『おちょやん』第5週「女優になります」

第21回〈1月4日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』散々な18年を生きてきた千代が次にたどり着いたのは京都のキャッキャウフフなキャバレー
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

京都編は艶やかに

大阪道頓堀から川で大阪駅まで行って列車に乗って京都へついた千代(杉咲花)

【前話レビュー】みつえと千代の友情に感動 そして千之助と万太郎に吉本芸人をキャスティングした理由に納得

これまでの千代は、貧しい家に生まれ育ち、口減らしで大阪に出稼ぎにやって来て、ようやく自立できるかと思ったら、父親のテルヲ(トータス松本)の借金のかたにあやしげな店に売られそうになるという散々な18年間を生きてきた。「これからは自分のために生きますのや」と芝居茶屋のご寮人さん(篠原涼子)に背中を押され、旅立ったのが4週まで。


2021年、年明けは京都編。さっそく口入れ屋(白山豊)に仕事をもらいに行ったものの、簡単にいい仕事はない。なんとか紹介してもらったのは、あやしいカフェ。

まず立地があやしい。階段を下りた低い場所にあって、薄暗く、周囲にはやさぐれた感じの人がうろついている。野良猫も声だけだけどウロウロしているみたい。


そこは、ほんまもんの女優と飲める店的な触れ込みで経営している「女優に逢える店 カフェー・キネマ」。カフェという名の、キャバレーの元祖のような店。店長・宮本潔(西村和彦)は「監督」という設定になっている。ある意味、シチュエーションプレイの店である。プロマイドも発売している。

店の周囲の環境は悪いが、働いている女性たちは、女優の卵や女優志願のような人もいて、美人ぞろい。
画面がすっかり華やかになった。

この店は2階に住み込みできるが、給金はなし。客からもらうチップから手数料を引いたものが収入になる。それは芝居茶屋と同じシステムなので千代には問題ない。さっそく働くことにするが――。

いきなり千代、女優の道に?

カフェーといってもいまのカフェとは違って、キャバレー。いまのキャバクラみたいな感じで、男性客にキャッキャウフフな感じで接している。


朝ドラではときどき出てくるカフェ。前作『エール』では音(二階堂ふみ)が『椿姫』の役作りのために体験入店していた。『おちょやん』でも一応女優の洋子(阿部純子)は勉強のためにやっていると言っている。

朝ドラ絶対王者『おしん』ではおしん(田中裕子)の心の友的存在・加代(東てる美)が働いていた。そこの常連客にのちのおしんの夫がいたという流れになっていたっけ。

朝ドラという、世間では朝の爽やかで健全なドラマという認識がされている番組だから、あっさり描写になっているが、本当はもっといかがわしさもあっただろう。
『おちょやん』では、女優になるために頑張っている人、病気の家族のために働いている人、かつて男に騙された苦い思い出から男に復讐するためにやっている人など、悲しい感じにしないように気配りされている印象である。

テルヲに売られそうになったあやしい料理屋よりはマシとはいえ、まずこういうところで働いて、もっと悪質な店に行くしかなくなる女性もいたはず。それこそ『おしん』の加代は、次第に身を持ち崩していき、からだを売る店でからだを悪くして亡くなってしまうという悲劇が描かれた。

「あはぁ〜ん」みたいな甘えた声を出して色気をふりまく接客の様子を見て、千代は緊張するが、「これも生きるためや」「どっからでもかかってきい」と毅然と立ち上がる。色気とは真逆の方向性。

初めてついた客・老舗呉服屋の若旦那(田村ツトム)が、住み込みで相部屋になった宇野真理(吉川愛)に絡んでおおごとになったところを、達者なほげた(口がうまいこと)で見事に解決。
千代が軽妙な語りで相手をまるめこむ痛快な場面だった。こういう千代をたくさん見たい。杉咲花は声が澄んできれいなので、強気な発言も軽やかで不快感がないのである。

千代の活躍を、東京から来た映画会社の社長・黒木(ヨシダ朝)が見ていて、「(映画に)出てみないか」と声をかけてくる。就職一日目にして、早くも俳優の道に?

高城百合子が活躍していた!

女優といえば、高城百合子(井川遥)。千代が演劇に興味を持ったきっかけを作った人。時代の流れに逆らえず、舞台から映画に転身するため旅立っていった。


千代はカフェー・キネマのテーブルに、百合子の主演映画のチラシを見つけて微笑む。口数の多い千代だが、ここで、「百合子さん!」「私、この人知ってます」とか騒ぎ立てることなく、一言も発しないで、チラシを嬉しそうに眺めるだけ。監督(店長)にも何も気づかせない慎ましさである。

朝ドラは、画面を見なくても内容が理解できるようにできるだけセリフで説明されることが多いが、ここはじっくり見ていないとわからない部分。心のなかにしまっておく。それだけ、千代が百合子との思い出を大事にしているように思えた、ほっこりする場面だった。そのうち百合子との再会もあるか。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■阿部純子(若崎洋子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■朝見心(純子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■ヨシダ朝(黒木社長役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井川遥(高城百合子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami