<ゴルフパートナー PRO-AM トーナメント 最終日◇22日◇取手国際ゴルフ倶楽部 東コース(茨城県)◇6804ヤード・パー70>
アベレージゴルファーなら1度は70台で回ってみたいと思うもの。それがプロになると、夢のスコアは50台。
これまで国内ツアーでは、倉本昌弘、石川遼、キム・ヒョンソン(韓国)の3人しか達成していなかった偉大な記録だが、先週のトーナメントでなんと2度の「59」が達成された。
近藤智弘はボールの線とパターの線を合わせて「59」を達成!【写真】
大会初日に池田勇太が「59」をマーク。そして、最終日には44歳の近藤智弘が最終18番でバーディを奪って60切りを達成。「もうビックリしたよ。本当に! 59って人生の記録だから」と喜びを爆発させた。
近藤のツアーでのベストスコアは「62」だった。
スタートの1番で「3メートルくらいのパーパットが入って、そこからもう自信がある感じ」と波に乗った。続く2番では3メートルのバーディパットを決めると、4、5番は連続バーディ。そして、9番から14番までは驚異の6連続バーディを奪った。最終日は首位と8打差の18位タイでスタートしながら、一気にリーダーボードを駆け上がってきた。
17番で「ワンピンちょっと」のバーディパットを沈めて、ついに一日で10アンダーの大台に乗せる。最終ホールがバーディなら「59」が出る。
「夢の50台があるなと思った。もう最後はワンチャンス、バーディがこないかなと(笑)。だからウワーッて感じで一人で盛り上がってた」。クックックックと笑顔が止まらない。
475ヤードの18番パー4は、平均スコア4.13の大会を通じて2番目に難しいホール。「最後は難しかったけどベストをつくしてやろう」。
近藤はセカンドショットをわずかにグリーンの右に外すも、パターでカップを狙える位置にあった。距離は5メートル。打ったボールがカップに吸い込まれるとコブシを握りしめた。
この日、11個のバーディを沈めたパターは、なんと「試合でトライしたいなと思って」今年初めて投入したオデッセイ『ホワイトホットOG 2ボールブレードTOUR LINED』。市販品は2つの白い丸を貫くように黒い線が入っているが、近藤のものは赤い線が入った特別バージョンだ。今大会では6本のパターを持ち込んで、初日、2日目はブレード型、3日目は中尺と、「毎日違うパター」でプレーしていた。

「今年は一回も使ってなかったパターですけど、『2ボール』は去年も何回か使っていて、フィーリングがいいので使ってみた。スタート前からすごくいいフィーリングで、コースでもことごとく入った。何となく入ったのではなく、すごく感覚が良くて入ったので、僕のなかではうれしいです。初めてなんだけど、初めての感覚ではないというか。すごくいい感覚がきた。よくわからないんですけどね」と近藤は興奮気味に話す。

替えたのはパターだけではない。ボールに線を引いて、打ち出したい方向に合わせ、そこにヘッドの線を合わせるようにした。それ以前は「神経質になるから」とあえて線は合わせてこなかった。
「乱視の影響もあって、アドレスに入ると構えた線がどうしても左に見える。構えたら気持ち悪いから、去年は最終的に線を引かなかった。どのみち、きれいに向けないので。
線は合っているけど、打つときに左に行きそうだから右に向いちゃう」。数年前から目標と目が合わない症状に苦しみ「線を合わせたり描かなかったり」試行錯誤してきた。
毎日違うパターを使い、大会2日目からボールに線を引き、最終日はアドレスに入ったあと「何回かカップを見ていくうちに合っていく」とルーティンも変えた。それによってグチャグチャに並んでいたパッティングのピースがピタッとそろった。
「59」を出してトータル22アンダーでホールアウトした時点で、「23(アンダー)か24(アンダー)は絶対いく」と、近藤はプレーオフには残れないと確信していた。実際、大槻智春がトータル23アンダーでプレー中だった。しかし、大槻が1つ落としてホールアウトしたことで、近藤と大槻、今平周吾がトータル22アンダーで並びプレーオフへ。最後は今平に敗れたが、再び取材エリアにやってきた44歳の表情には充実感が浮かんでいた。
「久しぶりだったので、何て言うのかな…。ドキドキなのか、なんかよくわからなかったですね。本当は『(優勝して)おじさん、頑張ったね』って言われたかったんだけど(笑)、それは残念。ただ、プレーオフの緊張するなかでもいいショットが打てるっていうのは、自分のなかで良い感触。メンタル的に3年くらい苦しくて自信もなくしていたけど、『59』も出せたし、ちょっとずつ自分のなかで進んでいる。自信を取り戻してもっといいゴルフがしたいなと思いますね」
優勝した今平にはプレーオフ前に「すごいですね」と言われ、「単純にうれしいよね。スコアがすべてだから」と近藤。17年に16年間守り続けてきた賞金シードから陥落し、19年には前年に返り咲いたシードの座から再び退いた。昨シーズンは生涯獲得賞金25位以内の資格で出場して、シード復活を果たしている。
「来月45歳だしね。宮本勝昌さん(49歳)とか藤田寛之さん(52歳)とか頑張っている選手を見れば、まだ若いなって感覚はあるけど、1年でも長く、そういうことをモチベーションにやっている部分もある。こういうゲームを若い選手とやれるのはうれしいです」
いまでは「朝の練習場は本当につらい」と体の衰えを感じている近藤だが、キラキラとした目の輝きはベテランのそれではなかった。(文・下村耕平)

■ゴルフパートナー PRO-AM 最終成績
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■今平周吾、勝負の流れを読んで近藤智弘を下しツアー6年ぶりの2週連続V
■今平周吾は2011年発売の中古クラブを3本購入「球が上がりやすくて距離も出る」
■ドライバーもパターも日替わりの大槻智春「最終日もフィーリングで決めます」