「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
駿河ちらし
静岡県富士市を拠点に駅弁を作り続けて、今年(2021年)で創業100年を迎えた富陽軒。
923形新幹線電気軌道総合試験車「ドクターイエロー」、東海道新幹線・新富士~静岡間
駅弁屋さんの厨房ですよ! 第27弾・富陽軒編(第5回/全6回)
富士山を横目に「ドクターイエロー」が、富士川橋梁を渡って行きます。ドクターイエローは、新幹線の高速運転を支えるさまざまな設備の状況を走りながら測定しており、その役割から「新幹線のお医者さん」と紹介されています。およそ10日に1回の運行とされていますが、いつ運行されるか公式発表はなく、見られるとラッキーということで“幸せの黄色い新幹線”とも云われます。
富陽軒・石井大介代表取締役
この富士川橋梁から少し東京寄りにある新富士駅の駅弁を手掛ける「富陽軒」。
923形新幹線電気軌道総合試験車「ドクターイエロー」、東海道新幹線・三島~新富士間
●まちの人が支える「駅弁」文化!
―30年前の大きな売り上げ減少経験が、今回のコロナ禍に活きているということですが、この1年あまりの間も、大きな影響があったのですよね?
石井:コロナ禍の影響による駅構内売店の休業などで、駅弁の売り上げは激減していますが、これまで培ってきた駅弁の製造技術はしっかりと守っています。富士・富士宮市内のお客さま、施設、病院などからいただいた弁当の注文に対しても、これらに使用する各種ご飯、おかずのレシピにも、駅弁の製造技術を活かしています。多くの旅人が、思い出を訪ねて富士を訪れる際には、いつでも対応できるように頑張っています。
313系電車・普通列車、東海道本線・東田子の浦駅
●人口減少社会を見据えて、「駅弁」文化を守るために……
―私も、身内が富陽軒の売店がある病院にお世話になったことがありますが、病院に「駅弁」があると、プチ旅気分が楽しめて、気持ちがポジティブになりますね。
石井:病院でのお客様の反応は、さまざまなお弁当のブラッシュアップにもつながっています。ただ、病院もいまの状態のまま続いていくとは思いません。
―明治初期の日本の人口は約3000万人、いまは4倍の約1億2000万人ですね。
石井:その意味では、いまが“異常事態”ではないかと。
373系電車・特急「ふじかわ」、身延線・稲子~十島間
●これからは「農業」の時代!
―コロナ禍で休業中の売店もありますが、いまはどのようなことをされていますか?
石井:富陽軒では拠点とする静岡県の富士・富士宮から山梨県の身延線沿線、静岡東部から伊豆半島の地域を巡りながら、新たな食材の発掘を行っています。多少売り上げを犠牲にしても、いまは次の時代に向けて、しっかりとした足場を作る時期ではないかと。例えば、身延線沿線の山梨県南部町や身延町では、放置された竹林の竹を使ったメンマ作りが始まっています。地元を回っていると、こういった食材に出逢えますから面白いですよね!
―なぜ、食材の発掘をしようと?
石井:「農業」の時代が来たと考えています。
駿河ちらし
新富士から新幹線の各駅に停まる「こだま」号でも、東京までは1時間ちょっと。富士から身延線の特急「ふじかわ」で、甲府までは約1時間50分。
駿河ちらし
【おしながき】
・酢飯 油揚げ ごま
・玉子そぼろ グリーンピース
・桜でんぶ
・桜海老
・椎茸煮
・鮭フレーク
・ガリ
駿河ちらし
ふたを開けると、パッと華やかな彩りが目に飛び込んできました。やっぱり、桜えびの甘く味付けされた佃煮は、桜でんぶとともに静岡らしさを感じさせてくれますね。これに鮭フレークの塩っ気と酢飯のサッパリとした酸味で、味のバランスを取りながらいただいていくのが、とても楽しいひとときです。
211系電車・普通列車、東海道本線・富士川駅
頭を雲の上に出した富士山に見守られ、東海道本線の普通列車が富士川駅を発車して行きます。ここから富士川の河川敷までは歩いて15分ほど。東海道新幹線・富士川橋梁もすぐそこです。さらに国道1号を越えた富士川河口の近くには、桜えびの天日干し場があって、春・秋の好天に恵まれた日には桜色の絨毯となります。本場の由比までは、約20分間隔で運行される普通列車で10分あまりの旅。次回、富陽軒・石井代表取締役のインタビュー完結編、駅弁のこれからを伺います。
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/