連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第20週「さて、問題です」第116回 8月15日(火)放送より。 
脚本:岡田惠和 演出:松木健祐
神回「ひよっこ」116話。終戦の日、クイズに託された思い
イラスト/小西りえこ

116話はこんな話


豊子(藤野涼子)が「勝ち抜きクイズ3Q」に出場し、そこでの活躍を、乙女寮のメンバーで視聴する。

逆転劇の楽しさ


ドラマというより、クイズ番組を観ているようだった、手に汗握る15分。

藤野涼子の、クイズに賭ける表情(所作や台詞の発し方。
時々噛むところなども)が、迫真!
司会が、60年代、実際に放送されていた早押しクイズ番組で司会をしていた押阪忍で、その語り口がリアルなのと、クイズ番組の中でかかる音と、ドラマの劇伴との二重攻撃も含めて、臨場感がハンパない。

「いいことが明かされる」とあらかじめ言っちゃっているのだから、結果は予想がつくのだけれど、みんな、固唾を呑んで、テレビを観続ける。秋田にいる優子(八木優希)も、嫁ぎ先で応援している。

文学、スポーツ、雑学等、幅広い設問を、どんどん答えていく豊子。
最終決戦で苦戦するも、最後の問題で、驚愕のスローモーション。
なんて鮮やかな展開だろう。

乙女寮の思い出と友情の堆積が、渾身で込められていた。
クライマックスのないドラマだった「ひよっこ」に、はじめて、クライマックスが訪れたと言ってもいい。
それも最高に痛快でハッピーな逆転劇だ。
ここまでよく出来ていると、もはや、現実ではこんないいことあるわけないとか斜に構える余地もない。
フィクション最高。フィクション万歳。
難しいこと考えずに、楽しまなきゃ損である。


ひとつだけ、難しいことを考えてしまうとすれば、この日、8月15日は、終戦記念日だった。
この日に、クイズ番組で優勝して、ハワイ旅行を勝ち取った少女は、たまたま難しい苗字だった少女(松本穂香)を連れていく。そんなドラマが描かれた意味に、願いと祈りを感じずにはいられない。

「澄子、澄子、ハワイ、行くど」
かっこいい、豊子。
勉強したかったのにさせてもらえず、家のために働きに出された少女・豊子が、働きながら勉強を続けて、自分の力で、家の借金を返済した上、同じく恵まれない境遇の同世代の少女・澄子に偶然とはいえ助けられ、逆境を乗り越える。
そして、その御礼をちゃんと返す。
主人公・みね子が、長らく傍観者化していて、いまひとつカタルシスがない分が、豊子の活躍で解消された気分。また、そこに、男子が介入してないところも、よし、である。

愛子(和久井映見)が言うように、やっぱり、がんばってたらいいことがある。そう思って、1日の活力にするのもよし。
さらに、深読みするのもよし。
それには、これだ。
クイズの設問に出てくる、ドストエフスキーの『罪と罰』は、非凡な人間は、もっともらしい理由があれば、凡人を殺しても構わないと考え、実行に移した主人公ラスコーリニコフの物語。貧困から脱したいがために、お金を持った老婆を殺してしまった彼が、信仰を貫く純粋な少女ソーニャと出会ったことで、どうなっていくか・・・。
大義名分のためなら、誰かをおざなりにしていいのか。
終戦の日に、誰かに問わずにはいられない。

でも、単純に、早苗さんの逆さまのアップ(ペギィ・モフィットみたい)と、「なんだろう、すごく痛い」もかわいかったですね。

またニワトリも鳴きました。
(木俣冬)