5月1日より映画『ラプソディ・ラプソディ』が劇場公開中です。作品としては小粒な印象がありますが、決して穏当なだけの内容ではなく、ピリリと刺激があり、先が読めない意外な展開もあり、見た後はちょっと勇気と元気がもらえる良作でした。


クスクスと笑い声が漏れたり、展開の驚きを共有できる劇場で見ると、さらに楽しめるでしょう。また、オフビートなコメディドラマに思えるところですが、後述する通り「別のジャンル」が顔を出すことにも注目です。

目玉は、主演の高橋一生が「絶対に怒らない男」にハマっていて愛おしくて仕方がないことと、NHK連続テレビ小説『まんぷく』の呉城久美が「触れるもの全て壊してしまう女」を熱演していること。そんな2人の「対決(?)」が大きな見どころになっていますし、さらに職場の同僚役の池脇千鶴との関係にも注目してほしいのです。具体的な魅力を記していきましょう。

■高橋一生が体現するお人好しで天然な主人公の魅力
あらすじから紹介しましょう。主人公の夏野幹夫は「ただ機会がないだけ」でこれまで結婚をしていなかった独身の中年男性。パスポートの更新をしようと市役所に行った時、彼は住民票に身に覚えのない「続柄:妻」の文字を見つけます。自身と勝手に結婚した「繁子」のことが気になった幹夫は彼女を探し始め、小さな花屋でようやく見つけるのですが……。
「なんで知らない人が勝手に自分と結婚しているの?」「どうやって?」という大きな疑問から始まる物語はミステリー的で先が気になりますし、その相手が見つかった時には躍動感のあるアクション(?)も展開します。

さらには、幹夫が「差し当たって離婚する必要もないですし」という理由で特に彼女を責めないどころか「許容」する、時には「詐欺によく遭う人?」とツッコまれるほどの主人公のおかしさがコメディにもなっているのです。

もはや引いてしまうレベルでお人好しで天然なキャラクターに高橋一生はベストマッチで、その演技力がいかんなく発揮されています。
どこまでも温厚なことがはにかんだ笑顔から伝わってきますし、本気で戸惑う様もキュートなのですから。
池脇千鶴にも絶賛の声。高橋一生が“結婚していた”ことから始まる映画『ラプソディ・ラプソディ』の魅力
(C) 2026 利重 剛
一方で、「街ですれ違う女性が自分と結婚しているんじゃないかと思って頭がおかしくなりそう」というセリフや、時おり垣間見える困った表情からは「この人ってけっこう無理をしているのでは?」と想像もできます。「絶対に怒らない男」ではあるけれど、わずかな表情の機微から「それだけじゃない」豊かな感情を読み取ることもできるのです。

特に注目してほしいのは、彼が時おり「鼻を2回こする」という仕草をしていること。どんな時にそのクセが出るのかを考えながら見てみると、その後の感動は、より増すのではないでしょうか。

■呉城久美の「怒ることをむしろ望んでいる」ことに共感できる理由
さらに興味深いのは、幹夫とは正反対で怒ってばかりで、しかも「私のこと一番イヤなのは私だよ!」などと自己卑下をしながらも、彼に「怒ることをむしろ望んでいる」繁子の心境です。
池脇千鶴にも絶賛の声。高橋一生が“結婚していた”ことから始まる映画『ラプソディ・ラプソディ』の魅力
(C) 2026 利重 剛
彼女は勝手に婚姻届に名前を書いて役所に提出するという犯罪まがいな行動をした上に、その相手に一方的に怒りをぶつける様はもはや「逆ギレ」。客観的には自分勝手で浅はかで、到底感情移入できそうにないのですが、呉城久美の演技力が活きた「必死で苦しんでいる」表情を見ると、幹夫が怒れなくなってしまうことにも共感できますし、さらに以下のように「一理ある」持論もぶつけているため、彼女の内面や「どうしてそうなったのか」も想像したくなるのです。

「「怒るべきことで怒らないってことは、相手のことどうでもいいってことだから、どうでもいいってことになるんだよ」」

なるほど、「怒りという感情は愛情の裏返し」でもある、というのは多くの人が共感できるものでしょう。ともすれば、繁子は彼に本気の愛情を求めているということですし、彼女の感情の強さが幹夫の心を揺れ動かして、いつか本当に怒ってしまうのでは(それこそが愛情なのかも)? とハラハラする様は、もはやジャンルがサスペンスに転換したかのようでした。
池脇千鶴にも絶賛の声。高橋一生が“結婚していた”ことから始まる映画『ラプソディ・ラプソディ』の魅力
(C) 2026 利重 剛
とはいえ、2人は書類上では夫婦ですし、周りから「お互いを知らないってことは、これから知り合えるってこと。ちょっとだけ順序が逆というだけだよね」と言われているように、奇妙な出会い方をして、一方的に怒りをぶつけられる関係でも、いつしか心が通じ合うのでは? という希望も持てるようにはなっています。


さらに、繁子が幹夫にお金を借りて、その金額から幹夫が目的を推理して、さらに「尾行」をしたりする様からは、「2人は考え方や価値観も似ているし、お似合いじゃないかな?」と思えたりもするのです。そのような関係の変化と、その後の「まさか」の帰結も楽しんでほしいです。

■自分に自信のない同僚役の池脇千鶴に絶賛の嵐
さらなる魅力が、幹夫の職場の同僚・毒島りずむを演じた池脇千鶴です。彼女が出演する本編映像は100万回近い再生回数を記録しており、「前からだったけど、ほんとすごい女優さんですよね」「うますぎてびっくり仰天」「今の池脇千鶴は磨きがかかってすごすぎる」など絶賛のコメントが多数寄せられているのです。池脇千鶴は2003年の『ジョゼと虎と魚たち』での傍若無人な女性の役の印象も強いですが、今回はそちらとは正反対の、本当に自分に自信のない中年女性そのものに見えます。毒島りずむという名前にも強いコンプレックスを持っていると想像できますし、「急激な感情の変化」は見たら忘れられないほどのインパクトがあり、好きにならざるを得ないのです。

彼女がこの本編映像のように泣くだけでなく、幹夫に毅然とした態度で、とあるアドバイスをする(というか叱る?)のは、本作屈指の名場面でした。

■まとめ:『ラプソディ・ラプソディ』のタイトルの意味は?
そうした悲喜こもごもな事態を経て、本作では「誰かと関わって、しんどい経験して、いろんな感情を抱いたことも、良いことなのかもよ?」というような、普遍的で本質をついたメッセージを掲げています。それは日常的に孤独を感じている人には誰かとの関わり合いのヒントになりますし、あるいは「今の自分」を肯定するきっかけにもなるかもしれません。
池脇千鶴にも絶賛の声。高橋一生が“結婚していた”ことから始まる映画『ラプソディ・ラプソディ』の魅力
(C) 2026 利重 剛
ちなみに、本作の初期のタイトルはジョージ・ガーシュウィンの名曲『ラプソディ・イン・ブルー』だったのだとか。監督であり主人公の叔父として出演している利重剛によると、その時には「ラプソディは狂詩曲、しかも自由な楽曲形式だから、けっこう合うんじゃないか」と仮でつけていたそうですが、最終的には「単語を重ねたかわいらしい響きと、基本は2人の話」ということで『ラプソディ・ラプソディ』というタイトルにしたのだそうです。

その言葉通り、本作は「誰かとの関係はラプソディのように自由でもいいかも」と肯定しているような作品でもありました。
「いつの間にか知らない女性に籍を入れられていた」というとんでもない関係の始まりから、そのような気づきに行き着くのですから、「そりゃあ自由でもいいよなあ」という説得力が抜群と言えるでしょう。
池脇千鶴にも絶賛の声。高橋一生が“結婚していた”ことから始まる映画『ラプソディ・ラプソディ』の魅力
(C) 2026 利重 剛
また、利重剛監督は「映画館を出た後もまだ映画が続いているように感じる映画が大好きです」と前置きをしながら、「街を眺めながら、あの主人公たちはその後どうしてるかなと想像してもらえるような作品を目指して作りました。『そう、たまにはこんな感じのものを見たかったんだよ』と言ってもらえるような作品になっていればうれしいです」と語っています。

最初に掲げた通り、本作は大きな作品ではありませんが、登場人物が本当にこの世に生きているような実在感があり、その後の人生を「元気かなあ」と想像したくなる作品でもありました。見て良かったと思っていただけることを、筆者も期待しています

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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