沖縄県の那覇市内に沖縄都市モノレール線(ゆいレール)が開業してから16年。浦添市内への延伸区間がまもなく開業しますが、車両を増やして3両編成にする構想も浮上しました。

その背景にはハイペースで進む利用者の増加があります。

ハイペースで利用者が増加中

 戦後の長いあいだ、鉄道の営業路線が存在しなかった沖縄県。その那覇市内の那覇空港駅と首里駅を結ぶ、「ゆいレール」こと沖縄都市モノレール線が2003(平成15)年に開業して16年がたちました。現在は那覇市に隣接する浦添市内へ路線延伸事業が進行中。工事は終盤を迎えており、2019年4月からは運転士の訓練運転も始まりました。

沖縄「ゆいレール」で利用者急増、混雑激化 3両編成化は実現で...の画像はこちら >>

2両編成の列車が走るゆいレール(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 こうしたなか、開業からいまに至るまで2両編成で運転されているゆいレールの列車を1両増やし、3両にする構想が浮上しています。利用者が増え続けているためです。

 沖縄県は2019年2月、3両編成化のための調査費(約5000万円)を2019年度予算に計上。4月22日(月)には沖縄県や那覇市などで構成される検討会議が開かれ、2030年までに3両編成化を目指す方針が決められました(2019年4月23日付け琉球新報朝刊)。

 ゆいレールは沖縄が日本に返還された1970年代から検討が本格化。1996(平成8)年に工事が始まり、那覇空港~首里間12.9kmが2003(平成15)年に開業しました。

2019年夏以降には首里駅とてだこ浦西駅(沖縄県浦添市)を結ぶ4.1kmの延伸区間が開業の予定です。

 1日平均の利用者数は2003(平成15)年度が3万1905人でしたが、その後はリーマンショックなどの影響を受けた2008(平成20)年から2009(平成21)年ごろを除き、ほぼ一貫して増加。特に2015年度以降は毎年2000~3000人のハイペースで増え続けています。LCC(格安航空会社)の沖縄就航や訪日外国人観光客の増加、沿線に大型商業施設が整備されたことなどが、おもな理由です。2018年度は5万人を突破し、開業時の1.6倍となる5万2355人になりました。

車両を増やすのに必要なコト

 利用者が増えれば車内は混雑します。

朝ラッシュ時の混雑率は2011(平成23)年ごろが約80%でしたが、2017年度は120%まで上昇しました。これは1時間平均の混雑率で、列車によっては160~170%になっているといいます(2019年2月11日付け琉球新報朝刊)。

 国土交通省が示している混雑率のイメージでは、150%で「肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読める」ですから、それほど混んでいないように思えるかもしれません。しかし、ゆいレールは那覇空港に直結する空港アクセス鉄道。大きなスーツケースを持った利用者も多いため、数字以上に混雑が激しいといえます。

 こうしたことから、運営会社の沖縄都市モノレールは列車を増発。

2018年4月のダイヤ改正で、平日朝ラッシュ時の運転間隔を、従来の4.5分から4分に短縮しました。また、混雑すると乗り降りに時間がかかり列車が遅れる原因になるため、ドア付近のスペースを広くして乗り降りがスムーズになるようにした車両の導入も行っています。

 しかし、2019年夏以降の延伸開業で増加ペースはさらに拡大する見込み。このため、抜本的な対策となる増結(編成中の車両数を増やすこと)が考えられるようになったのです。

 現在の2両編成の定員は165人ですから、3両編成の定員は少なくとも250人くらいになりそうです。利用者数や運転本数が2017年度と同じで、最も混雑する時間帯の列車を3両編成で運転するなら、混雑率は2011年(平成23)年ごろと同じ80%程度まで下がると思われます。

 車両を増やすにはいくつかの課題があります。当然ながら増結用の車両を新たに製造しなければなりませんが、通常はホームを長くしたり、車両基地を拡張したりする工事も必要です。

 ホームの位置によっては軌道を移設するなどの大がかりな土木工事も生じますが、ゆいレールの駅や構造物は将来の拡張を考慮した構造になっているため、3両編成化に伴う大がかりな土木工事はほとんど必要ないと思われます。

初期の計画では4両編成だった

 ゆいレールは最初から2両での運転が考えられていたわけではありません。沖縄県土木建築部が制作した『都市モノレール計画概要』(1982年3月)によると、1日の利用者数は約7万人と想定。4両編成の列車を運転することにしていました。

沖縄「ゆいレール」で利用者急増、混雑激化 3両編成化は実現できる?

日本最南端の駅として知られるゆいレールの赤嶺駅。ホームは3両分の長さがあり、2両編成の列車より少し長い(2010年4月、恵 知仁撮影)。

 しかし、鉄道の営業路線が長らく存在しなかった沖縄で需要予測を行うのは相当な困難があったためか、その後は精査するたびに利用者数の見込みが減少。工事が始まった時点の想定では、1日あたり約2万5000人まで減りました。

 そこで、軌道は4両編成に対応した構造としつつ、駅のホームは3両分だけ整備。列車は2両編成で運転することになりました。これにより工事費や車両製造費を減らす一方、将来の利用者の増加にも対応できるようにしたのです。つまり、3両編成までならホームの延長や軌道の移設は不要で、工事費用を大幅に抑えられます。

 それでも、増結用の車両は製造しなければなりませんし、ホームドアや信号システムなどの改修も必要。総額では200億円以上かかる見通しです(2019年4月23日付け沖縄タイムス)。沖縄都市モノレールは2015年度以降、単年度の最終損益が黒字ですが、累積赤字は解消されておらず、大規模な設備投資を行えるだけの余裕はありません。

 3両編成化を実現できるかどうかは、国や沖縄県の支援がカギです。2019年3月に沖縄を訪れた菅義偉官房長官は「最大限の支援を行う」と表明。沖縄県の玉城デニー知事も4月25日(木)、政府に対して支援を要請します。このほか、一部の編成だけ3両にするなどのコスト削減策の検討も今後進められると見られます。

【画像】「幻の4両編成」計画図

沖縄「ゆいレール」で利用者急増、混雑激化 3両編成化は実現できる?

4両編成での運転が計画されていた1982年に沖縄県が制作した資料の車両図。3両以上の固定編成では運転室を設けない中間車が連結されるため、この図面では運転室がある先頭車(左)と運転室のない中間車(右)が描かれている(画像:沖縄県)。