月19日(土)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:松木健祐
「ひよっこ」120話。ようやくわかった、ぱるるは重要だった
イラスト/小西りえこ

20話はこんな話


引き続き、みね子(有村架純)、由香(島崎遥香)、時子(佐久間由衣)、早苗(シシド・カフカ)による、〈月時計会議〉のもようが描かれる。

みね子の島谷問題


すごい。
同じ場面で1日かけることは「ひよっこ」ではもうお馴染みだが、なんと2日間、月時計会議。

増田明美も「長かったですね」とナレーションで言っていた。

岡田惠和は、拙著「みんなの朝ドラ」でインタビューした時、1週間同じ場面で会話が続くとかどうですか?と聞いたら、さすがにそれは・・・と言っていたけれど、2日はいけたってことですね。

正確には、最後の5分は、保留になっていた愛子(和久井映見)と富(白石加代子)の話だったが。

めんどうくさい、由香


母が働きすぎて亡くなってしまったことを、父・省吾(佐々木蔵之介)と祖母・鈴子(宮本信子)が自分たちのせいと悔やんでいるのを見てきた由香(島崎遥香)。
「(悲しいことあっても)忘れることはできなくても考えないようにしないと生きてなんかいけないと思うんだ」
そうわかっていても、
「でも私の存在がさ、鈴子さんとお父さんを楽にしないんだ。毎日楽しく生きてちゃいけないと思わせてしまうんだよね」
「(明るくふるまうことが)うまくできないし、そうしようと思うとなんかいやな感じになっちゃうし」
と思って、家を出たと告白する。
困った娘は「演技」で、「ほんとはね素直でいい子」なのだそうだ。
素直っていうのは、母が死んで悲しい気持ちを隠しきれないっていうことなのであろうが、父と祖母に対しては全然素直じゃない。でも、そこは、みね子が「面倒くさい人ですね。でも何となく私、わかります」とツッコミつつ、受け止める(楽しげな劇伴をかけて、シリアスにし過ぎない)。

みね子は、由香と対照的に、悲しいことがあっても笑って、家族に負担を感じさせないようにできる子だ。
由香にはそれがまぶしかったのかもしれない。しかも、そんな子が、自分の抜けた家で、娘のように可愛がられていて、父も祖母も悲しいことを忘れたように笑顔で過ごしているのだから、もやもやして絡んでしまうのも無理はない。


「由香はどんな奴だった問題」と早苗(シシド・カフカ)はまとめた。
どんな「生き方」でなく、どんな「奴」。これは視聴者の思いの代弁でもある。
ぱるるが「ひよっこ」に出るという情報はかなり煽って伝えられ、大変、期待されていたが、
実際は、そんなに出てこない上、ヒールじゃないかと言われていたわりに、実はいい子だということが
そうそうに明かされてしまい、どういうふうに彼女を観ていいか、いまひとつ掴めないままだった。
今回、ようやく、解決した感じ。
まさに、「由香はどんな“奴”だった問題」が解決した。

最強の名台詞


自分を改めて見つめたものの、こんがらがった家族関係の修復になかなか踏み切れない由香を、みね子は諭す。

「親から何かしてもらうことを期待してる。それが子供の証拠です。
自分から親のことを考えて動く。親を赦す。それが大人だと私は思います」


「ひよっこ」史上、最強の名台詞。名台詞の収蔵庫の奥にしまって、数年に一度御開帳されるくらいのありがたさでございました。


みね子は、何も成さない、朝ドラ史上、平凡中の平凡ヒロインのように讃えられているが、こういうふうに物事を受け止めて、実行するほうが、どれだけ非凡で、難しいことか。
それが、みね子と同じ昭和21年生まれの、甘えん坊・由香によって、明確になった120回であった。
ぱるる、たまにしか出てこないが、とても重要な役だった。

脚本がうまいのは、めんどうくさい由香の葛藤の場面に、ヤスハルの弾き語り「この広い野原いっぱい」を挿入し、それを、たまたま省吾と鈴子が聞いて、和んでいることで、間接的に、由香と、省吾たちがつながっているように感じさせること。
ヤスハルは伝言係に相違ないが、とてもいい仕事をする伝言係だ。
大事なのは役割(肩書)ではなく、その仕事の内容なのだ。

おそろしい絵


夜、寝ていた愛子の部屋にやってきた富。漫画家たち(岡山天音、浅香航大)がいないと不安を漏らす。
部屋に入ってみると、ぎゃーーー!!! 
この悲鳴に、帰ってきたみね子たちもびっくり。
富を戦慄させたのは、漫画家たちが描いた、富の絵だった。
「人間よ」と言わせてみたり、白石加代子を、そんなふうにおもしろとして描いて、いいのか不安になるが、圧倒的な超越者だから、いいのか。
白石加代子さまの、ピン!と張った表情筋は、これぞ、アンチエージング。
ほんとうに鍛錬を感じさせて素敵だ。

そんなこんなで、楽しい劇伴(題名「茨城一番ごじゃっぺ伝説」)が21週の予告編に誘う。
「吹き荒れるミニスカートは、女たちの解放なのだ」と意気揚々と語るナレーション。
月時計会議は、女たちの解放の前哨戦だったのだ。
(木俣冬)
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