新垣結衣、松田龍平ダブル主演の水曜ドラマ『獣になれない私たち』。キャッチフレーズは「『全ての頭でっかちな大人』に送るラブかもしれないストーリー」。


先週放送された第2話までを見ると、いろいろなしがらみや常識、ルール、社会の事情によってがんじがらめになっている現代人にとって、“恋愛”って何だろう? どういう効用があるんだろう? そもそも恋愛ってどうすればできるんだっけ? と問いかけている作品のように思える。

公式サイトのトップにあるガッキーが松田龍平の唇に指をあてて、松田龍平がガッキーの肩を抱いている写真を見返すと、なんだか違うドラマのようだ。いったいこの先、どんな展開になるのか見当もつかない。その見当のつかなさが視聴率に反映してしまっているようで、第2話は8.5%だった。
「獣になれない私たち」「選べないヤツは選ぶ気がないんだよ」松田龍平の言葉が弱い人達に突き刺さった2話
イラスト/まつもとりえこ

晶と恒星の最大の共通点とは……


IT系のベンチャー企業で社長のパワハラにさらされながら仕事を続ける深海晶(新垣結衣)はコンサバなオフィスファッションをガラッと変えて、社長の九十九(山内圭哉)に業務内容の改善要求を突きつける。しかし、晶の覚悟は「グレる」という言葉で矮小化され、社内で「残念な中学生扱い」されてしまった。ちょっと笑っていいところなのかそうでないところなのかがわからない……。


クラフトビールバーで出会った会計士・税理士の根元恒星(松田龍平)は晶の話を聞いて、「服から入る意味がわからない」と毒づく。「誰だって服より中身じゃないの?」と言って、晶に白い目で見られる恒星。「中身ってハートって意味もあるから」と抗弁するが、ゼロ秒で「あなたの場合はないと思う」と言い返される。

晶の服装は一言でいえば「強そうな服」。自由奔放に生きる橘呉羽(菊地凛子)がデザインしたブーツを起点にしていた。服について、恋人の花井京谷(田中圭)の母・千春(田中美佐子)にメッセージアプリで「私は、人に強く言えなくて、負けてしまうところがあるので、ひとつでも変われたら」と打ち明けていた。


一方、恒星のもとには中小企業の社長・勝俣(八嶋智人)が訪れていた。破産を逃れるため、粉飾決算の書類に印を押してもらおうと見事な土下座をキメる勝俣だったが、恒星は「土下座するような人が一番嫌いなんですよ」と冷たくあしらう。

有能だけど人に強く言えない晶。有能で人にドライに接することができる恒星。ふたりは真反対のように見えるが、大きな共通点があった。それは頭でっかちで「恋に落ちる」ことができないという点だ。


世の中、弱い人間とダメな人間だらけ


第1話では晶が仕事で追い詰められていく様子が克明に描かれて視聴者から悲鳴があがったが、第2話では“弱い人間”“ダメな人間”が世の中のあちこちにいることがびっちり描かれて再び視聴者の悲鳴を誘った。

まずは晶の同僚の上野発(犬飼貴丈)。今にも夜行列車で北へ帰って連絡船に乗りそうな名前だ。仕事が絶望的にできない彼は、大事な契約書を持ったまま無断欠勤していた。有給休暇中なのに松任谷夢子(伊藤沙莉)に頼まれて部屋までやってきた晶に、上野はせつせつと訴える。

「僕、向いてないんです、この仕事」
「夢も貯金も何にもありません」

入社半年で向いているか向いていないかなんてわかるのか? と思う人もいるかもしれないが、「石の上にも三年」なんてフレーズは過去のものだ。晶はそれがわかっているから、そんなありきたりな引き止め方はしない。
彼女が持ち出すのはお金の話だ。上野は仕事をやめたいが、やめると明日からの生活に困ってしまう。一言でいえば、ままならない。上野は突然、恋愛の話を持ち出す。

「希望が欲しいんです。恋愛って贅沢品じゃないですか」
「明日のメシがないときに恋ができますか? 人生詰んでるときに相手のこと考えられますか?」

仕事ができなければ貯金はできない。
生活に余裕がなければ恋愛もできない。ちゃんと就職していて、ルックスだって悪くない、若くて可能性に満ちあふれているはずなのに、人生の負のスパイラルにハマってしまっている。これが今の日本のリアルなのだ。少々コミカルに描かれてはいるが、上野が他人に見えなかった視聴者も少なくなったはずだろう。上野は恋に活力を求めるが、第1話で「恋がしたい」と言っていた晶とそう変わりはない。

もう一人は、京谷の部屋にパラサイトしている元恋人・長門朱里(黒木華)。
仕事が大変そうな晶からのメッセージを勝手に盗み見て「やめちゃえばいいのに」と言い放つ朱里だが、かつては彼女自身が職場の人間関係に苦しんでいた。

会社をやめたいのに家賃が払えなくなるのでやめられない。見かねた京谷は恋人の朱里を買ったばかりのマンションに住まわせて、朱里は会社をやめることができたのだが、再就職はままならず、結局、別れた後も無職のまま4年間、京谷の部屋に住み続けてきた。

京谷に責められると「私だって好きでやめたんじゃない!」と怒る朱里。「逆ギレ」といえばそれまでだが、朱里には朱里の事情がある。人間関係で悩んだ後、仕事にブランクのある人の再就職は難しい。バイトなら見つかるだろうが、自活には遠い。先行きは真っ暗だ。彼女の逃げ場は優柔不断な京谷の優しさとネットゲームしかない。

京谷の優しさと晶の苦しさ


第2話では、晶と京谷の出会いも描かれていた。

6年前、京谷が勤める会社に晶が派遣社員としてやってくる。リクルートスーツにひっつめ髪で飲み会の男たちの酒をつくらされている晶。それを「やらなくていいよ」と止めに入ったのが京谷だった。有能ぶりを発揮し、京谷をアシストしながら活躍する晶。仕事を通じて、ふたりは徐々に距離を縮めていく。

このままバリバリ働き、男社会で土下座や腹踊りを連発して出世すれば『義母と娘のブルース』の亜希子さんになれたかもしれないが、そんなことはありえない。晶は2年で会社を“卒業”し、部長が紹介してくれた会社(現在の職場)で正社員として働くことになる。

なお、2018年10月から労働者派遣法によって派遣社員は3年以上同じ職場で働くことはできなくなっており(改正施行されたのは2015年)、中途採用がない会社である以上、部長のとった行動は最大限の晶に対する誠意ということになる。好景気で人手不足の日本の実態がこれだ。

晶の送別会の後、追いかけてきた京谷と他愛のないおしゃべりに興じて、帰り際にキスを交わす。2年かけてゆっくり育んできた恋愛だった。京谷はふたりが恋に落ちたきっかけを「歴史」と振り返っている。

それから4年。ふたりの恋愛は行き詰まっていた。晶は仕事に疲れ果て、京谷との関係にも疲れ果てていた。

「世の中には、人の涙で自分の涙を止めようとする人がいます。
負けないで、自由に生きてください」

京谷の母から晶に送られたメッセージは含蓄の深いものだが、その後のメッセージが「何かあったら京谷に遠慮なく言ってね」で晶はまた深く落ち込むことになる。彼女が落ち込んでいる半分以上の理由は京谷にあるのだから。

「他の人、好きになりたい」と立ち上がる晶を京谷は抱きしめるが、これも一時しのぎに過ぎない。京谷は有能で優しい人間だが、その分、問題を抱える朱里を切り捨てることができず(そもそも人を「切り捨てる」って何だ?)、本質的な解決策を見出すことができない。

有能で聡明なほど恋は遠ざかる


「俺はね、相応な人間なんで。背負えないものは背負わないし、口先だけで大丈夫、なんとかなるとか言ってるヤツが一番嫌いなんだよ」

恒星は京谷と正反対の人間に見える。有能なのは同じだが、京谷と違って徹底的にドライだ。勝俣に何度土下座をされても眉一つ動かさない。

「選べないヤツは選ぶ気がないんだよ」

恒星の正論は勝俣だけでなく、上野、朱里、京谷、晶、つまりすべての弱い人間、ダメな人間に突き刺さる。選択肢はあるはずなのに、目の前のことにとらわれて気づかない。あるいは気づかないふりをしてやりすごそうとする。喉元過ぎれば熱さを忘れる。しかし、今の時代、喉元を過ぎ去っても自然に状況が良くなることはない。「選びたくても選べないこともあると思う」という晶の反論は、本質的な解決を先送りにしているだけである。

恒星は日本的な情(土下座がその最たるものだ)に流されず、本質的な解決策を提示することができる。勝俣には粉飾決算ではなく、民事再生の道を示して弁護士を紹介した。

一方、いろいろなことに行き詰まっていた晶は、呉羽が運命の人と出会ったときに頭の中で鳴る鐘の音を聞こうと、横浜にある聖アンデレ教会に行く。恒星が付き添っているのは、晶への下心なのか、直感と感情で動く呉羽への畏敬の念があるからなのか。

「人間は進化の過程でいろんな能力を失ったわけですよ。聴覚、視覚、嗅覚、それから直感。脳が発達して考える力が増すほど、直感は曖昧になっていく」

今の社会を生き延びるには有能であることが必要だ。だけど、有能で聡明(つまり、頭でっかち)であるほど恋からは遠ざかる。すぐに人の匂いを嗅いでハフハフ言っている「獣」に近い岡持三郎(一ノ瀬ワタル)が「一瞬で恋できます!」というのと正反対である。直感と感情をビジネスに活かす呉羽はどう見ても稀有な存在だ。

人間の弱さとダメさ。聡明な人間の恋との遠さ。その背後にある現代社会。二つの大きな問題と背景が絡み合って、第1話と同じく見ているほうもドンヨリしてしまう第2話だった。そういえば、晶の待遇改善もまったく進まなかったね……。今の日本の社会を覆うドンヨリ気分はかなり手強い。本日放送の第3話は今夜10時から。
(大山くまお)

「獣になれない私たち」
水曜22:00~22:54 日本テレビ系
キャスト:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
音楽:平野義久(ナチュラルナイン)
主題歌:あいみょん「今夜このまま」
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治(ケイファクトリー)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中