寒くなってきて、熱いコーヒーがよりおいしい季節となってきた。日本におけるコーヒーは1700年頃、江戸幕府初期に長崎に停泊したオランダ船により伝えられたとされている。
鎖国時の日本で、唯一、世界への窓口であったのが長崎の出島であり、オランダ商館があったことからだとか。

日本人で初めてコーヒーを飲んだのは太田蜀山人(おおたしょくさんじん)という人物とされており、「こげ臭く味わうにたえず」と書いている。そういえば、三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ「新選組!」でも石黒賢演じる桂小五郎がお膳にのせたコーヒーを飲むシーンがあったが、あまりの苦さに思いっきり顔をしかめていましたっけ……。

坂本龍馬も日本初の会社とされる「亀山社中」を長崎で作り、いち早くブーツを履くなど新しもの好きだったことから当然、コーヒーも味わったことがあったはず。当時は限られた人の飲み物だったコーヒーも次第に洗練され、庶民が気軽に味わえるものとなっていったわけだが、そんなコーヒーの黎明期、幕末の志士たちが味わったコーヒーはどんな味だったのだろう……。

と、そんなロマンをかきたててくれる、「幕末コーヒー」なるものを長崎で発見。

日本初のマグカップで味わう、龍馬気分で飲みたい「幕末コーヒー」とは?

コーヒー好き&幕末好きとしてはこれは見逃せない! ということで早速入ってみることに。



バタヴィア産の豆を、当時の文献を参考に焙煎


日本初のマグカップで味わう、龍馬気分で飲みたい「幕末コーヒー」とは?

「幕末コーヒー」は、いかにも長崎らしい異国情緒が漂う「大浦天主堂」や「グラバー邸」のすぐそばにある私設美術館、「長崎南山手美術館」併設のカフェ「Museum Cafe 南山手8番館」がオリジナルで出しているもの。オーナーの常川さん夫妻によれば4~5年前から提供しているもので、当時の味をできる限り再現しているそう。
「坂本龍馬と幕末の長崎」という企画展を行った際に、お客さんのなかにこのカップに目を留めた人がおり、『このカップでコーヒーを飲んだら、龍馬の気分になれるね』と言ったことが開発のきっかけとなったそうだ。

「日本で最初に伝えられたコーヒーの銘柄は『モカ』だったといわれていますが、1865年頃には酸味の少ない、アラビカ種の豆が入ってきていたようです。江戸時代のコーヒーというのはちゃんとした焙煎機もないため、苦くてどうしようもないものだったようですが、この頃になるとグラバーさんなど外国人の手ほどきもあり、焙煎などもかなり上手にできるようになっていたんですね。再現するにあたっては、当時、東インド会社の拠点だったバタヴィア(現・インドネシアのジャカルタ)産の豆を取り寄せて、当時の文献を参考に、通常より深煎りにしています」

実際に飲んでみたところ、これは……かつて飲んだことのない風味! しかし、香り豊かでクセが強くないので、喉にするすると入っていく軽やかさ。
個性がありつつ、飲みやすい、飽きのこない味わいのコーヒーであった。お土産に豆を買って帰りたいという方も多いそうで、200gずつパッケージングしたものをカウンターで販売されているとのこと。ネット通販などはされていないので、まさにここでしか手に入らない長崎の味といえるかも!


日本初のマグカップで飲むから、さらにおいしい?


日本初のマグカップで味わう、龍馬気分で飲みたい「幕末コーヒー」とは?

さらに、コーヒーの味を再現しているだけでなく、幕末期に日本で初めて作られた博物館級のマグカップで味わえるところもすごい。このカップは、先祖代々、長崎で海運業を営んでいたという常川さん宅に長年残っていた貴重なものだそうだ。1杯800円と通常のコーヒーよりやや値段はお高めだが、このカップで味わえるというのがうれしいですよね?
伊万里焼のカップ側面に描かれたモチーフは南天? もしくは長崎名産の「茂木びわ」? と、お客さんもまじえていろいろな推測をしているそうだ。

不思議なのは、この骨董品のカップと、現代の新しいカップに入れてコーヒーを提供した場合、古いカップで味わうほうが美味しいというお客さんが多いのだとか。
「これは茶道の先生がおっしゃっていたのですが、長い年月を経るうちに器も育つというか、いろいろなものが染み込むことで、味わいが深く、やわらかくなるということがあるのかもしれませんね」と常川さん。


ちなみに、お冷やも長崎びいどろというのだろうか? このような、脚付きの美しいグラスで出してくれるのがうれしい。


1杯のコーヒーから広がる長崎の歴史


日本初のマグカップで味わう、龍馬気分で飲みたい「幕末コーヒー」とは?

話の流れで、やはり幕末期に長崎でつくられていたという「コンプラ瓶」なる、波佐見焼の瓶を見せていただいた。江戸時代に唯一、貿易を許されていた長崎・出島から、この瓶にしょうゆや酒を詰めて輸出されていたのだそう。

ぽってりしたかたちに、藍色で書かれた文字にも味があり、花入れなどにもよさそう。こういう「用の美」的なものが大好きなので、思わず見入ってしまった……。「JAPANSCH ZOYA」(ヤパンス ゾヤ)で書かれており、これはオランダ語で「日本のしょうゆ」という意味だそうだ。


と、そんなこんなで一杯のコーヒーから長崎の歴史を恒間見せていただき、大満足のティータイムに。いまやコンビニで気軽に100円コーヒーが味わえる時代だが、江戸期からのさまざまな経緯があって現在があるんだな……と日本におけるコーヒー史に思いを馳せてしまった私でした。
(まめこ)


※「長崎南山手美術館」では、10月16日より来年1月15日にかけて、幕末をテーマにした「坂本龍馬と幕末維新」の展覧会を開催(11月24日~12月9日まで工事により休業の予定があるので、サイトで要確認)。
勝海舟や西郷隆盛など幕末の志士たちの直筆の書のほか、公文菊遷の描いた坂本龍馬像など、本格派のお宝ばかり。展示をじっくり観た後に、「幕末コーヒー」を味わってみるのもオツです。