美しい景色に出会ったらパシャリ、オシャレなごはんがテーブルに置かれてもパシャリ――。インスタグラムの隆盛とともに、若者の肉眼はすっかりスマホのカメラレンズに置き換えられてしまった。
しかし、“インスタ疲れ”により、今後若年層の利用者が減少する可能性があると指摘するのは、立教大学でマーケティングを教える有馬賢治教授だ。
●ユーザー主導のコンテンツは成熟とともにライト層が離れていく
まずはインスタグラム流行の背景から分析してもらおう。
「以前、配信した『“映える写真”至上主義=自己愛過剰消費へのシフト…「平成」消費読み解き総括』(※https://biz-journal.jp/2019/04/post_27662.html←リンク埋め込んでください)でも指摘しましたが、SNSの流行によって消費の主流がモノ消費からコト消費にシフトしました。広く浅い関係性の知人が無数に存在するSNSの中のコミュニティでは、他者がすでに所有している可能性のある“モノ”では他者への優越のシグナルにはならず、独自の体験を報告したほうがより優越をアピールできるからです」(有馬氏)
ここでいう“モノ”とはファッションアイテムや高級品など有形の商品を指し、“コト”はイベントやツアーなどに参加した体験や無形のサービスを指す。
「彼、彼女らはこうした“映える写真”によって承認欲求を満たしていますが、なぜこれがスタンダードになったのかといえば、“映える写真”を演出するのは、モノ消費を誇示するよりもはるかに手軽だからです。あえて高額な出費をしなくても、日常風景をセンスよく切り取って披露できれば注目される可能性があるからです。その結果、若者は『リア充』よりも『フォト充』を追い求めるようになったのです」(同)
しかし、いくら手軽とはいえ映える写真を撮影できるシチュエーションはネタが切れてくる。それにより継続的に映える写真をアップすることから “インスタ疲れ” を感じるユーザーが顕著になるのではないかというのが、有馬氏の分析だ。
「UGC(ユーザーが投稿する画像や動画によって構成されるコンテンツ)の寿命は、決して長くありません。
●次世代SNSと従来SNSでユーザーが二極化する?
冒頭のリスキーブランドの調査では、ピーク時の15年は19.5%という数字を誇ったFacebookのアクティブユーザーも、18年は16.9%と減少気味。Facebookとインスタグラムのサービスが開始された時期のラグを考えると、サイクルとして今後インスタグラムが利用者数を減らす未来も当然予想される。
一方、インスタグラムより早い08年に国内サービスを開始しているTwitterは、連絡手段としても普及するLINE(53.5%)に次いでアクティブユーザー率27.6%の2位。依然多くのユーザーを抱えているどころかいまだに増加しており、16年からの伸び率はむしろ上昇している。
「それはインスタ映えするような写真を投稿し続けるのは無理でも、ネット上のコミュニケーションには参加したい層がTwitterに回帰しているからではないでしょうか。継続的な写真のアップに疲れてしまうと、ROM(Read Only Member=他人の投稿を読むだけのユーザー)になって参加することも可能ですが、それでは自己の承認欲求は満たされません。その点Twitterなら短文だけの投稿で自己を表現できるので、相対的には負担なく自己をアピールしていけます。そういったユーザーにとっては、インスタグラムよりTwitterのほうがアクティブユーザーでいやすいということなのでしょう」(同)
旧来のSNSといえるTwitterがその手軽さから盛り返している一方で、短い動画を加工して投稿する次世代SNSといえるTikTokも10代に定着している。SNSを利用する側も、先鋭的なコンテンツを積極的に受け入れる層と、SNS自体から離れることはできないものの原始的に承認欲求を満たそうとする層の二極化が、今後は進むのではないか。
有馬氏も「いずれにしてもSNS自体が廃れることはなく、若い世代の台頭でSNS全体のアクティブユーザー率はどんどん上昇していくはず」と予測する。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)