2月23日、衝撃的なニュースが飛びこんできた。タイガーが交通事故を起こしたというのだ。
選手生命を脅かすほどのケガを負ったタイガーだが、不死鳥のようによみがえってくることを全世界の人々が信じている。それは、タイガーがこれまで何度も不可能を可能にしてきたからだ。20年前の「ザ・プレーヤーズ選手権」もそうだった。
タイガー・ウッズ、10年前の伝説の瞬間【動画】
PGAツアーの歴史上、スーパープレーと同様に数々の名実況が生み出されてきた。たとえば、1986年の「マスターズ」。ジャック・ニクラスがウィニングパットを決めてパターを掲げた瞬間に叫んだ、ヴァーン・ルンドクイストの『Yes, Sir!』や、『冬眠から目覚めたクマのよう』と表現したジム・ナンツの言葉がそうだ。

20年前の「ザ・プレーヤーズ」3日目もそのひとつ。2001年のTPCソーグラス、名物ホールの17番パー3(137ヤード)で、タイガー・ウッズのバーディパットに投げられた言葉だ。
タイガーはトップを追う立場。17番のティから、1組前のフレッド・ファンクがファーストパットの複雑なラインを慎重に読む様子をじっと見つめていた。しかし、ファンクのバーディパットはカップを超えて硬いグリーンからこぼれ落ち、4パットを喫してダブルボギー。その様子を見ていたにもかかわらず、タイガーの17番のティショットはファンクとほぼ同じ場所に落ちてしまった。

この日、他にも数名の選手がファンクと同じ悲惨な結果となっていた。タイガーは後に自身で「最悪なアイアンショット」と評したが、これでも言葉を和らげた方だろう。
実況を担当していたゲーリー・コークは、「全員グリーンからこぼれてしまった。傾斜を十分に読めておらず、ボールは右に切れてカラーまで行ってしまう」と解説した。優勝争いの最中のタイガーは、残り60フィートの難関をどう切り抜けるだろう。
素振りを終えたタイガーが打ったバーディパットは、他のどの選手ともラインやスピードが異なっていた。
転がり始めは真っすぐ進んだが、すぐに大きくフックして左へ、そこから急激にスライスし、ボールは吸い込まれるようにカップイン。コークはボールが転がり始めてすぐ、『Better than most(他の誰よりもすごいぞ)!』と叫んだ。
このコメントは、奇跡的なS字パットとともに、20年経った今でも米国ファンの間で鮮明に記憶されている。
「ファンクを見てどれだけ速いか分かったから、少し慎重にいった」とウッズは振り返る。「フレッドのパットを見て、右に切れることを見込んで、昔のグリーンの一番高いところをめがけて打った。それなのに右に行かなくて“切れてくれよ!”と思ったが、曲がり始めたらすぐに“もう切れなくて良い”と思ったね。
結果、カップの端から入ってくれたよ」
コークが実況で3度も繰り返した「Better than most」は、固唾を飲んでタイガーの1打を見守っていた観客のボルテージを徐々に盛り上げていった。1度目は、ウッズのボールがラインの中央から左に転がっていったとき。2度目は、ボールが急激に右へ切れ始めたとき。そして3度目に叫んだのは、ボールがカップに転がり落ちた瞬間だった。会場中の熱気を代弁するように、コークの声は徐々に大きさを増していった。
「2回目に叫んだとき、タイガーのボールが傾斜をくだるにつれて、その日に見たどの選手のパットよりも大きく左に切れているのは明らかだった」とコークは語った。
「そのままカップに吸い込まれていって、『誰よりもすごい!』と叫んだね。解説者としてのキャリアの中で他にも良い実況はあったと思うが、あれには及ばない」と答えた。
コークによると、ボールがカップインするまでの45秒近く、会場の誰も言葉が出なかったという。「タイガーのリアクションで、会場中が盛り上がった。当時、17番の周りに企業用のホスピタリティは設置されていなかった。グリーン周りは人でいっぱいで、絶叫していたよ。
当時のことを聞かれたら、あれが有名なタイガーの伝説の瞬間だと答えるね」
伝説的な瞬間に高揚したのは、ファンだけではない。同大会を単独3位で終えたベルンハルト・ランガーは、今でも大歓声が耳に残っているという。名シーンは、クラブハウスで昼食をとりながらテレビで見ていた。「タイガー・ウッズを連れてきて、20回同じパットを打たせても、同じようにはいかないだろう。あの切れかたとスピードは特別だった。大体の選手が4フィート以内に寄せられたら喜ぶ状況で、60フィートのあのラインを、彼は入れたんだよ」
誰もが、タイガーの凄さを改めて目の当たりにした瞬間だった。同じく競技者として参戦していたコリン・モンゴメリーは語る。「外していたら、カラーまで行っていただろうね。でも、あれを入れるのがタイガー。あれがタイガー・ウッズなんだよ」
「みんな、右の下り傾斜を読み違えた」と語ったのは、アーニー・エルス。「タイガーは、タイガー。だからラインも読み切れるし、当時も僕たちより優れていた」と振り返る。
3日目の出来事だったとはいえ、あの1打がプレーヤーズ初優勝にタイガーを近づけたことは間違いない。3日目を「66」、最終日を「67」で周り、ビジェイ・シンに1打差をつけて優勝した。
「あの時点ではまだトップを追う立場にあった。優勝を決定づけたというわけではないが、あれがきっかけになったのは確かだ。ラグパットの中では、上位に入る1打だろうね」と、タイガーは語った。
20年後でも“S字パット”が語り継がれていることからも、コークが叫んだ『誰よりもすごい!』という言葉は紛れもない事実だ。不可能を可能にした瞬間、タイガーがスターたる理由は、そこにある。

■タイガー・ウッズ自身が事故後初のツイート 選手、ファンのエールに感謝
■「タイガーは“スーパーマン“じゃない、生きているだけでほんとうに良かった」 マキロイ、ウッズの無事に安堵
■タイガー最終日の定番“赤黒ウェア” 回復を祈ってマキロイ、リードらが着用宣言
■ “ブチ切れキャラ”ハットン 怒る狙いはちゃんとあった!?【PGAツアー公式コラム】
■コース外でクラブをへし折ってみよう!? “怒れる”ゴルファーを集めたアンガーマネジメント【動画】