たとえば、こんな問題。

一酸化二水素は、“「水酸」の一種で、常温では液体です。
無味無臭なので、無味溶媒や冷却材などに広く使われています。
悪影響もあり、ときに重度の火傷を引き起こします。多量に摂取すると健康に重篤な障害が現れ、死に至ることもあります。
水道水にも多く含まれていますが、日本の水道水質基準には、現在この物質の規制がなく、成分として記載されることはありません。”

さて、一般消費者に「一酸化二水素の含量を規制すべきか」というアンケートをとると、次のどちらの答えが多かったでしょうか。

1:一酸化二水素は規制すべき
2:一酸化二水素は規制しなくてもよい


もうひとつ紹介しよう。


右分けと左分けで髪型が異なるだけの人物イラスト。一般にどちらが好印象をもたれるでしょうか。
1:右分け
2:左分け

(解答は、後半に!)


最新の「認知バイアス」練習問題集『自分では気づかない、ココロの盲点』に登場する問題だ。
著者は東京大学・大学院薬学系研究科・准教授の池谷裕二。
大ヒットした『海馬』『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』『脳には妙なクセがある』など、最先端の脳科学の知見をわかりやすく解説する本を出している。

最新の著作『自分では気づかない、ココロの盲点』は、130ページちょいのコンパクトさ。

「認知バイアス」というのは、「人が何かを認知するときに起こる偏り」のこと。
脳は、世界をあるがままに見ていない。勝手に解釈して歪めて、認識している。
その偏り方、認知バイアスを体験してみるための「問い」と「解説」を紹介しているのが、この本だ。
まず、さきほど紹介したような、問いが、イラストとともに見開き2ページで示される。
「どうだろう?」と考えて、ページをめくると、解説が見開き2ページ。


この構成で全30問が繰り返されるドリルになっている。

だから、すらすらーっと読んでしまってはもったいない。
「問い」を読んだら、自分で考えてみること。
認知バイアスの練習問題だってわかってるので、問いには騙されないかもしれない。
たとえば、最初に紹介した問題だと、どうだろう。
日常生活のなかで、その情報を得れば、うっかり「けしからん、規制すべきだ!」って条件反射的に思ってしまうかもしれない。

でも、こういう問題だから、「まてよ……」と考える。
そう。一酸化二水素は、ひとつの酸素、ふたつの水素だから、えいちつーおー、水なのだ。
“記述はすべて正しいものですが、このように説明すると、なんと92%が「規制すべき」と答えました”。
解説が続く。
“かつて、これを利用したテレビCMがありました。
ある化粧品会社がシャンプーの宣伝で「ジンクピリチオン配合」と謳ったのです。”
不思議なのは、「ジンクピリチオン」が何かも、どんな効果があるかも知らないのに、「ジンクピリチオン配合」と言われると「効きそうだ」と思ってしまうことだ。
「バクスリテトロン配合」でも「ホンマトアキシン配合」でも(どちらも、いま考えたデタラメな名称だ)、なんか効きそうだなーって思ってしまいそうである。
“以来、科学者コミュニティでは、チンプンカンプンな科学用語で非専門家を煙に巻くことを「ジンクピリチオン効果」と呼んでいます”。
本書のもうひとついいところは、それぞれの認知バイアスに名称が記されていることだ。
巻末に、「認知バイアス用語集183」もあり、名称と簡素な説明が載っている。

曖昧性効果
圧縮効果
後知恵バイアス
アドバイス効果
アンカリング
一貫性バイアス
インパクトバイアス
オーストリッチ効果
などなど。
「ジンクピリチオン効果」ではないが、特殊用語を見るとゾクゾクするタイプ(ぼくです!)にはたまらない。

さて、右分けと左分けの問題。
じつは、右分けのほうが好印象なんだって!
右利きの人は、視野の左側を重要視するので、相手にとっての左視野、つまり自分の「右側」が注目されやすいそうだ。
“魚料理は頭を左に置いたほうが食欲をそそりますし、本やポスターは左側にイラストを描いたほうが自然に頭に入ります”。
よし、今日から右分けにしてモテモテだ(拡大解釈バイアス)!(米光一成)

『自分では気づかない、ココロの盲点』(池谷裕二/朝日出版社)