第5週「信じるんです!」 第29回 11月2日(金)放送より
脚本:福田 靖 
演出:安達もじり
音楽:川井憲次
キャスト:安藤サクラ、長谷川博己、内田有紀、松下奈緒、要潤、大谷亮平、
     桐谷健太、片岡愛之助、橋本マナミ、松井玲奈、呉城久美、松坂慶子、橋爪功ほか
語り:芦田愛菜
主題歌:DREAMS COME TRUE「あなたとトゥラッタッタ♪」
制作統括:真鍋 斎
「まんぷく」29話。萬平のモデル安藤百福はハンコを作っていない。ドラマオリジナルのエピソードがイイ
イラストと文/木俣冬

29話のあらすじ


忠彦(要潤)が戦争から帰ってきたものの、目をやられて絵が描けなくなっていた。
そんなある日、闇市で、福子(安藤サクラ)と萬平(長谷川博己)は加地谷(片岡愛之助)の変わり果てた姿を見つける。

忠彦さんの戦争の傷


香田家はにわかに人手が増えた。
忠彦が帰ってきたうえ、神部(瀬戸康史)が居候させてほしいと戻って来たのだ。

人手が増えたが、そんなにやることはない。神部は大阪帝大出の秀才らしく子どもに勉強を教えることに。
神部の寝る部屋をどうするのかという話になると、忠彦がアトリエを提供すると言い、抱えていた苦悩を語りだす。

戦争の爆撃によって視力が弱り、赤と緑の区別がつかなくなっていた忠彦。
外見はなんにも問題なさそうに見えるが、内側では哀しい変化が起こっていた。
このシーンの前、赤と緑の鳥の絵をじっと見ていた理由はそれだったのだ。

ツイッターでは、主に漫画家の方たちが、モノクロで漫画を描けばいいとつぶやいて、「忠彦さん」が「萬平さん」と並んでツイッタートレンドいり。

私の知り合いに赤と緑の区別がつかなくても絵を描いている人がいて、問題なく、むしろ独特の色彩感覚で良かったので、忠彦さん、いまはショックだろうけれどきっとまた絵を描き始めることができると思う。

鈴は「まともな仕事に就いてくれるのね」と言うが(彼女なりの励ましなのか本気なのか)、福子は「忠彦さんは絵を諦めることはできないと思います」「忠彦さんはふつうの人とは違うって」「(夫であり父である前に)その前に忠彦さんは画家やって」と言う。

そのうち福子も、萬平さんは「ふつうの人とは違う」「(夫であり父である前に)その前に萬平さんは発明家やって」といやというほど思い知らされるに違いない。
ただ、忠彦さんは虚業(悪い意味に捉える方もおられますが決して悪く言っているわけではありません。芸術とはそういうものです)で、萬平は実業であるところで棲み分けができている。
ついでに真一(大谷亮平)は実業のようでも虚業のようでもある金融業で、三者三様に設定されている。

アトリエで寝ながら鳥の目におびえていた神部は何になるのだろう。

「加地谷圭介という男は 戦争で死んだんや」


いろんな生き方があることを、闇市の描写で一気に描く。
安達もじり演出、「べっぴんさん」でも闇市描写担当だった気がする。

季節は夏から冬へ。
人生の縮図のような闇市で、加地谷がハーモニカをふいていた。
福子が加地谷の前に置かれた缶を奪って顔を上げさせて本人確認する動作が良い。


加地谷のせいで萬平さんがひどいことにと怒る福子。
加地谷はすっかり弱気になっていて「日陰で生きていく」「君の才能が羨ましかったんやろうな」「もう生きてる意味がわからへん」「加地谷圭介という男は 戦争で死んだんや」と嘆く。
戦争に行ってないのに。自分で勝手にかき回して人を陥れたのに。
でも萬平は憲兵隊に捕まったから福子と結婚できたようなものと赦す。ようできた人!
だが彼の赦しの気持ちは、あとでもっと名場面となる。


お風呂シーン再び


闇市から帰ってお風呂にはいりながら(お風呂を炊いているのは神部)、福子と語る萬平。

萬平「世の中は、人を恨むことで頑張れる人間というのがいるのかもしれない。でも僕はそうじゃない」
福子「なんて人のいい」
萬平「福子 おまえは加地谷さんのことになると義母さんそっくりだな」

神部がしゃがんでお風呂を炊きながら、萬平の話に耳を傾けているところにちらほらと雪が舞う。なぜか妙にいい画。
翌日、雪がやんで、地面にぽたぽたと水滴が落ちている。ちょっと曇り空。

萬平に預かったものを神部が加地谷に届けに来た。
“あなたの人生の主役はあなたなんですから”という伝言を「おれにはよう意味がわかりません」と言うと去っていく神部。

小さな袋に入っていたのは、「加地谷」のハンコだった。
加地谷の顔に陽光が差す。日陰から日向へ。
絵に描いたような名シーンではあるが、前夜の雪からちゃんと繋げているところがちゃんとしている。


萬平は、名実ともに“自分を証明する”ハンコを作り、人に生きる希望を与えている。
有言実行。ほんとうに人のためになるものを作っている。
まさに、実在する偉人の“伝記”という内容である。
だがしかし、ハンコづくりは、モデルの安藤百福の実話ではなくドラマオリジナル。
ハンコは確かにとても大事なもので、様々な契約にはハンコが必要。その人の身代わりみたいなものであるハンコを人生と置き換え、戦争でアイデンティティを失った者たちの再生の小道具として描いたアイデアはなかなかのもの。
全話のほぼ5分の1(5週、1ヶ月分)の終わりに、いい盛り上がりが来た。

ちなみにわたくし、わけあって関西に来ているが、「おはよう関西」でもアナウンサー(たぶん芳賀健太郎アナ)が「忠彦さん帰ってきてほんとうに良かったですね」と朝ドラコメントしていた。各地方のコメント有り無しが気になる。
(イラストと文/木俣冬)

連続テレビ小説「まんぷく」
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

朝ドラ「べっぴんさん」もBS プレミアムで月〜土、朝7時15分から再放送中。 
こちらも戦争から夫が帰って来た。第29話レビューはコチラ