“どれだけ殺したら、幸せになれるの?”
『フジコ』全6話の配信が、11月13日よりHuluとJ:COMで始まる。
公式サイトに飛んで、ぜひ尾野真千子が演じる血まみれの女の姿を動画で観てほしい。鬼気迫るとはこのことだ。
いよいよ、ネット配信ならではのハードな日本製ドラマの登場である。


ドラマのあり方が変わってきた


いわゆる「連続ドラマ」は、テレビ地上波で放映されてきた。
お茶の間のテレビをつけると流れている。
チャンネルを変えられたらおしまいだ。
一般的な視聴者を想定し、その場その場で瞬時に魅了しなければならない。
これは悪いことではない。
大勢に愛されるドラマがたくさん作られた。
ところが、有料映像配信の文化が成熟してきて、ドラマのあり方が変わってきた。
視聴者が選んで、自分の意志で映像を観る。
誰にでも愛される内容ではなく、選んでもらうために、「その人」に向けた強烈なモノが生み出されるようになった。
たとえば、海外では『ハウス・オブ・カード 野望の階段』『ブレイキングバッド』『ナルコス』『ニュースルーム』『ホームランド』などのモラルを超えたタブーだらけのドラマが続々登場している。
大人だけの禁断のドラマもアリの世界になってきたのだ。


過激すぎて映像化は不可能


そういった流れが、いよいよ日本制作のドラマに立ち現われようとしている。
『フジコ』だ。
Huluオリジナル製作、全6話。
尾野真千子が連続殺人鬼を演じるハードでグルーミーでダークなドラマ。
『殺人鬼フジコの衝動』が原作だ。
イヤミス(嫌な気分になるミステリー)として話題になった真梨幸子のベストセラー小説。
“過激すぎて映像化は不可能”といわれ、さらに手記形式で一人称で記述されているため映像化には向かない小説だ。
それを、こんな形で映像化するとは。


ジャーナリストの高峰美智子(谷村美月)は、拘置所で女と話をしている。
女は、10数人もの人間を殺害し、整形を繰り返した殺人鬼フジコだ。
高峰の手元には、フジコの実の娘が書いた原稿がある。
内容は、「フジコの半生」。
出版するために、フジコから話を引き出しているのだ。
38年前、まだフジコが少女だったころに起こった「中津区一家惨殺事件」に話が及ぶと……。

虐待、いじめ、殺人。陰惨な映像が続く。しかも、じわりじわりと歪みが描かれていく。
「所詮親のようにしか生きられない」
呪いのように繰り返される言葉が、精神を蝕んでいく。



チャレンジするように飛び込む


公式サイトに主演の尾野真千子が、自らの心情をコメントしていて、それが、この作品がどのようなものかを的確に示している。
“最初、台本を読んだ時、「殺人はあってはならない悪いもの」という思いから断りたいと思いました。台本の読後感が「むごい、ひどい、つらい」の三拍子で、とてもひどかったからです。正直、こんな衝撃的な役どころから自分を守りたいと思いました。”

だが、尾野真千子はこの役を受ける。
高橋泉が日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した映画『凶悪』を観たからだ。『フジコ』の脚本も高橋泉の手によるものだ。
“それでも不安がとれないまま撮影に入り、決して納得して演じたわけではなかったのですが、つくり手の誠実さに賭けました。一言だけで片付けられない、人間の深部に問いかけてくれる部分があるドラマだから、ふんぎりをつけ、受け入れ、チャレンジするように飛び込むことができました。”

飛び込むようにして観てしまう。冷静ではいられない。
監督は、『電車男』『赤い糸』の村上正典。
出演は、尾野真千子、谷村美月、リリー・フランキー、浅田美代子、真野響子、丸山智己、高橋努、川島鈴遥。

続きを観たくないとすら思う。が、観てしまうだろう。観ないではいられない。ああ、誰か助けて。
(米光一成)



【Huluオリジナルドラマ『フジコ』(PCはこちら、スマホはこちら)】