「失敗知識データベース」は知識の宝庫!?
科学技術振興機構(JST)提供の<br><a href="http://shippai.jst.go.jp" target="_blank">「失敗知識データベースHP」</a>
科学技術振興機構(JST)では今年3月から「失敗知識データベース」を無料で一般公開している。
このデータベースは科学技術分野の事故や失敗を有効なものと考え、データベース化することで、失敗をものづくりに生かそうとする試みとして開発されたもの。
科学技術分野の失敗なんて科学にうとい素人が見ても全然分からないのでは? と思っていたが実際にのぞいてみると、「へぇ〜」の連続。「失敗を次のものづくりに生かす」というだけあって科学分野の門外漢でもわかるように失敗どころが分析、解説されている。

2006年6月でデータベースに収録された失敗事例は1135件。「失敗百選」として歴史上繰り返されてきた事例や、失敗が多い事例、社会に及ぼす影響が大きい事例も取り上げている。

また、利用者に多く閲覧されたランキングというのもあってこれもまた興味深い。
2006年6月の失敗事例ランキングでは、1位「三菱自動車のリコール隠し」、2位「深海無人探査機『かいこう』行方不明」、3位「スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発」となっている。
7位には「タイタニック号沈没事故」という歴史的な大事故もランキング。その中で私が興味を惹かれたのは15位の「合図ミスにより、列車を停めた」という事例。単純に言ってしまうと駅構内の工事中、列車に黄色旗を挙げる合図を送るところを誤って赤い旗を挙げて列車を止めてしまった、というもので負傷者もなく、単に列車が2分遅れたというだけのもの。
「な〜んだ、よくある事じゃん」なんて一瞬思ってしまったが、内容をよく読んでみてこのデータベースの凄さに改めて気がついた。
失敗の原因分析には以下のような項目があった(一部省略)。
・列車見張員は、合図旗の色を確認せずに退避完了の合図を行った。

・列車見張員は、黄色旗と赤色旗を同じ扱いにして、2本とも同じ尻ポケットに入れていた。
・列車見張員の携帯用具に対する事前確認、身に付け方のルールが決められていなかった。
この列車を止めてしまった列車見張員は夜間の列車見張りの経験は4回あるが、旗を使う合図は一度も経験がなかったとか。確かに、同じポケットに2本の旗を入れていて、色も確認しないで旗を挙げてたら、そりゃ誰だって間違う。単純作業だから誰でもできることだから、と説明や研修を怠ることがミスを招くといういい事例だ。難しいことじゃないんだから、こんなの誰も間違えるはずないよね、というところで人はミスをするもの、というのを改めて思い知らされました。


そして、私がこれぞ、“キング・オブ・失敗”と思った事例が1999年の火星探査機「マーズ・クライメート・オービター」の事故。
この火星探査機は火星周回軌道に探査衛星をのせる段になってメートルとヤードの換算ミスが原因で火星周回軌道に入れず火星へ衝突、破壊された。そもそもの原因は複数のエンジニアによる単純ミス。ヤード・ポンド単位で送信されたデータを受け取る側では常に単位はメートルを使用していたのでメートル法単位とカン違い。発射の際からこの状態であったにもかかわらず、誰も気づかなかったというまさかの大失敗。ヤード・ポンド法とメートル法では最初はわずかな誤差が生じただけだったが9カ月でエラーが蓄積し、失敗に終わった。
ちなみに探査機の損害1億2500万ドル、計画および管理費用などは約1億ドルだったとのこと。

その他、「長期保管の不飽和油脂(落花生の渋皮)の自然発火」とか、「えっ、そんなことが原因で」という思いもよらぬ事故原因もあったりと本当に色々と勉強になります。科学技術とは程遠い私でも失敗原因や対処、対策など参考にすべきところはたくさんあるようです。失敗続きで、とお嘆きの方々、是非この「失敗知識データベース」をのぞいてみることをおすすめします。
(こや)